-第12話-待ち合わせ

土曜日は授業が3限までしかないわけだが、それにしても早く授業時間が過ぎていった。


安芸さんとの約束を果たす今日。


色々と事前に考えておきたかったが、あっという間に終礼が始まりそして終わり担任が出ていってしまった。


今日は12時に駅前で集合して、新オープンのスイーツバイキングで行く予定だ。


計画しているときは思わなかったが、これくらいのスイーツなど安芸さんは家のお金でいつも食べられるわけだしこんなので楽しんでもらえるだろうか。


もしかして俺のひとりよがりだったりしてしまうのではないか。


高校生のデートでファミレスに行くのはお互いで過ごす時間が楽しいから食事の質など関係ないという考え方だが、別に安芸さんと俺は付き合ってるわけでもなんでもないしむしろ赤の他人なわけだから、彼女を食事1本で喜ばせる勝負しなければならない。


お願いされたからには叶えてあげたいが、本当に幸せになんかさせてあげられるかは分からないわけで彼女と会う前から俺は不安で胸がいっぱいだった。


俺はそんな心配事を抱えながらも帰宅する大勢の生徒たちに流されるように駅へと向かってしまった。


駅の学校から反対側に設定した集合場所についてスマートフォンを取り出すと11時45分と示されている。


学校から直行してきたわけだから妥当な時間だが、集合時間から15分前は少し気合いが入り過ぎているように感じられてしまうかもしれないな。


まあ今後元から住む世界の違う彼女に関わることなんてないからどう思われても大丈夫な気がするが。


5分ほど待っていると周りには大分うちの学校の生徒が増えてきた。


やはり駅前だし週末だしということで出かける生徒が多いのだろう。


そんな中うちの学校一の美少女で天使様な安芸さんと二人でいるところを見られたらどんな噂をされるだろうか。


全く今まで考慮していなかったがそうとう酷いことにならないか?


安芸さんは男がついたと思われるし、俺は彼女の弱みでも握っていると思われてしまうかもしれない。


俺は友達なんていないので全く被害はないが、彼女は学校一の美少女である前に国内有数の企業の令嬢だ。


彼女の社会的ダメージは計り知れない。


やっぱり今日はなしと言うことに出来ないだろうか。


行くとしてももっと遠いところで......。


そう連絡しようとスマートフォンを取り出してRINEを起動させたところで「......くん、ねえ」と声がした。


俺は少しびっくりして顔をはっと上げるとそこにはいつもの天使様フェイスの安芸さんと梨花さんではない方の取り巻きの女の子が立っていた。


「山口くん、遅れちゃってごめんね。待った?」


「いや、俺も今来たところかな」


正直10分くらい待ったがそれは俺が早く来すぎていただけだし、彼女は1秒たりとも遅刻していない。


むしろ集合時刻より早く来たくらいだから気遣ってそう言うことにした。


「やだー、山口くん。それじゃ付き合ってるみたいじゃん」


取り巻きの女の子が俺の事を指さしながら、からかうように言ってくる。


そういえばラブコメの定番シーンで「待った?」「今来たところだよ」みたいな会話があったな。


俺はそんなに興味が無いしあんま読んだことがないので気づかなかった。


ただ気遣っただけなんだけどな。


そんなに恋人同士のように見えてしまったりするのだろうか。


「いやいや、そんな事ないでしょ」


「そうだよ、姫芽。私と山口くんはついこないだ初めましてしたばっかなんだし」


「そ、そうですね。すみません」


安芸さんは恥ずかしそうにまた指をつんつんとつついているし、姫芽と呼ばれた少女は立派なツインテールを揺らしながら申し訳なさそうにしていた。


まあ俺と安芸さんが付き合ってるみたいなくだらないことは置いておいても、安芸さんに使用人がついているなら俺といても噂になることは無さそうだし一安心できた。


「それじゃあ行こっか!」


「姫芽さんもついてくるの?」


「もちろんだよ!もしかして姫芽いない方が良かった?あれあれ、山口くんさっき否定しといてやっぱりお嬢様と2人きりがいいのかな?」


「いや、そんなことはないよ。むしろ安心したというか」


「酷いよ山口くん、私は猛獣じゃないよー!」


「そっかー、山口くんそんなに姫芽と一緒がいっか!」


姫芽さんは安芸さんを挟んで反対側にさっきまでいたのだが、俺の隣まで移動していて今は俺が安芸さんと姫芽さんに挟まれる形になっている。


まさに両手に華という感じだ。


「あのお姉さんたち可愛いね」


「あの男はねえ、なんというか友達いなさそう」


周りにいた男子中学生たちが俺たちの方を見ながら好き勝手喋っている。


そうかよ友達いなくて悪かったね。


さっきから周りから見られていて、俺への視線ではないと分かっていてもとても恥ずかしい。


安芸さんはいつもこの視線を全校生徒分経験しているわけだから、その恥ずかしさとプレッシャーは尋常でないものだろう。


人気者は人気者なりに苦労しているんだな。


「そろそろ行こっか」


俺は挟まれている状況が我慢できなくなり、姫芽さんの方へと場所をずらし1人で歩き出した。


「もう、山口くん急ぎすぎ。どんだけスイーツ食べたいの」


「いや、俺はそんなつもりじゃ......」


「ふふ、分かってるけどね」


安芸さんは可笑しそうに笑っていた。


その笑顔は俺がお願いを了承したあの昼休みの時のような本当に可愛らしいものだ。


彼女に楽しんでもらえてるようで良かった。


これなら目的地につけば間違いなく任務を完了できるな。


「わ、姫芽を置いていかないでよ!」


物理的にも話の流れにも置いていかれていた姫芽さんが後ろからツインテールをぶんぶん走って追いかけてくる。


この子めっちゃ小動物みたいで可愛いなとか思いながら、彼女たちとたわいもない会話をしながら決戦の地スイーツバイキングへと向かうのだった。


※※ ※※


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