新たなフィールドボス


「機械龍……だと?」

「ああ、お前が大好きな銃が作れそうな奴だった」


 それが本当なら……俺のしばらくの目標が決まることになる。

 これまで神代製ゴーレムのボスは少なかった。最近はその発見報告すら無くなっていたレベルだ。


 しかも、サービス開始から一年経った攻略最前線でのフィールドボス。

 そんなモンスターから作れる銃は、どれほど強いんだろうか。

 試してみたい、作ってみたい、そして撃ちたい欲求が湧き上がってくる。


「おっと、ここからの情報は有料だぜ? 初発見のフィールドボスなんだ。タダってわけにはいかねぇよな? 金か、オレとタイマンするくらいはシテもらおうか」

「ったく、この戦闘狂が……!」


 明らかに目の色が変わったであろう俺を見て、意地汚い笑みを浮かべて

 VRゲーム全盛のこのご時世、相手の動きがわかるということの重要性は、2D画面のレトロゲーだった頃と比べて天と地ほどの差がある。

 さらに言えば相手は倒せば圧倒的な見返りが得られるフィールドボス。そこに利害関係が絡むのも仕方の無いことだ。


「あーでも、名前くらいは教えといてやるよ、どうせすぐに出るだろうしな」


 モーションや場所は有料だけどな、と付け加えて、しぐみりあはその名前を口にした。


 《流星機龍りゅうせいきりゅう アストライア》、と。



*****



 結局、しぐみりあとの話はそれで終わりだった。

 本人はまだ話したがっていたが、ポータルの登録も終わったし新しく用事ができたのもあって銃の整備の約束をしてから別れた。

 あとソーナがやけに話を終わらせたがっていたというのもある。


「ソーナってしぐみりあのこと苦手だっけ? 前はそんなこと無かったろ?」


 少なくとも俺の記憶では二人に関する因縁はなかったはずだと思っていたんだが。


「しぐみりあさんは嫌いってわけじゃないよ? ユーガに近づく女が嫌いってだけだから」

「わーお……」


 いろいろと思うところがあったようだった。

 いや近づくって、しぐみりあは俺に気があるとかそんなんじゃなくてからかってるだけだろうが、ソーナはそれでもお気に召さないらしい。

 今日も変わらず愛の重さを遺憾なく発揮しているソーナが可愛いってことで納得しておこうか。


 俺はソーナ以外に惚れたこともないし、なんなら自分も重いという自覚があるからこの愛の重さは何の問題も無いしむしろ彼女からの愛情を感じられて幸せです。

 幸せと恐怖は共存できるものなんだなって初めて知ったのはソーナと付き合ってからだったよ。


「で? 直接戦ったしぐみりあからの情報をなんで買わなかったんだ?」


 キャラメルオレが注がれたカップを持ったガオウが聞いてきた。

 しぐみりあ達、蛮死威怒バンディッドと別れて向かったのは、へクセンシルムにある喫茶店。エストールにもあった『ネクタル』のルクセンブルク店だ。

 地味にチェーン展開しているんだよな、ネクタル。店の質はいいし、納得ではあるんだけど。


 一息つくために俺はコーヒーを頼み、ソーナとセイリ女子組はパフェを注文した。

 メガサイズに定評がある、ネクタルらしい丼サイズのグラスに盛り付けられているパフェは見ていて圧巻だが、二人は美味しそうに食べている。俺なら胸焼けしそうだな……。


「お前なら真っ先に飛びつく内容だろう。昔はユニークモンスターに飛びついたんだからな」

「飛びつくって……否定はできないけど、なんにでもってわけじゃないさ」


 神代製のゴーレムのボスは少ない。これは間違いない。

 だが裏を返せばいることにはいるのだ。しかもLFO全体から見れば少ないということと、最近のエリアにはいなかったというだけで。


 その少ない中には、数種類の《ユニークモンスター》も含まれている。

 俺のユニーク討伐はその神代製ゴーレムだ。同じ狙撃手として倒してみせると誓い、そして見事討伐を成し遂げた。

 今、その素材はになっている。


「アストライアには飛びつきたいけどな。でも最新エリアのフィールドボスだ。信憑性も低いし、それに割高になることは予想できるだろ?」

「そりゃ向こうが価格設定できるわけだしな。値切っても情報絞られるだけだ」


 それも一回だけ戦った本人たちの主観が混じることだろう。

 こういう情報は嘘を伝えることは論外だが、情報を意図的に絞ることには文句を言えない。

 嘘は言っていないし、全ての情報を購入するだけの金が用意できなかったわけでもあるからな。


「そんな情報を高く買うよりも、それよりもリーズナブルで精度の高い情報をもらった方がお得じゃないか?」

「でもそんな都合のいいことがあるわけが」


 と言いかけて、はっと気付いたように目を見開くガオウ。


「おいまさか……」

「そのまさかさ。聞いてみたらちょうど逃げ帰る途中らしくてな。この前の貸しを払って貰おうかと思って」


 そう言ったとき、突然そいつは現れた。



「毎度どうもー! 知りたいこともあなたのことも、隅から隅まで見ています! 記者カモメでーす!!」



 俺の背後に煙とボフンッ! という音と共に、緑色の忍者が現れる。

 藍色の髪に深緑のくのいち装束に身を包んだそのプレイヤーは、前に俺たちに盗撮を仕掛けてきた配信者だった。


「盗撮をつけろよ、カモメ。自己紹介はしっかりしろって」

「もー釣れないですねー! ワタシがわざわざ急いで来てあげたというのに! そんな態度だと追加料金もらっちゃいますよ~?」


 俺の肩を掴んでウザ絡みしてくるカモメ。そんなことをしていると知らないぞ。


「あなたのこともは余計かなあカモメちゃ~ん……?」

「ひいっ、ソーにゃん……!」


 いつの間にかカモメの背後に回ったソーナが、カモメの目を覗き込む。


「もういちどオハナシ……する?」

「いっ、いえ! しませんしてませんしたくありません!」


全身を震え上がらせながら縮こまるこの怯え様……ソーナに何をされたんだ……。あとしてないってなんだ、何をしていなかったんだ。


「相変わらず騒がしいな、カモメは」

「あっ、ガオウさんにセイリちゃんも。お久しぶり~」

「やっほー、カモメちゃん」


 こんなのでもカモメは腕利きの情報屋だ。ガオウ達との面識もあるし、だからこそ声をかけたんだ。


「さて、隆没の巨台地のフィールドボスの情報ですよね」


 席について注文をして、ようやく落ち着いて話が始まった。


「ついさっきのことだろうが。本当に知ってんのか?」

「それはもちろん。ワタシ、最近は配信出来ていませんでしたけど、蛮死威怒バンディッドさん達に密着していたので!」

「クランの幹部に怒られたからだろ」

「それ許可取ってるのかな?」

「たまたま行く方向が一緒だったので! でも、ユーガ氏は助かるでしょ?」


 聞いていて鼻で笑いたくなる後付けの屁理屈だが、たしかに俺が欲しいのはその主観が入っていない情報だ。


「前回の出演料としてお高くなるはずのこの情報を、出血大サービスのタダでお譲りしましょう! ユーガ氏たちならそのうちスクープを持ってきてくれそうですし。拡散は止めてくださいね? ワタシが儲からないので!」


 こうしてカモメという抜け穴的ルートを使って、俺はまだ見ぬフィールドボス《流星機龍 アストライア》の情報を入手した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る