神を討った人の業
■ 神を討った人の業
精神とは本来は永劫不滅の存在である。しかし、神を名のり、有史以来、人類の魂を冥界に拉致する事で勢力拡大をはかってきた種族がいる。
「特権者」だ。
人類は彼らに騙されつづけて来た。
知的生命体は無限に生き続けて、計り知れない宇宙の謎に対する思索を深めるのが務めだ。しかし、人間の寿命が記憶の継承に足かせをはめている。
広大な星の海を押し渡るにせよ、世代を重ねる必要がある。宇宙進出後の生存競争に不利な仕様を誰がヒトに授けたもうたのか。
「特権者」である。
彼らは知性を獲得し精神生命体に進化した段階で老化を克服した。同時にライバルの芽を片っ端から摘んだ。人間に死が与えられたのも策略の一環だ。
人類は彼らの存在に気づき、冥界へ侵攻した。特権者との戦争に勝利した人類は死者の復活や寿命の撤廃など様々な恩恵を得た。
しかし、宗教に依存する人々から神を奪った弊害は誰も考慮していなかった。
「個人的崇拝の対象なんて任意でしょう。偉人や自然物を信仰すればいいわ」
シアが用済みになったパンフレットをたき火に放り込んだ。玲奈がむさぼり読んで暗黒面に陥っては困るからだ。
「そうもいかないみたいよ。特権者戦争後に精神的飢餓感に苦しんだ人たちは自殺することもできず、発狂したわ」
真帆がとっぷりと暮れた谷底を見やった。迷える子羊を呑みこもうとしている。
「忌憚なき心眼で過去三か月間の地質学的変化を調べてみたけど、谷に誰も出入りした経緯はないみたい」
渇望感を満たすためにモニタの数字を読んでいた玲奈が、充血した目をもみほぐす。
「無人の施設ならさっさと爆撃しちゃいましょう!」
真帆はスカートの砂をはらい、立ち上がった。艦に戻ろうとする彼女の腕をシアが掴む。
「殉教者を出して信者を勢いづかせないで」
「プラネットボンバーには実弾も積んでるわ。脅しじゃないのよ!」
三千世界最強を誇る
「わたくし思うに、非破壊的読み出し手段に拠らない方法では真相に接近できないかと」
「玲奈の言う通りよ。ぶっ壊してしまったら元も子も失うわ」
めずらしく母が姉の肩を持つので真帆は面白くない。
「じゃあ、連中は外部と接触せずにどうやって布教活動しているの!」
女たちは疲労のせいか苛立ちはじめた。
「カルシウムイオン摂取を推奨~」
「そうね。お茶にしましょう。真帆も座りなさい」
玲奈がいいタイミングで飲料チューブを差し出した。彼女にとっては気配りでなく慢性厨二病の発露にすぎなかったが。
「何らかの発信はしているはずよ。 それにわたしたちの来訪は察知しているでしょうし」
夜のとばりが降りるにつれて空気は冷え、気丈な女たちに不安の影が落ちる。
こういう時は自分を多忙にして負の感情を追出すに限る。
シアは、布教パンフレットの燃えかすが微かに残るたき火跡を歩き回り、残り火を念入りに踏み消した。
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