ジッドの独善
どん、と寝室が揺れた。気持ち悪い軋み音が壁の向こうを駆け回る。
「大陸の崩壊が始まったわ。魔王が仕掛けた二重トラップは嘘だったのね」
アーニャは脅迫を真に受けた人間の愚を知った。
「ああ、序に言うが魔王は俺がとっくに倒した。アラカジメ…」
ジッド本人に不気味な声が重なる。
「世界を折半する条件で余は八百長に応じたのだ。我らの体もだ。然る後、姫を人質に取った」
「―ッ!」
ドン。
アゾンの絶望と地割れが同期する。「あんたがアーニャを娶るなら姫様の出る幕がないじゃん」
ヘレンの問いを魔王は笑い飛ばした。
「それは俺様の取り分さ」
魔王から厭らしい勇者の顔に戻る。「そして悪いがアーニャには討たれてもらう」
民衆が納得する筋書きだ。とまれ対話する余裕も失せた。砂埃が降る。魔王ジッドはアゾンを操ってパーティー一行を蜘蛛糸に結わえた。朝の光が部屋に差し込むと全員が宙づりになった。
壁に亀裂が走るが、黒エルフと元祖魔王の肉体はスヤスヤと眠っている。
「あいつらは放置かよ!」
アゾンが咎めるも魔王は一顧だにしない。すると、ヘレンが明後日の方角にこう告げた。
「みなさん、あいつは”そういう奴”なんです!」
すると出所不明の怒号が渦巻いた。見れば崩れ落ちる岩盤を器用に踏み越えて天馬に跨った騎兵が洪水のごとく押し寄せる。
「ちょ、おま、何をやった?」
慌てふためく魔王にヘレンは痛恨の一矢を報いた。
「魔笛はずっとつながりっぱなしなの。皆に丸聞こえよ」
「そんな!」
十重二十重の包囲網が野獣狩りを愉しむようになぎ倒されていく。そしてモンスターどもの屍を踏み越えて国中の勇者が集結した。
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