グレイバス監獄は難攻不落

グレイバス監獄は難攻不落かつ絶海の孤島にしつらえられ、死んでも出所できないと言われる。

何しろギャバス海は殺人鯨の聖域になっているし、グレイバス諸島には翼竜が群れている。監獄は完結したエコシステムを持っており、唯一のアクセス手段と言えば飼い慣らされたワイバーンが月に一度、囚人を護送してくる。

それ以外は出ることも入ることもかなわない。囚人の遺体は鯨の餌になる。

「看守どもはどうなってるんだ。連中だって人の子だろう」

「世襲制だ」

オルビスは即答した。同時に発言者の首が刎ねられた。甲板が血で汚れる前に遺体ごと蹴り落される。

血も涙もない野盗集団に温情は要らない。臆病者もの居場所もない。

彼は部下を引き締めると作戦会議を続けた。

「魔道防御の具合はどうか?」

「はっ! 信頼すべき情報によれば…」

「死ね!」

即座にハッサンの首が飛んだ。伝聞証拠に頼る怠け者も員数外だ。オルビス団のモットーは命知らず、だ。

「強行偵察を執り行いまして、しかとこの目に焼き付けてございます」

斥候を取りまとめるハンザが自信満々に述べた。グレイバス監獄専属の魔導士は百十四人。

全員がレベル7マジックを会得しているばかりでなく、経験点が億越えしている。

その凄腕たちがずらりと水晶玉を取り揃えて将来不安に立ち向かう。闖入の予兆があれば、いち早く察知し、万全を期す。

「そうか、挑戦状をありがとう。死ね!」

ハンザと斥候たちがどよめきながら暗闇の海へ放り投げられた。

全く油断もすきもありゃしない。接近遮絶、領域拒否を誇る要塞から生きて帰れるはずがない。

つまり、彼らは二重スパイであるということだ。そして、敵に塩を送りに来た。

「フン。魔導士だ? 護符だ? 剣の敵ではないわ」

オルビスは勇ましく血が染みた蛮刀を振り上げた。何万もの敵を豪胆に切り捨ててきた。

「みんな、よく聞け! どんな護符だろうと加持祈祷だろうと、無敵ではない。それが証拠に敗れた魔道王国は多かろうが!」

「「「応!!!」」

血の気の多い若者たちが呼応する。

「グレイバスの対岸に大攻勢をかけるぞ! 難攻不落の監獄? んなもん、戦に巻き込まれてしまえ!!」

「「「押忍!!!」」」

「ようし、その意気だ。リチャードを奪うぞ!」

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