日溜りに降る白い雪

白月くま

第1話 声を合図に

 子供達の朝、「行ってきまーす。」と共に廊下を歩き渡るお父さんの靴したの擦る音が、耳に届く。母は毎日朝ご飯にたたり掛けているように独り言を口ずさむ。

                 。。。

  朝ご飯の匂いに誘われてドレッサーの前をそろりそろり、と準備を進める。脱ぎ捨てたパジャマを洗濯カゴに、「色物」「白物」と分け合い階段を飛ばし飛ばしに降りていく。


「おはよう」と暖かいお茶の入った湯呑みをテーブルに置いた母。

 答えるように私は、コクっと頭を頷かせた。


           「おはよう」と「ありがとう」


  チク、チク、と鳴り響く時計の音にぼーっとなる私に、

   「んん」っと父の顎を傾げる合図に湯呑みに入ってた熱いほうじ茶を飲み干して、軽い火傷をしつつも満足した。お気に入りの鈴蘭すずらんが塗られた湯呑みを母が経つ台所へ届けて、母はそれを受け取ったと解消するように微笑んだ。「じゃあ」と言うように私は右手を上げて頭を再びコクリとうなずかせた。

  

 カバンと淡い緑の糸で「鈴蘭りんか」と刺繍されたハンカチに包まれた弁当を取り、玄関に足を引きずりながら小走りで向かった。靴のかかとを軽く踏む潰し出たまんまドアを押し開けた。

      

 「行ってきます。」を口で形を描き合図して、カチャリとロックが掛かる。

   

   そう、私は、、

        彼女は、、、

    

    私には、

        彼女には、

            

              美月鈴蘭みづきりんかには、声がない。

      

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日溜りに降る白い雪 白月くま @yuriluna_2020

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