邪悪のヴェール

何もかも剥ぎ取った空家は創世記に負けない破壊力がある。僭称者はこう切り出した。住人が退去する際に本性が暴かれる。不正蓄財、盗品、隠蔽書類、犯罪証拠、そして死体、もちろん人間だ。それらが忽然と湧き出して厄介の種が芽吹く。そんなビッグバンが星系友邦に予定されている。俄かに信じがたい話だ。すると悪魔は困った顔をした。「やれやれ、抽象論より具象か」

次に鮮烈な惨劇の数々が脳に刺さった。まとめると理不尽な虐待の連鎖だ。愚直な労働者と貧しい家族が理不尽な叱責を受けている。雇用主が決して過剰ではないノルマを課している。だが人は工業機械ではない。俺が頑張ったのだからお前も出来る式の同調圧力は、やることなすこと全て裏目にでる人間にとって責め苦でしかない。そこで仕方なくミスマッチを訴える。今度は容赦ない人格口撃を浴びる。いわく、お前の怠慢や努力不足を正当化している。お前は狡い。とどめに「お前は腹黒い」という設定をいただく。殆どの人間は心が折れて死か廃人の道を選ぶ。

悪魔は一通り見せた後、僕に微笑んだ。「安心しろ。これらは全部ベールだ。簒奪者どもの隠れ蓑だ。お前もうすうす気づいているだろう。友邦を覆い隠すものを」

言われなくてもわかっている。それで僕は悪魔に全力で挑んだ。殺されてもいいと覚悟した。「貴方の下心は何ですか」

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