仰臥兵ブルース

水原麻以

とある惑星の花畑にて

起きてしまった事は仕方がないが、何もしない理由にはならない。擦過創を描く宵闇の輝きに誓った。刀折れ弾が尽きた敗者に何が出来るのか、とアバターが笑う。そのバイザー越しに僕は勝機を掴み取る。今いる場所は大輪の赤い花咲く耕作地だ。丁寧に盛土されている事から恐らく人がいる。航路図に未記載の星だが僕は息をしている。濾過装置抜きで吸う空気は甘酸っぱい。やがて芳醇に実るのだろう。栽培者には気の毒だがこの星の大気は二大勢力が蹂躙している。一つは僕の祖国、もう片方は弱者連合ウインプ。聞こえはいいがならず者の集団だ。差し伸べた手を骨ごと噛み砕き、もっとよこせと訴える。断れば数の暴力で騒ぎ立てる。そんな連中が援助を蓄えて強烈な宇宙艦隊を仕立てた。

やめておこう。弁解など何の役に立つ。闖入者は殺される。そうなる前に農夫を撃ち殺す。だが、弾がない。僕はカラフルな飛行機雲を羨望の眼差しで追う。銃を持ちたい。訓練された闘志が僕の怠慢を焚きつける。

いや、じっと我慢だ。息を潜めて愚かな合戦を観察する。弱者連合は優勢だ。沈めた艦を捜索し屍の数を勘定する。そして員数外を血眼で探すだろう。

僕には連中を怯えさせる秘密があった。

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