僧侶の助言
するとパーティーの僧侶が忠告した。
「騙されてはいけません。勇者ジッド。貴方が立っている大地には、無辜の人々と魔王に挑んで敗れた仲間たちの屍が埋まっているのです。魔王に猶予を与えてはなりません。時間稼ぎをして力を蓄えているのでしょう」
ここまで十五秒経過。
「お前の言う通りだ。俺たちを一思いに殺ろうと思えばとっくにやっている」
ジッドは盾の内側を一瞥した。特殊な宝飾が嵌っていて迷宮内の勢力が一望できる。魔王ハーデスの居室を中心に十三重の包囲網が敷かれている。これを生きて突破する事は天地創造よりも難しい。今回のミッションが魔王の抹殺であるならば、何も王国は迷宮に精鋭を送り込むことなどしない。お抱えの魔導士を総動員して地下迷宮ごと吹き飛ばせばいいのだ。
ジッドを派遣した理由がある。ハーデスを倒し、然る後に囚われの姫を伴って、迷宮の外でレベル7の破壊魔法を唱えねば王国の版図である大陸ごと吹き飛ぶ。
「その通りだ…ウーム、眠いわい」
魔王は生あくびをかみ殺して、黒エルフの胸元に潜り込んだ。
「ああン」
エルフが色っぽい声で足を組み替える。
「五分であたいらにできる事は…」
盗賊のヘレンが角笛を取り出した。魔笛コルニシャス。千里万里を飛び越えて数多の人々に思いを使える拡声器だ。
「避難勧告か。たった五分でどれだけ救えるか?」
ジッドは半信半疑だ。「でも、一人でも多くを…。あたい、待てない」
魔笛コルニシャスが悲痛な音色を奏ではじめた。
「ゃかましいのう…」
ハーデスはエルフのむっちしりた太ももで耳をふさいだ。
「判った。ヘレンは笛に集中してくれ。で、アゾン」
ジッドは僧侶に向き直った。
「魔王の時間稼ぎと言ったな。根拠は?」
「はい。下手を打てば大陸ごと吹き飛ぶ仕掛けをネタに俺たちを内懐に呼び込んだという事は、強請りだと思います」
「なるほど。姫と俺たちは交渉材料ってか。で、魔王は何が欲しいんだ?」
聞こえるように言ってみるが、魔王は大いびきをかいている。
「王国の領土や世界の半分といったちっぽけなものではないでしょう。吹き飛んで上等なのですから…」
「ううむ…」
ジッドは腕組みした。ここまで1分経過。
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