我逢人

N/A

第1話

『重台に止まります』


 人が泣いていた。

 話しかけたら、行ってしまった。


『次は市楽に停まります』


 人が混んできた。

 息苦しいし、面倒くさい。

  

『次は破館に停車します』


 人が降りていく。

 僕は草臥れていた。長い旅路に。


『次は慈律に停車致します』


 隣席の彼女が、手を握ってきた。


『次は書楼に停車致します』

 

 彼女は笑う。僕は苦しむ。


『次は転明に停車致します』


 周囲には、彼女だけ。


『次は城京に停車致します』


 彼女が降車する。ついて行こうとした。

 「ダメ」

 最後まで、笑っていた。


『次は神礫』


 人が増えてきた。


『次は葉花』


 ふと思った。


『次は故郗』


 出逢いは奇跡ではないと。


『次は——』


 ようやく、私は降りた。


『ご乗車ありがとうございました』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

我逢人 N/A @hidersun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る