魔王の情け

群衆の一斉蜂起は見事なまでのチームワークで絆の素晴らしさを再認識させた。音を立てて崩れ落ちる山津波を張り巡らされた結界が網のように受け止める。弾き出された岩塊は予定通りの弾道を描いてせめぎ合う。その絶妙な干渉で生じた間隙を別動隊がくぐり抜けてくる。さながら土砂崩れをうがつ透明チューブだ。迷宮はすり鉢状のくぼ地へゆっくりと没落していき、その惨状を宙づりされた一行が高みの見物している、といういささか間の抜けた状況だ。飛空艇がびっしりと青空を埋めており、次から次へと翼竜に跨った戦士が降りてくる。

「何なんだよ?!これは。聞いてないぞ」

ジッドは王国はそのような隠匿戦力を知らなかった。するとフワフワ浮かぶベッドで元祖魔王が目覚めた。

「五分だけ寝かせろという王国語キングリッシュが判らないのか!」

それに対し僧侶が正論を返す。

「だって何をしでかすか予測不能でしょう」

「不規則はお前たち人間ではないか。聞く耳を持たず、安眠を妨害した」

「それはあなたが信用できないからですよ」

売り言葉に買い言葉だ。もうよい、と魔王は問答を打ち切った。そして青筋を立てた。

「お前達は本気で俺を怒らせた。寝かせろというなら素直に寝かせてくれればよかったのだ。約束すら守れぬ相手に交渉は無用だ!」

そう叫ぶとアゾン達の足元から熱波が吹き上げてきた。煮えたぎるマグマが火口となった迷宮跡から噴出する。そして全てを包み込んだ。


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