その無茶は誰のため
てっきり稼ぎのいい新しいモンスターでも見つかったのかと思っていた俺は、ソーナの答えに面食らっていた。
「いやちょっと待て。アストライアはまだ手を出せないって、この前決まったばっかだろ!?」
現在のレベルキャップ以上のレベルを持ち、所見とはいえトップクランが返り討ちにされたフィールドボスだ。四人で話し合って「今は様子見」だと決めたばっかりだったのに。
「でもユーガ、すっごい気になってたじゃん」
「そりゃ気になるけど……」
なんと言っても、新しい銃の素材になり得るかもしれないモンスターだ。
俺のビルドはクリティカル特化。プレイヤーの技量がもろに強さに直結するスタイルだ。
だが、クリティカルダメージというのは元のダメージが大きいほど、最終的なダメージも大きくなる。
特に俺の扱う銃という武器種は認めなくないが不遇武器だ。プレイヤーのステータス上昇が攻撃力にほぼ影響しない、武器の性能がダメージに顕著に表れる武器種。
なのに、銃の素材となるアイテムがやたらと少ない。
高性能に作れたという自負があるエレイル&セレイルも、ずいぶん前に作った武器だ。強化は重ねているが火力が頭打ちになってきていると感じていた。
ヘクセンシルム辺りのドールマンたちにも期待しているが、そろそろ基礎攻撃力がぐんと高い銃を作りたい。
調べる限り、アストライアの素材は喉から手が出るほど魅力的だ。――が、今の段階では、倒せる確率はかなり低いと思われていた。
「でもまだ奴のことは何もわかってないだろ? なら一通り調べられるまで待った方がいいんじゃないか……?」
VRゲームというジャンルにおいて、敵のモーションの把握は重要なモノだ。進退の判断の基準にもなるし、行動パターンの変化、大技の対処法等々――知ると知らないとじゃ天地の差がある。
ましてや高レベルのフィールドボス。それらの情報が出揃っていないと攻略は難しいと考えていた。
「それなら大丈夫、大体のモーションとか、攻撃の属性とか、調べてきたから!」
「……ええ?」
ソーナが放ったその言葉に、俺は信じられずに自分の彼女をまじまじと見てしまう。
うわ、ドヤ顔可愛い……とか現実逃避しつつも、そういうわけにはいかないよな。俺の彼女はいつもなにかでぶん殴ってくる。一番多いのは愛情でその次が嫉妬だ。
今回の鈍器である情報を反芻しながら、ソーナに疑問を聞いていく。
「普通はパーティーで挑みながら解析するフィールドボスの情報を、しかもレベルがクソ高い奴の情報を一人で?」
「夕方からずっとゾンビアタックを繰り返して、モーション洗い出してきた!」
そんなことを平然とやってのける俺の恋人は何者なんだろうか。そんなことゲーマー歴の長い俺だってできないぞ。
「映像もカモメちゃんに頼んだから質のいいのが撮れてるよ!」
「パパラッチにまで頼んだのかよ……」
「借りがあるから笑顔でやってくれたよ?」
その笑顔引き攣ってなかったらいいな。ソーナは最近なぜだかカモメに風当たり厳しいから。
でもまあ、新しいフィールドボスの情報なんてすぐに飛ぶように売れるから奴にとっても渡りに船ではあるのか。ならいいや!
「んで、俺たちは夜から付き合わされて、こんな時間だ」
「でもモーションの情報を集めたからってすぐに勝てるわけがないよねー。かれこれ二十回くらいは死に戻りさせられたね」
「マジかよ……」
LFOではデスペナでステータスに制限かかるからゾンビアタックなんてしない方がいいのに。
それにしても、この強引な行動はなんだかソーナらしさが感じられないな。
いつもはこういう無茶はほとんど人を巻き込まないし、真っ先に俺に声をかけてくるはずなのに……。
「今回はユーガのためのボス討伐だからねぇ……ユーガには頼りたくなかったけど、ダメージディーラー抜きだと辛くってね。ソーナを説得して呼んでもらったんだ」
「できれば私だけで討伐して、ユーガの好感度独り占めしたかったんだけどなー……」
「……? 俺のため?」
ソーナが一番に声をかけてくれないことに一抹の寂しさを感じていたが、セイリの言葉にぶーぶーと頬を膨らませる彼女に戸惑いの目を向ける。
「だって最近、ユーガ元気ないでしょ? だから、どうにかして励ましたくて……」
「いや、そんなことないぞ? 俺はいつも通りだし――」
「楽しそうじゃなかったじゃん、最近」
ソーナはまっすぐに、俺の目を見て言ってきた。
じっと見つめてくるその視線に堪えられずに、目を逸らす。
この数日は、仕事が続いていたこともあって塞ぎがちだったが、いつも通りに過ごせていたつもりだった。
俺と《
「……なんで、わかったんだ?」
「ずっと、ユーガを見てたんだから、わかるよ。私をこんなに楽しい
俺は目を逸らしたのに、彼女は変わらず見つめてくる。
言っているのは、俺と彼女の馴れ初めのこと。
初めての
「相談もしてくれないから黙ってたけど! ……ユーガのことはなんでもお見通しなんだから」
でも今は、あの頃とは違う。
「だから、ユーガのためにアストライアの素材をプレゼントしたいって僕たちに言ってきたのさ。愛されてるねぇ」
「しかも夜中にだぜ? こっちはいい迷惑だっつーの」
セイリとガオウがバラす。だから俺に何も言わなかったのか、と納得した。
関係も強さもすっかり変わった
「……はっはは、降参だ。参ったよ、ソーナ。――それと、ありがとう」
「だったら、アストライアを倒すよ! ほんとは私だけで倒してユーガにプレゼントしたかったけど……」
「それは違うよ」
不満そうに眉を寄せるソーナの頭を撫でる。
VRといえども、LFOの良質な物理エンジンは
「ソーナと、一緒にやるのが楽しいんだ。独り占めなんてズルいこと、しないでくれよ」
「ユーガ……うんっ! 一緒に、やろう!」
満面の笑みで頷くソーナ。
真剣な顔も、戦っているときの顔も綺麗だけど、可愛さでは群を抜いてこの顔がいいな……
と、彼女に見とれるのもほどほどにして、我が儘に付き合わされる形の二人に問いかける。
「ガオウ、セイリ。お前らはいいのかよ。わざわざこんなことに付き合わせて……」
正直、アストライアは今の段階ではパーティーで挑むようなコンテンツとは思えない。俺らの全力は訳あって、使えば一週間は本気を出せなくなるし、このレベル帯だと回復アイテムの価格も馬鹿にならない。無駄に突撃すればそれらのリソースを浪費することになる。
今ならソーナと二人で突撃してもいいと思えるほどテンションは上がっているんだが……
「何言ってんだ。現状最強のフィールドボスを最速討伐なんて面白ェじゃねぇか。お前抜きにしても喜んでやってやるぜ」
「よく言うよ。ソーナから理由聞かされてから何も言わなかったけどやる気になってたくせに」
「ばっ、セイリ! テメェはいつもピンク頭なのになんでこんなときだけ――」
「そっちの方が面白いからねぇ! あっはっはっは!」
セイリに掴みかかろうとするガオウだったが、言葉を発さずに発動した魔法で押さえつけられて、一方的に笑われる。
「あとユーガ? 僕も渋々参加してるとかじゃないからね。これはゲームなんだから、無茶苦茶しないと楽しくないだろう?」
学校で女子たちを虜にする王子様スマイル。いつも滅茶苦茶やってるピンク脳が浮かべる笑みではないが、それでも恐ろしく様になっていた。
「……まったく、俺のゲーム仲間はなんでこう無鉄砲なのかねぇ。普通無駄だって断るだろ」
「お前の影響だろ」
「類は友を呼ぶって奴じゃないかな?」
「俺が大元ってか? ひどくねぇ?」
「だってユーガが一番最初に無茶やったしねー」
「ユニークモンスター最速討伐者に言われても説得力無えなぁ」
ああ、そういえば俺が一番最初にユニーク討伐をしたんだっけ。そのあと、後を追うように次々と三人がユニークモンスターを倒したんだっけか。
思い返してみれば、俺たち四人が有名になったのもその頃からだったな。
「じゃあ、このパーティーでもう一つ記録作っとくか!」
「新フィールドボス最速初討伐だね!」
「次はねえぞ、手札全部切って勝ってやる」
「アイテムも使い尽くしてやろうじゃないか」
いつもそうだ。俺たちは、面白いと思ったことからやっていく。
なんと言われようが、それが俺らの思う一番のゲームの存在意義なのだから。
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作中全編を通して、大幅に変更箇所を修正しています。
・ソーナの
・第十一の街・
・《流星機龍 アストライア》の記述に加筆、もしくは修正。
・プレイヤーをゲーム内用語で《眠りし人》とする記述を追加。
その他各所を随時修正していきます。
たまに読み返してみると「前読んだ内容と違う」と思う箇所があるかもしれません。作者の未熟故に申し訳ありません。
拙作をお読み頂きありがとうございます。
面白いと思って頂けたら幸いです。
評価・感想、誤字報告でもかまいませんので心待ちにしています。
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