-第3話-天使様からの告白
「こんにちは。山口くん突然連れてきてしまってごめんなさいね」
いつも俺がご飯を食べている屋上前の階段はいつも通り薄暗く、机や椅子が積み重ねられていて背景は同じなのに景色は全く違っていた。
天使様1人でこんなにも華々しく変わるものなのだろうか。
「それで、お願いってなんですか?」
「もう、梨花!それは言わないでって言ったでしょ」
「ごめんなさい。でも、そこまで言わないと来てくれなさそうだったので」
梨花とばれた少女はさっき俺をここまで連れてきた茶髪の取り巻きのことだろう。
やはり俺がお願いされることに気づけば絶対に行きたくないってことを感じていたのだろう。よく出来るやつだな。
「げふん。山口くん、私を幸せにしてくれない?」
わざとらしく咳払いをした彼女は唐突に衝撃のことを言った。
「俺がですか?」
「ええ、」
「俺はなんのいい所もないですし、安芸さんのことを幸せにしたい人は沢山いると思いますよ」
「えへへ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。でも私はあなたに幸せにして欲しいの」
いつも挨拶を返す時の固い笑顔とは違い、安芸さんは本当に可愛らしい笑い方をしている。
てか、もしかしてこれって告白!?
幸せにして欲しいだなんて...俺が息を飲んでいると梨花さんから「違いますよ」と囁かれてしまった。
「それで山口くんは受けてくれるかな?」
「いや、俺はそんな人を幸せにできるような人間では無いので」
「私、そんな事ないの知ってるよ?あなたよく老人ホームのお手伝いとかしてるんでしょ?」
安芸さんは目を輝かせ俺に詰め寄ってくる。
俺は自分の人生で出来ることは精々人の役に立つことくらいかなと思い、時々ボランティアをしている。
しかしなぜそれを安芸さんが知っているのだろうか。
「よく集会で名前呼ばれているじゃない。みんな薄々山口くんはいい人だって気づいていると思うよ」
うちの学校では始業式や終業式といった節目の集会で、優れた業績をあげた人が校長から名前を呼ばれる。
しかし、うちの学校はマンモス校なため余程聞き入ってないと俺の名前や俺のやった事には気づかないだろう。
こんな所まで天使だったとは流石だな安芸さん。
「そうなのかな?俺はぼっちだしこれくらいしかやることが無いからやってるだけでね。だから安芸さんのことを幸せになんて出来ないと思うよ」
「人助けができるって言うのはどんな理由でも本当にすごいことだと思うよ。だから、私にもほんの少しでいいからその優しさを分けてくれないかな?」
「これはあまり言いたくなかったのですが、一応謝礼は出しますよ」
梨花さんが横からそう告げてくる。
恐らく金目当てでは近づいて欲しくなかったのだろう。梨花さんが鞄を漁っていたので視線を向けてみると、よくドラマなんかで見るアタッシュケースのようなものを取り出していた。
学校一の美少女な天使様からの愛の告白のようなイベント、そして大金これらを積まれて尚意志を保てる男なんていないだろう。
「うん、分かりました。それで俺は何をすればいいんですか?」
「ありがとう山口くん。これからよろしくね」
そう言って安芸さん、いや天使様は俺の手を本当に嬉しそうに握ってきた。
その姿は本当に可愛くて思わず惚れてしまいそうだった。
「お嬢様、そこまではダメです。そんなことしたらお嬢様にゾッコンになってしまいますよ」
梨花さんに至福の時をとめられてしまった。
お嬢様?まあ確かにそうだが、みんなが天使様などと呼ぶ中なぜお嬢様なのだろう。それにゾッコンって...
「もう辞めてよ!梨花!」
「いたっ」
安芸さんに思いっきり叩かれてしまった。梨花さんへのツッコミみたいな感じなのだろうが、なんで俺へなんだろう...。
「ところで梨花さんと安芸さんってどういう繋がりなんですか?」
「私と梨花はね、幼なじみかな?」
「いえ、側近とご令嬢です」
「ねえ!梨花、私のこと友達だと思ってくれてるよね?」
安芸さんが目をうるうるさせながらそう聞く。
「まあ、私は小さい時からお嬢様の側近なのでそういうことです」
「本当に仲がいいんだね」
「もちろんだよ!梨花とはお風呂だって入ったしね」
「もう!それは2ヶ月も前の話でしょ」
梨花さんが珍しく声を昂らせる。
いや、2か月前って高1ですよ...それはもう幼なじみ超えてるよ。
そんなところで昼休みの終わりを報せるチャイムがなってしまった。
「じゃあね、山口くん。私を世界で1番幸せにしてね」
俺は色々と聞きたいことがあったが、そんな俺の疑問を置いて、安芸さんは可愛いセリフを言って梨花さんは一礼して帰ってしまった。
※※ ※※
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