砂漠の餓狼


 襲撃者たちを飛び越え、背後に回った俺は連中が振り返る前に右手に持ったハンドガンの引き金を引いた。

 右手に持った相棒は、消音器サイレンサーでは抑えきれない大きな銃声を響かせる。

 相棒から放たれた弾丸は断末魔を響かせる隙も与えずに、振り向いた男の顔を


「で、デザートイーグル……!? 威力がでけぇだけの骨董品じゃねぇか!」


 その強すぎる威力は、一世紀以上前に開発され、ハンドガンの中では最大級の威力を誇る大型自動拳銃『デザートイーグル』を思わせただろう。

 命中精度の悪さとあまりの重量に、昔から実戦運用はされないようなまさしく骨董品だ。


「ビビるな! さっきのはラッキーヒットだ! そう簡単に当たるような代物じゃあ――」

「ごがッ!?」

「当てられれば文句ねぇんだろ? それにコイツはそんな老兵とは違うしな」


 当たらないと高をくくっていたリーダーも、胸に弾丸を撃ち込まれて崩れ落ちる男を見て、その危険性を理解しただろう。

 デザートイーグルの問題は言ったとおりだが、コイツは違う。

 俺のコレクションにも並べられているデザートイーグル……アレを元にして、弾丸も銃本体も弄ることで命中精度と、その凶悪な威力のさらなる底上げに成功したアルバロード社製の特注品オーダーメイド


 それがこの『デザートハウンド』だ。

 元から強力だった威力は、下手な防弾チョッキなら貫通する。貫通出来なかったとしても先程の男のようにことができるほど。

 その重すぎる重量もさらに増したが……俺は問題なく扱える。


「知ってるか、銃って近づかれると弱いんだよ」


 胸を撃った男にヘッドショットを撃ち込んでトドメを刺し、一足で集団の懐へと飛び込む。

 そして左手で握ったままのガジェットで、近場にいた敵のガラ空きの脳天を殴りつける。


「ご、が……」

「このクソ野郎!」


 傍に居た奴が一発で意識を無くした仲間を見て、サブマシンガンを乱射してくる。

 装備をしていないように見える俺には有効な手だ。普段着のように見える服だから、当たれば価値だとでも思っているんだろう。


 だが身を守るためのはちょうど今できたところだ。

 ガジェットを投げ捨て空いた左手で殴り倒した男の体を引き寄せ、弾丸を受け止める盾にする。

 ついでに気絶している男にもトドメがさせて手間が減る。


「人を盾に……このクソ野郎が!」

「何言ってんだ、それが殺し屋ってもんだろう」


 どんなあくどい非道な方法だろうと、結果的に殺せれば問題ない。

 どんな方法だろうと確実に命を奪えればいい。


「どのみち人の命はいくつも奪っているんだ。今さらこの程度、大差ねぇよ」


 最悪な気分を言葉として吐き捨てる。

 その間に銃を向けてくる奴に蜂の巣になった死体を向け、最初に撃ってきた奴を撃ち殺す。


「呆けてんじゃねぇよ」


 味方だったものを向けられて怯んでいた奴らに向かって、盾になっていたモノを全力でぶん投げた。


「ぐああっっ!」

「小せえナリして、なんて馬鹿力――がっ!?」


 圧倒的な速度で投げられた人間一人分の質量は、当たった男達をボウリングのピンのように吹き飛ばす。

 その間に続けて二人ほど撃ち殺し、俺は再度集団との間合いを詰めた。

 俺は幼い頃から《ファントム》を継ぐべく、暗殺者になるべく育てられている。

 それは技術的にも、体質的な面でもだ。

 俺の体は幼い頃からのドーピングによって、見た目以上の身体能力を持っている。非合法の薬物であり、バレれば一発で捕まるような代物だが、幼い頃から体に馴染ませるようなものだけあって効果は強い。

 標準的な男子高校生の体格である俺が三キロ近くもあるデザートハウンドも難なく扱え、その強い反動も片手で押さえ込めているほどだ。

 たとえこの男達のような屈強な体を持つ相手だろうとも決して力負けはしない。

 普段の生活や学生生活では、強すぎる身体能力を抑えて暮らしている。かなり面倒臭いが力の加減には慣れたものだ。


「くそっ、囲め囲め! 相手は一人なんだぞ!」

「それを知っててやらせるわけがないだろう」


 人数の有利を活かそうとしてくるが、あいにく多対一の戦いはバトロワ系のゲームで慣れているんだ。

 周りはSMGサブマシンガンARアサルトライフルなのに対し自分だけピストルだとかザラだからな……いや、仕事の最中に趣味の思考は止めようか。

 こっちのことをやっているときに考えるのは、趣味まで汚れるような気がして何か嫌だった。

 とにかく、数で負けるならなるべく射線を通さないことが重要だ。遮蔽物がなくても敵の体を遮蔽にすればいい。


 ステップで回り込んで拳銃を持っていた男に肉薄し、他の敵からの射線を切る。

 拳銃を持つ手を掴んで逸らし、喉元に一発デザートハウンドの『50AB弾』をぶち込むだけで、命は奪えた。


「撃ちづれぇ! どうなってんだ!」

「焦るな馬鹿野郎共! 所詮セミオートの拳銃だ! もう次くらいで弾切れだ。そこを狙え!」


 追い詰めた袋のネズミの予想外の暴れっぷりに狼狽える男達にリーダーが怒鳴る。

 その言葉の通り、右手に握る相棒に残っている弾は一発しかない。骨董品の装填数まで覚えているとは驚きだ。

 デザートハウンドはあくまでカスタムオーダーメイド、元の銃デザートイーグルのその少ない装填数には手を加えられなかった。

 だがそれはあくまでデザートハウンドの話。

 殺した数は七人。真っ黒で纏わり付いてくるヘドロにぶち込まれたような不快感を胸に、俺は左手で腰のホルスターから二丁目の銃を引き抜いた。


 残りの殺すべき敵は、十人。

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