破廉恥と不意打ち
「何があったんです?」
魂を抜かれたようだ、と心配する妻に僕は言ってやった。
「君こそ間が抜けているようだ。何をしていたんだ」
僕は靴箱の泥を見逃さなかった。既に悪魔の力が味方していたからだ。
「何って?」
しどろもどろな妻を放置して僕は食事に出かけた。空腹を満たす足で興信所に向かった。そこでお決まりのコースを依頼する。一週間後、逢瀬の現場とカメラの前で取っ組み合う間男が撮れた。僕は知らぬふりをして先手を打った。浮気相手の名で農園に慰謝料を請求した。不倫はたちまち知れ渡ることとなり名門貴族の次男が下賤な男の出入りを許す監督不行き届きの責任を追及された。
僕はめでたく解雇され面子に拘る主計局に助けられた。
「そういう無神経な男を待っていた。ようこそ星系軍へ」
駆逐艦の艦長は豪快に笑い飛ばした。事務畑の僕に何が出来るかと猛者たちは意地悪く訊いた。もちろん、駆逐艦にも主計局はある。武器弾薬から隊員の給料まで細かく計算する。直近の海戦で前職が部署ごと爆散したという。
その頃の僕は無敵だった。何しろ悪魔の後ろ盾がある。
「軍は神に近い所にいると言ったよな」
僕は内なる神に照会した。そうだ。星系軍は神を飼っている。
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