魔法使いの言い分
「みんなちょっと落ち着いて」
女魔導士のアーニャがようやく口を開いた。朴訥でパーティーでも埋没気味な彼女はレベル7マジックを全て習得し思慮深い。それゆえに軽挙妄動しがちな一行のストッパーになっている。
「落ち着くも何も時間がねえんだよ。手短に頼むわ」
ジッドも苛立っている。彼女が長饒舌を始めると戦闘中もお構いなしで調子が狂う。「魔王が交渉に応じるとは思えません。地形を変える程の魔力を持ちながら迷宮の最奥部まで精鋭パーティーを招き入れる具を犯すでしょうか。わざわざ寝首を掻かれるなど…」
要約しろと言われてこれだ。ジッドの苦悩が偲ばれる。
「だから回りくどいってんだよ。要するに罠だと言いたいんだろ?」
「罠には下心があるわ。裏を読み解かないと…」
アーニャの反論を棍棒が打ち砕いた。
すかさずジッドが仲裁に入った「待て待て待て待て…」
彼の両手を棍棒が打ち払う。
「待てってんだよ!」
ジッドは懐刀を抜き放った。疾風のダガーLv.10だ。
「…わぁった。判った」
大上段に振りかぶった割りに肝が小さい。そこに実はお喋りなアーニャが割り込む。彼女は
ビジョンの内容をまとめるとこうだ。
世界の破壊すら厭わない魔王が物欲に拘泥するなどナンセンスだ。彼の欲求はもはや唯物論を超えた形而上にある。観念的な何かを実現したいと思われる。具体的には象徴的な勝利だ。
例えば人類をただうち滅ぼすだけでは面白みがない。
「…つまり、世界滅亡劇場の特等席に俺たちを招いたってわけか!」
ケントは脳筋に見えてなかなか頭の回転が速い。
「だろうな。その為にわざとモンスターマシマシな地下迷宮を据えて精鋭を育成した。最強チームが手も足も出せないなんて、メシウマの極みじゃね?」
ジッドもおおむね賛成のようだ。
すると、ケントが棍棒でアーニャを小突いた。
「ひゃん☆」
転倒した彼女をリーダーが抱きかかえる。
「何てことしやがんでぇ!」
「ジッド。この女は
「非道いわ!」、アーニャが涙ぐむ。
「ケッ。最もらしい御託ならべやがって。そんな隙をわざわざ魔王が作るかよ。それとも何か、手枷足枷で御観覧ってか? それじゃわざわざ”最強パーティー”を招く意味はねえな。大ピンチに臨席しながら、俺達に隔靴搔痒を味あわせるのが醍醐味ってもんだろ」
ケントはアーニャ説の弥縫を指摘した。
「なるほど。ヘレン。悪いがアーニャを縛ってくれ」
ここまで2分経過。
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