襲撃


 カツカツ、ザッザッと、複数の人間が階段を登る気配が近づいてくる。

 廃ビルだからな、エレベーターなんて羽退いているわけがない。

 とはいえ七階程度のそこまで高くもないビルだ。大した準備をする時間もなく、やがて屋上に姿を見せる。

 大した準備もできず、俺のいる屋上に武装した集団がぞろぞろと入ってきた。


「ガキしかいねぇじゃねぇか……? おい、本当にここであってるんだろうな」


 一番最初に警戒しながら入ってきたリーダーらしき男が言った。


「何の用だ。ここには狙撃手一人しかいないぞ」

「……本当にお前みたいなガキがあの《ファントム》かよ。こりゃ大層な噂も信用できねぇな」

「ホントにガキかはわからないぞ? もしかしたら背が小さいだけの大人かもな?」

「それならガキつっても構わねぇだろうが」


 ヘッドセットの機能で、少し声色が変えられた自分の声を聞く。

 ホログラムの覆面越しに見るリーダー格の男は、顔中傷だらけで強面の大男だ。

 厄介なことに連中は全員銃で武装していて、なおかつ要所を守る防弾チョッキを着込んでいるようだ。


 最低限の銃器への対策はできている、と言ったところか。

 少なくとも半グレや強盗集弾のような個々の集まりではなく、ちゃんと組織だった人間らしい。

 そして《幻》を知っているならば、間違いなくカタギではない。


「で? 半グレかぶれの連中が何の用だ」

「おいおい失礼だな。俺たちはちゃ~んとした警備会社の社員だぜ? ここにはオシゴトで来たんだよ」

「銃を配布する警備会社が日本のどこにあるんだろうな……」


 日本という国は銃に厳しい。それは銃を使ってる俺がよく知っている。

 音や重量感からしてまず間違いなく奴らの持つソレは実銃だ。そんなものを配備する会社なんて日本にはどこににもない。

 警備会社なんてものも、表向きの隠れ蓑だろう。


「まあ最期に教えてやるよ。どうせこの人数相手に逃げられねぇもんな」

「……そりゃどうも」


 男達が下卑た笑い声を上げる。よりにもそってターゲットに教えるのはどうかと思うが……ありがたく答え合わせをさせてもらおう。


「ウチの会社に、ここいらに来る殺し屋を殺せって依頼が来たんだよ。しかも高い金を積んでな。そうしてここら辺を張っていたらお前が来たってことだ」


 なるほど。

 いつまで経っても来ないターゲット。正体不明の依頼人。

 そして普段隙を見せない用心深い男がこのタイミングで警戒を解く。

 そして俺がこの日この付近に姿を見せることを予見できたのは、織家を狙っていることを知っている人物。

 つまり――


「やっぱり、黒幕は織家か」

「はっ! それを知ったところでお前にゃ何も出来ねーけどなぁ」


 自分を殺すように自分で殺し屋に依頼して、逆に殺しに来たわけだ。

 ということはイコールで、柊グループ会長の暗殺依頼を出したのも織家一道となる。ただ自社の利益を取られるだけの子分じゃなかったわけか。

 そして次は自分をターゲットに《》を誘い出して狙ってきた。


 普段から警戒しまくって殺すチャンスをなくし、この日にパーティに参加するという隙を見せることで俺を誘き出す。

 パーティをドタキャンすれば危険はないし、今頃は自宅でワインでも空けているのか。

 自作自演というか、よく手の込んだマッチポンプだな。


「なんでそんなことをしたんだか。めんどくせえ……」


 アルマに情報を掴ませたのもわざとっぽいな。これはアイツを責められない。


「かなり怯えてたらしいぜ? つまりやり過ぎたってことだな」


 依頼をしたはいいが、あまりの手際の良さに今度は自分が……と怖くなった、ってか?

 そんな覚悟のない人間が、殺し屋を使うなって話だ。

そう考えている間にも、男達が俺を囲むように広がる。

 俺が立っていたのはビルの縁。もとから逃げる場所はないし、どうせ周りにも見張りを立てているんだろう。


「お前一人にこっちは十六人。逃がさねぇぞ? 今まで殺しまくって、大儲けして大笑いしていただろうなぁ! ガキの身分で最高の日々だっただろうが、お前の人生もここまでだ!」


 ――よりにもよって、最高の日々、ね。

 つまりコイツは、ってワケだ。

 それなら、いいか。


「なにか言い残すことあるか? 聞いてやるよ」


 嘲りを隠しもしない醜悪な笑みを浮かべるリーダー格の男。

 癪に障るその顔を見るのを止めて一歩、二歩と、さりげなく移動して立ち位置を調整する。


「へぇ、お優しいこった……じゃあ二つ。お前らの間違ってることを」


 それがどれだけ致命的で、手遅れかってことを教えてやる。


「一つ目は、お前らが言う最高の日々ってのは、俺にとってはクソゲーじみたつまらない日常だってことだ。

 そして二つ目は……俺に気付かれる前にその銃弾をぶち込まなかったこと、かな」


 言い終わると同時。

 俺は足下に置いてあったアンカーを射出するガジェットを蹴り上げて掴むとトンッ……と後ろに飛んだ。

 ビルの屋上から、足場のない空中へと。

 一瞬の浮遊感のあと自由落下を始め、俺の体は屋上にいる男達の視界から消えた。


「なっ……ここは八階だぞ!? 逃がすな! 追え!」

「誰が逃げたって? あいにく売られた喧嘩は売ってきた奴を買う金でぶん殴る主義でな」


 奴らが焦って近づいてきたが、俺は屋上に引っかけたアンカーの巻き取りとビル外壁を蹴ることで、奴らの頭上を飛び越えた。

 その片手には、巨大な拳銃を握っている。


「実は俺も優しいんでな。人を撃ち殺してあっはっはと笑えるほど、外道に堕ちちゃいないんだわ。


 お前らに引き金を引くせいで、今日という日がさらにクソになっていく。


 くだらねぇ、つまらねぇ、最悪だ。


 しかも八つ当たりもストレス溜まるときた。だから、せいぜい一発で死んでくれ。


 そっちの方が、互いに苦しくねえからな」








__________

 しばらく投稿出来ず、すみませんでした。

 筆が進まないのと、原稿や設定の見直しを行っていました。この話も後で改稿の可能性があります。

 大幅な改稿もする予定なので、その際はこのように表記します。

 ゲーオタアサシンをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る