-第13話-待ち時間
駅から5分ほど歩いて目的地であるスイーツバイキングに到着した。
ここまでの間ずっと安芸さんと姫芽さんが喋っているところを隣で相槌をうっているだけだった。
正直女子同士の会話に混ざれる気もしないし、2人が喋っているのを聞いているだけでも充分面白かったから、俺としては俺が変なことを言って場の空気を悪くするよりよっぽど良かった。
ガラス越しに店内を覗いてみるとうちの学校の生徒もちらほら見えた。
全体的には俺らの同じくらいの高校生のカップルや女子友達同士が多いようだ。
まあスイーツバイキングとか男子同士で来る人は少なそうだし、予想出来たことだ。
店内に入ると、やはり中は混雑していてファミレスのように名前を書いて待つような形式だった。
「結構混んでるね」
「あ、あそこ空いてますよお嬢様」
姫芽さんはいち早く待合室の空席を見つけ、主に指し示す。
「いや、大丈夫だよ姫芽。山口くんもいるしね」
「俺は気にしなくて大丈夫だから、座ってきなよ。ここまで来るのに疲れたでしょ」
「私はそんな早くへこたれません!」
彼女は断固として座ろうとしない。すると姫芽さんが耳打ちしてくる。
「お嬢様は昔からみんなに優先されてきたから、そういう気遣いに飽き飽きしてるんだよね。ここは大人しく座らせるの諦めた方がいいと思うかな。あ、姫芽に座って欲しいならそう言ってね!」
安芸さんは日本国内トップレベルのご令嬢だから、小さい頃からみんなから忖度されていただろう。
恵まれすぎていると逆にそれが嫌になるというのは良くあることらしいし、彼女もそんな反発のうちの一種なのだろう。
でも、彼女の人からの厚意に甘えずしっかり自分で生きていこうとする姿はとてもかっこいいと思う。
そんな出来ている立派な人が俺なんかに幸せにしてなんてお願いしてくるなんて、やっぱり本当に意味がわからないな。
「もう、何話してるの?私も入れてよ」
「いやいや、なんでもないよ。安芸さん、じゃあここで待ってよっか」
彼女はそうだねと相槌を打った上で壁に寄りかかった。
そういう一つ一つの動作はなんとも高校生らしいのに安芸さんがやると超人離れして見えるのは本当に不思議だ。
「それで山口くん。なんでスイーツバイキングなの?」
「それ姫芽も気になってた」
2人は声を揃えて俺が今日誘った理由を聞いてくる。
学校で困ってた時に、隣の席の人見てたら食べ物の魅力に気づいたとかそんなどうでもいい理由なのに、期待されるともっと凄いことを言わなければならない気がして言いづらい。
「ま、まあ行きの電車で広告見て周りの人たちも行きたそうにしてたから、安芸さんも行きたいかなって思ったんだけど、嫌だったかな?」
「ううん、全然大丈夫!昨日も言ったけど私も行きたかったんだよね」
彼女は首を大袈裟に横に振って俺の言葉を否定する。
こんなに当人からの評価が高いお店ならきっと彼女を幸せにしてくれるはずだ。
頼むぞスイーツバイキング。
俺は絶対に足を引っ張らないから彼女を満足させてくれ。
「それより梨花さんは今日は来ないの?」
「山口くん、梨花狙いだったの?」
「梨花は甘いものとかあんまり好きじゃないから、今日は代わりに姫芽が来たんだよね」
「姫芽は甘いもの好きだからね」
若干姫芽さんが変なことを口走っていたが無視した。なるほど。梨花さんはいかにもスイーツとか好きそうなギャルそのものな見た目をしているが、甘いものが苦手なのか。前に俺の心情を読んできていたし本当に優秀そうな気がして、ますます気になってくる。
まあ断じて姫芽さんが言うように彼女のことが好きとか気になっているとかそういう恋愛感情は一切ないが。
「そういえば安芸さんたちはスイーツバイキング来たことあるの?」
「私は初めてだよ」
「姫芽は数回だけあるかな」
安芸さんは初めてだったのか。だからこんなに楽しみそうにしてくれてるんだな。
スイーツが食べ放題とか女子高生にとっては天国のような場所だろうから、行ったことがないとなると期待で胸がいっぱいになっているに違いない。
かくいう俺も初めてスイーツバイキングに来たわけだし、どんなのが置いてあるのかと、安芸さんと出かけているという緊張を上書きするほど内心ワクワクしている。
「3名様でお待ちの山口様いらっしゃいますか?」
10分ほど待ったところで店員さんからようやく呼び出され、いよいよ俺たちは60分の戦いの場所、そして俺と安芸さんの約束の決着の場所へと向かっていった。
※※ ※※
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