ジョセフソン・カルナックとお前の関係

「ジョセフソン・カルナックとお前の関係は養父子以外の何物でもないというのは本当か」

エテュセの身柄はトホホギス自警団に移され、そこで疑い深い刑務官が尋問を続けていた。

「ええ。何度も繰り返すけど。メドトロニックの森でわたしが置き去りにされた所を助けてくれたの」

眩い魔道光をこれでもかと浴びせられて、堀の深い美人顔がますますくっきりと、なまめかしい。

「ほう? 警戒心の強い黒エルフが…ただでさえ希少な子宝を危険な場所に捨て置く?」

口から出まかせもいい加減にしろ、と刑務官が机を叩いた。テル・マホガニー材の家具が乾いた音をたてる。

メドトロニックは絶滅危惧種であるダークエルフの生息地であるが、近代魔法の普及によって古風で時代遅れな黒魔法を使うエルフ族は急速な発展の波に駆逐されつつあった。

頑なに移住を拒む原住民は二極化が進んでいて、森を終の棲家と決めた長老たちと人間界に馴染めない頑固で保守的な若者の間でわずかばかりの資源を奪い合う階級闘争が激化しつつあった。

エテュセの両親は長老族の家系に育ち、金婚式を迎えてようやく一人娘を授かった。そして母猫が授乳期の子猫を育てるように大切に育て上げたのだが、思春期を迎える前に失踪した。

蒸発の理由としては妻が人間に横恋慕したとも、はねっかえりの若いエルフ男に言い寄られて痴情のもつれから死んだとも諸説紛々である。

それはともかく、幼いエテュセを幸か不幸か故意か偶然か、発見したのが藩士ジョセフソン・カルナック

。平定戦争で獅子奮迅の活躍をし、トホホギス王家から領地を授かったものの、放蕩の末に没落した戦士であった。

その後、ジョセフソンは道場主としてトホホギス王都の下町で武芸を教えながら細々と暮らしていた。

格闘技、と言っても太平のトホホギスにあっては健康長寿や美容痩身快眠快便に役立つ程度の存在価値しかない。

模擬剣を振りかざしてはゆったりとした挙動でなまった筋肉をストレッチし、血行を促すというフレーズで、効能らしい効能はない。

開場当初は歴戦の勇士が師範であるという前評判もあってそこそこ繁盛したが、講義の内容にガッカリした男性層がまず離れた。

それにともなって有閑マダムが退会し、残ったのは高齢者と興味本位で入会したまま惰性で続けているコアな女性だけだ。

トホホギス自警団はジョセフソン殺害の犯人を怨恨の線で捜査していた。リチャードという通り魔が衝動的に名もなき老藩主をいきなり射殺すとはにわかに信じがたい。

そうこうするうちにリチャードは当局に連行されてしまった。ジョセフソン道場は閑古鳥が鳴いているとはいえ、決して不人気というわけでもなく、既存の療法に失望した健康オタクや定期的に回遊してくる飽きっぽい日曜格闘家の受け皿として地味に需要があった。

つまり、地域密着型で愛されていたのである。


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