古代の鉄人形


 金角山羊メタルホーンゴートを倒した俺たちは、順調に遺跡都市ヘクセンシルムへと向かっていた。

 順調と言っても途中で何回も巨大なモンスターに絡まれたわけだが……


「くっそ、なんなんだよあの羊……ただの巨大な毛玉かと思ったらドラッグカーじゃねぇか……」

「自分は毛に守られてるから、何に当たろうとお構いなしに突進してきたね……」

「岩に当たって跳ね返ってきたときはさすがに僕でも死んだかと思ったよ」

「おまけに銃弾が効かないってなんなんだよもう……銃メタすぎないか?」



 金角山羊を倒してから遭遇したモンスター《剛毛羊コットンシープ》は、草食動物のフリをしたドラッグカーだった。

 顔も見えなくなりそうなほどの毛量で全身を覆っており、それを活かした高速突進が主な攻撃手段の巨大な羊だ。


 当たったら跳ね飛ばされて落下ダメージを受ける特殊な攻撃を繰り出してくる、というかそれしかしてこなかった。

 しかも斬撃以外の物理攻撃にめっぽう強く、毛の弾性を利用して障害物に当たるたびにピンボールのように反射してくる手強い相手だった。

 毛は剣などの斬撃で刈れるから、いかにうまく突進中に毛を切り払えるか、魔法を当てるかだったな。


「それにしても今日、俺いいとこなしなじゃないか?」

「大丈夫だよー。ユーガが倒せないのは私が斬っちゃうから!」

「頼もしい彼女だよ、ほんと」


 頼しすぎて俺が霞んじまいそうだ。情けない姿はできるだけ見せたくないんだけどなぁ。

 その逞しさをさらに増長させてるのは俺なんだけどね、彼女の装備作り楽しい。


「むしろユーガを狙うやつぜーんぶ叩き斬ってあげる!」

「狙うの定義が広そうだなぁ……」

「愛の深さが違うな」

「ソーナが何を叩き斬ると思っているんだお前らは……」

「そりゃあ……なあ?」

「そうだね、前みたいに……」

「……え? ちょっと待って、前って何? 俺の知らないうちに何かあったのか? そこで目を逸らすなよ怖ぇんだよ!」


 モンスターだよな? Mobだよな!? そうであってくれ!

 自分の彼女が人斬りでしたとか勘弁してくれ? いやそうであってもソーナは好きだけど……うん、好きだけど!


「あ、そんなことよりもそろそろじゃないかな?」

「俺にとってはそんなことで済ませられないんだが……」

「犯罪にはなってないから安心しろ、それよりお前が会いたい相手がお出ましだぞ」


 その犯罪というワードが出る時点でヤベェってことわかってないのか?

 法を軽々しく蹴っ飛ばすように破っている俺が言えた義理じゃないが。


「はあ……で、俺の会いたい相手って……なるほど、確かに」


 ガオウの言葉に前方を見てみれば、少し遠くの方に黒い人影があることを確認できた。

 このエリアにいるモンスターは巨体な傾向があるが、それは二種類に分けられるモンスター群の片方、生物系のモンスターだけだ。

 ではもう片方の種類とは、今まさしく俺たちの前に立ちはだかっている――


「会いたかったぜ……銃製造強化のお供、《ドールマン》シリーズ達ィ……ッ!」


 神代製のゴーレムだ。

 ゴーレムというと語弊がある。あれはむしろロボットと言った方がしっくりくるだろう。

 マネキンのようなツルツルとした黒い表面に、体中に走る青色に光るラインと双眼ツインアイ

 それが俺たちの目の前にいるエネミー《ドールマン》シリーズの共通特徴だ。


「両手斧と、大盾か。なるほど今までいなかった種類だ。これは装備更新も見込めるか?」


 俺の銃はほとんどがドールマンの素材を使って作られている。新しい種類のコイツらの素材も期待が出来るぜ!

《鑑定》を使うと、《ディフェンサードール・アクスマン》と、《ディフェンサードール・シールドマン》という名前があらわにされた。


守護者ディフェンサ―ってことは、ここらにある施設を守ってる警備ロボットみたいなものなのかな」

「ありそう。金角山羊とは仲悪そうだねぇ」

「物理系の人型エネミーは大得意だよ! レッドビ―トの出番だね!」


 ソーナが目を輝かせてエリクトールとセット運用している紅剣を抜き放つ。

 この紅剣は、あるレイドボスの素材から作った『戦昂紅剣レッドビート』。防御に優れた性能を持つソーナのメイン武器だ。

 だいたい物理防御に使われるから、ソーナの所有する剣の中で一番の働き者となっている。


「じゃあ俺とソーナで仕掛けるからサポート頼む」

「わーったよ、後ろで見ててやる」

「鬱憤晴らし楽しんできてね」


 よくわかってるじゃないか。

 エレイル&セレイルに手をかけた俺と、エリクト―ル&レッドビートを手遊ぶソーナは、ゆっくりとドールマン達へと歩み寄っていった。


 ドールマン二体もこちらに気付いたようで、シールドマンが前に出て盾を構えてきた。

 へぇ、タンクとアタッカーの陣形を組んでるのか。盾が受け止めて斧が攻撃、シンプルながらプレイヤーのように連携してくるとは、今まで無かったパターンだ。


「じゃあ俺らも恋人同士のコンビネーション見せつけてやるか!」

「ゴーゴー!」


 解き放たれた猛犬のように、または玩具に真っ直ぐ向かう無邪気な子供のように、ソーナは駆けだした。持っているのは剣だがな!


「そんな盾は……!」


 盾を構えた盾持ちシールドマンの後ろに隠れる斧持ちアクスマン。たしかに厄介な思考ルーチンだ。

 だが俺たちにそんな小細工は通用しない。


「踏み越えてしまえばなんでもない!」


 ソーナが盾に蹴りを叩き込んで、壁を使った三角飛びのように空高く跳ぶ。

 そして《旅神の道筋ヘルメスロード》で宙を蹴り、すぐにアクスマンの背後へと回り込んだ。


「空までカバーしないと私は止められないよ」


 背後に回り込んだソーナはスキルによる一閃をガラ空きの背中に叩き込む。《鑑定》によるHPゲージは消えているが、そのいくらかは削ることができただろう。

 振り向きざまに斧を振るうが、ソーナはそれをレッドビートで自分に当たらないように弾く。

 レッドビートの効果は防御に用いた際、耐久値の減少が少なくなること。そして、その回数分次の攻撃に補正が掛かることだ。

 武器の耐久値は0になると修理が必要になるが、レッドビートの耐久値は他の武器と比べて軒並み外れている。


 よほど酷使しない限り、レッドビートは砕けない。ソーナを守る盾としてこれ以上無いように作ったのだから。

 そしてが砕けないなら、ソーナがガバることは無い!

 アクスマンはソーナに任せ、俺は俺の仕事だ。


「抜かれたら見たくなるよな盾持ちは。でも危険なのはソーナだけじゃないんだぜ!?」


 ソーナが抜いたことで振り返ったシールドマンの背中を《クイックドロウ》込みで弾丸を叩き込む。

 前のめりに倒れそうになったシールドマンは、しかし耐えて俺へと向き直る。

 正面衝突から一転、俺とソーナの挟み撃ちにされたドールマンは、それぞれの敵を定めたかのように武器を構えた。


 俺とお前らの付き合いじゃないか、抵抗なんてしないで体くれない? たぶん心臓部だけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る