空母所属・第三駆逐艦

三番目の月は無慈悲だ。恒星に照らされてぼうっと淡白に日和見している。星系友邦の遊撃艦隊は大勢を立て直して防波堤を築いた。残存兵力は空母二、駆逐艦が三隻。その一隻は僕が沈めた。理由は後で話すが好意でやった。とにかく僕は裏切者の誹りを覚悟する。艦隊は大火力の艦載機を横一列に押し立てて後方に空母直掩機や対空能力に長けた駆逐艦を配した。弱者連合は量より質の戦略で圧倒して来たが防衛線を強行突破するだけの頭数はない。白い月を迂回して背後を突けば捨て石ごと空母を始末できる。ブースターを焚いて片道一発勝負に賭ける度胸が弱者連合にあるだろうか。

ある、と内なる悪魔は約束してくれた。告解堂で出会ったあの日、彼はこう断言した。お前の信ずる神はお前から幸福を奪った。換言すれば僥倖からお前を隠したのだ。さすれば応報すればよい。お前も敵の未来を隠すのだ。

雷に撃たれた僕は文字通り腑抜けた顔で帰宅したに違いない。妻が玄関で蒼白した。「あなた、魂が抜けたみたい」

そうだ。僕は売却した。苦悩する父母を救済する条件で。妻や子供達は可愛いが同時に不憫でしかたなかった。父の計らいで僕は銃を取らずに済んだ。主計局の業務は広い。兵糧に用いる作物の試験農場が僕の任地になった。そこは本当に平和で自然が天敵だった。退屈なもんか。僕は幼少時から好奇心旺盛に育った。土を弄る喜びを僕は知りたかった。そんな希望を軍は残酷に奪った。手に汗でなくペンを握らせたのだ。膨大な書類にデータを記す日々。そこで初めて僕は農奴に出会った。彼らは淀んだ目で汚れ仕事をしていた。あの棄民と同じ瞳だった。そして作物でなく「人」を植えていた。正確には栄養になる人間だ。星系軍は捕虜を養う経費に生産性を求めた。父に問い詰めると一言。「あれはもう被征服者ではない。資源だ」

そして僕は傷心に蓋をしたまま牧歌的生活で仮面を被った。慣れとは恐ろしいもので僕と妻子はつつがなく暮らした。母が伏すまでは。

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