第11話

「Nさん、お風呂での温度差には気を付けてください」


「Sさん、タバコとお酒は、ほどほどに」


「Mさん、少しでも体調不良を感じたら、大きな病院で」


「Tさん、自動車には気を付けて」


こうして、ひとりひとりに、声をかけて行った。


「竜ちゃん、もういい?」

「ええ。本当に目覚めます」

「目覚めたら、また元の生活だよ。それでもいい」

「構いません。ていうか、お願いします」

「どうして?」

「それが、僕のしてきた選択ですから」


福原さんは、頭をかいた」


「立派になったね」

「えっ?」

「初めて会ったときは、『ネガティブな人だな』と、正直、苦手だったんだよ」

「否定はしないです」

「でも、今の君はとても、ポジティブ。素敵だよ」


眼が覚めたら、また声優さんとそのファンの関係になる。

でも、それで構わない。


「眼が覚めたら、全てが元の生活。元の木阿弥だよ」

「夢の中なので、正確には違いますけどね」

「環境も、状況も、元のまま。でも・・・」

「でも?」

「ひとつだけ、変わっていることがあるよ」

「何ですか?日付ですか?」

「違うよ。でも、君自身で確かめて。夢は目覚めれば、記憶から消える。

でも、その変わった大事なことなら、今の君ならすぐにわかるから」


福原さんは、笑う。


「じゃあ、おはよう」

「おはようございます」


こうして、本当に元の世界・・・

というのも変だが・・・


現実の世界に戻ってきた。


カレンダーは、2021年の5月。

環境も状況も、全くそのまま。


でも、ひとつだけ変わったことがある。

昨日、眠りについた時と変わっていることが・・・

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