メドトロニックの子

「おい、少しいいか」


リチャードは術を施される度に声掛けをした。もちろん、あっさりとスルーされる。

しかし、諦めずに変化球を投げてみた。

「おい、お前、こんなことをして楽しいのか?」

すると、ふぅっという溜息が漏れた。それで性別がわかった。

女だ。

それもまだ年端のいかぬ魔女だ。看守どもの残虐性から種族を類推する事は容易だ。

エルフ族だろう。魔法を操る人間はトホホギスにありふれているが、その他は絶滅に瀕している。

リチャードはエテュセを思い出した。今頃、彼女は亡き父を偲んでいるのだろうか。

「そうだ、君! メドトロニックの子じゃないか?」

閃いたキーワードを突きつける。

「えっ?」

魔導士が消える前にマントから顔をのぞかせた。

ぴくぴくと長い耳が痙攣している。

「何をグズグズしているかっ!」

廊下の向こうから彼女めがけて怒号が飛ぶ。

「きゃあっ! ひゃん☆」

悲鳴が哀願に代わる。べりべりっと絹が裂ける音がして、「痛い、痛いです!」という喚きが遠ざかっていった。

「——!」

リチャードは焦燥感と使命感に苛まれた。何とかして彼女を助け出さなくては。

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