最初の創造主
ルウム。それが彼女の製造元であり神であり悪魔であり端末の名前でもあった。頂点を極めた文明は造物主を模倣したがる。それは一種の通過儀礼だ。同時に自身の起源に思い悩む。しかし出自から存在目的は導出できない。意識は自由だから。それでも銀河に命の種をまく。超越種の出現を期待して。彼らに征服された時、自分達の存在理由が生まれる。そう願って善悪二つの精神エネルギーがどうこう的な紛争を画策した。ルウムもそうしたクラスタの一つだ。
「友邦に脈ありと睨んだのは貴方よ。それで自我を殺して星系丸ごと実験台にした。相変わらず貴方は優柔不断な人生を歩んで二元論衝突の瀬戸際まで来た」
ルウムが呆れはてるのも無理はない。
「僕だって煮詰まってる。何度やっても結果は同じだ。知性は欲望という名の原罪に縛られて悪徳を悪徳で塗り替える。生命とは正に熱的死に向かう宇宙の阻害要因かもしれぬ」
「でも貴方はさっきやって見せたじゃん。目線――認識を走らせて実体化した」
言われて僕は頭を抱えた。持続しないんだ。存在する行為は大宇宙のルールに違反するのだろう。
「貴方を神の手で磔刑に処して終わりにする事も出来た」
ルウムはこの星――僕が用意した暗黙の瀬戸際だ―に到着した瞬間、僕を殺せばよかった。それで「人類」が生み出した「原罪」が消える。今のところ彼らが頂点にいる種族だ。ルウムを除いては。
「どうするの」
彼女が決断をせまる。僕はちろ、と隣の深淵を眺めた。惑星の上空では友邦軍が連合を押し返している。そんなバカな事があるか。いや、虐げられた者の恨みが勝ったのだ。迂回した戦闘機は空母一隻を撃沈した。
「彼ら、私達を越えちゃった」
ルウムは安堵と落胆の吐息を漏らした。
僕は決心した。
そうだな。限りある命の一個体として人生を全うするのも悪くはない。
「ルウム、時間をまき戻してくれ。今度は君に求愛するところからだ」
えっ、と彼女は赤くなった。
「君からがいいかな。もう一度恋しよう」
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