志願理由

銃を持つ動機はさまざまだ。傭兵、志願兵、徴兵、民兵、衛兵、猟師、用心棒。僕はそのどれでもない。敢えて言えば盗っ人だ。言っておくが僕は裕福だ。中流貴族の次男坊でも見合い話に応じて無難な人生を歩めるほど祖国は豊かだ。ただ日常は空疎だった。

父は主計将校で退役後の暇を持て余した末に嘱託で復帰した。だが、母が末期の認知症で間脳部分まで委縮した。このまま呼吸中枢が萎めば死ぬと医師に宣告され、父は介護離職を考えた。悩んだ末に両立を選んだが肺癌を患った。ステージ3の現在は母を看病する気力だけで生きている。主計局で辣腕を振るい兵士達の処遇改善予算案を国防省に呑ませた報いがこれとはあんまりだ。結果として兵士の士気が大幅上昇して軍は連戦連勝している。福祉士は父に要介護申請を薦めあぐねている。今さら、父のやる気を誰が奪える。

僕は僕なりに支援を検討した。末娘を含めて五人の女を養うだけで精一杯。父母に救いはないかと教会に答を求め僕は天啓を得た。

神が不当に人生を奪うなら取り返せ。僕は悪魔の囁きに乗った。軍上層部は神に接近した位置にいる。言われるままに僕は志願した。

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