-第8話-ヒミツの交信

俺は授業中だというのも構わずポケットからスマートフォンを取り出した。


校則では一応授業中のスマートフォンの使用は禁止とされているが、実際は形状化していて教員たちが取り締まっているところは見たことがない。


早速RINEを開き1番上に表示されている安芸美玲の文字をタップしてトーク画面を開く。


昨日送られてきたクマの踊っている謎のスタンプを横目で見ながら文章を打ちこんでいく。


『安芸さん。好きですか?』


いや、これでは告白みたいになってしまっている。もうふざけているみたいだ。


これに対しての返信は恐らく勘違いしないでくださいと本人からすら伝えて貰えず、梨花さんに頭大丈夫ですか?と囁かれて終わってしまうだろう。


だったらとまたチャットボックスに文字を打っていく。


『安芸さん。何か好きなものとかありますか?』


ここは無難に書くのでいいのだろうか。


いやこれも違う気がするなと思いバツボタンを長押しする。


勘違いやすれ違いは起こらないだろうが直接的すぎてこいつ何か狙ってないかと思われてしまうかもしれない。


実際自分からのお願いを聞くためだと頭のいい彼女なら気づいてくれると思うが、余計なことは考えさせたくないしこれもボツだな。


『安芸さん。趣味などありますか?』


さらに指を滑らせ入力した。


これが一番無難だし、お互いのことをよく知らずに連絡先を交換するまでの仲になった俺たちにとって必要な自己紹介の代わりになってくれそうだと思う。


よし、これで行こう。


『安芸さん。趣味などありますか?』


今思えば俺が授業中にRINEを送っているってことは安芸さんのクラスも授業中だったな。


授業中に通知音がなってしまっているのだとしたら本当に申し訳ないことをしてしまった。


まさかこんな人間関係に直接関係しないところでぼっちであることが支障をきたすとは思ってもいなかった。


ところが1分経った程のところで彼女からの返信が返ってきた。


『山口くん。ご連絡ありがとうございます。休日は習い事のお稽古なんかしてますね。うちの用事でほとんど自由な時間はありませんね』


『それと今は授業中ですよ。ちゃんと受けてくださいね。中間テスト2週間前ですよ』


安芸さんも授業中にスマートフォン弄るんだな。


真面目なイメージが強かったから授業中はしっかり授業を聞いてノートを撮ってるし、なんなら校内ではスマートフォンを使わないくらいのように考えていたからとても意外だった。


それはそうと彼女のことを考えれば思いつきそう返信だった。


やはり趣味は無しか。


習い事をやっているっぽいがあの書き方からして趣味と呼べるほど打ち込んでもいないのだろう。


となるとやはり俺自身で彼女が好きそうなことを考えて彼女を誘うしかないな。


デートの誘いみたいになってしまうが、はたして彼女は了承してくれるだろうか。


彼女から幸せにしてとお願いしてきて俺のために時間割けませんと言われてしまったらそれまでだが、限られた彼女の時間の中で最も喜んでもらえるプランを練らなくてはいけないな。


それに中間テスト2週間前なのか。


俺は自分で言うのもなんだがいつもクラス最底辺だ。


まあここまで見てもらったならわかると思うが授業も受けず塾も行かず家に帰っても勉強しない。


こんなんで成績良かったら世の中おかしいですもんね。


安芸さんを幸せにするために動く以上中間テストで赤点をとって補習を受けに行くのにも時間を取られるわけには行かないし、勉強も頑張らないとな。


そう思い授業を聞く体勢に入るが、やっぱりまだ何もしてあげられてない安芸さんのことが頭によぎってしまう。


安芸さんが幸せになれそうなことのプランを練るか。


今回が安芸さんと何かをするというのが初回だし彼女の好みもよく分からないので、まずはみんなに当てはまる幸せを感じられることをするべきだな。


人との関わりがない俺にはハードルが高すぎるので周りを見てクラスメイトたちを観察してみんなの情報を収集してみるか。


この教室にはノートを取っているもの、こそこそと話しているもの、スマートフォンを弄っているものと色んな人がいた。


だが皆特に幸せそうにはしていない気がする。


まあこの中年教員の話を聞くのが人生で1番楽しみにしていて生きがいですという人はいないしな。


これは今日1日クラスメイトたち普通の人間の幸せの洞察が必要だ。


チャイムが鳴り授業が終了したが、後半はめちゃくちゃ考えが捗って1文字も頭に入ってきていなかった。

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