-第9話-野球


その後2限は座学で1限と同じように生徒は3分化し誰も幸せではなさそうな様子だった。


4限目は体育だ。今週まで体力テストがあり男女に別れて50メートル走やシャトルランなど様々なテスト項目を行っていく。


今日の男子の種目はハンドボール投げだ。


この競技はその名の通りハンドボールという手より少し大きいくらいのボールを掴んでより遠くに投げて飛ばせたら点数が高くなるというものだ。


この競技ではフォームを知っている野球部が身体能力の差にプラスされるため他の生徒にに比べてとても強くなる。


だからかさっきから野球部の練習がうるさい。


まだ着替えている最中だと言うのに「俺絶対50m飛ばすから見とけよ!」などと女子に自慢している。


女子らが「うそー」「そんな飛ぶわけないじゃん」とあしらっていたが、野球部の男子たちは俺が1番飛ぶぞいやいや俺だと昭和のお笑い芸人のように必死に張り合っていた。


そこまでして女子にいい所を見せようとしなくてもいいだろうが彼らにとっては譲られないものがあるのだろう。


やがてチャイムがなり女子は体育館へ、俺ら男子はグラウンドへと向かった。


グラウンドに俺が到着すると既にジャージを着たいかにもスポーツマンですと言った風貌をしている30代の体育教員が出席を取り始めていた。


幸い俺は山口なので少しあとから来ても名前の順番的にバレない。


周りを見てみるとみんなウォーミングアップをしていた。


肩を回す者、友達同士でフォームの確認のしあいをする者などがいたが、俺は運動が得意ではないしそんな事前のウォーミングアップで体力テストというどう人生生きていますかと問われていることがどうにかなる問題ではないと思うので、静かにしゃがみこんで出席で名前が呼ばれるのを待った。


全員の出席が取り終わり先生から軽い説明を受けて、出席番号順に測定をするとのことなので番号の早い人たちを見送りつつ俺は物陰に座った。


周りを見渡してみると先ほど女子たちと騒いでいた野球部は、陽キャ仲間とともに体力テストで使うボールとその辺に落ちていたバットを使い野球のように攻守に別れて遊んでいた。


「お前ボールはやすぎ」


「いやいや、こんなのも打てないのかよ」


彼らは笑って冗談を言い合いながらも、アウトの判定は両チームで話し合ったりしているためしっかりと勝ち負けにこだわっているようだ。


だけど全員普段部活の大会などでしているであろう真剣な表情ではなく、柔らかい馴染みやすそうな笑顔をしている。


この授業中の隙間時間を仲間と共に一喜一憂しながらも過ごしてとちも楽しそうそんな表情だった。


さっきボールが早いと言われていたピッチャーをしている背が高く坊主頭な彼は確か野球部のエースピッチャーであり、授業前に女子に50m飛ばすと豪語していた男子のうちの1人だ。


試合が始まってから並の高校生どころか彼らのように普段から運動をしているガタイのいい陽キャたちですら打てない豪速球を投げている。


言い草からして手加減はしているのだろうが、自分の力がどれほど凄いものなのか理解していないみたいだ。


「おいおい、これでも打てないのかよ」


「いや、拓海の球が速すぎるんだけだ」


「お前まじで女子にいいとこ見せたいからってムキになりすぎだろ」と周りの陽キャたちから笑いながらももう少し手加減しろよと暗に言われていた。


ちょうどそこで彼の順番が回ってきたらしく、教員からの招集に運動部的なノリの大きな声で返していた。


拓海と呼ばれた少年はバツが悪そうに頭をかきながら計測に向かっていった。


大きな手でソフトボールを鷲掴みにし円の端っこに立ち2歩踏み込んで勢いをつけ綺麗なフォームで投げた。


彼の投球は綺麗な放物線を描いて40くらいのラインの付近にに落下した。


「48メートルだな」


「くそ、もう1回だ」と彼は悔しそうに2投目を投げた。


さっきと何が変わったのか分からないフォームで同じようなルートを通っていたのだが今度は50のラインを超えていたような気がした。


そのまますぐ俺の番になり、適当に30メートルほど投げ消化した。


俺の後ろには5人ほどしないないため直ぐに解散となった。


「俺何メートル行ったと思う?」


「えー、40メートルとか?」


「いやいや、舐めてもらっちゃ困るよ」


「52メートルだぜ」


「まじで!すごいじゃん」


「拓海くん、やるね!」


教室にたどり着くと野球部の巨人の彼が先程の記録を先に授業が終わっていた女子らに誇るようにしていた。


こんなに誇らしくしているのにさっきの彼の勇姿を女子たちに見てもらえてないのは少し可哀想だなと思った。


だが女子たちからの反応は良く、彼も満更では無さそうな表情をしている。


「そうだよなすごいよな」と更に自画自賛を重ね、自分の得意分野でみんなに褒めてもらえてとても嬉しそうに、そして幸せそうにしているに感じた。


※※ ※※


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