遺跡都市 へクセンシルム


 大盾を装備したドールマンと対峙した俺は、エレイル&セレイルを両手にシールドマンに向かって駆けだした。

 体全体を隠せるほどの大盾と二丁拳銃。

 相性は悪いように感じられるが、それは怯えて遠くからペシペシ撃つからだ。


 全ての盾に言えることだが、近づいて盾を引っぺがすか、またはねじ込めば盾は機能しなくなる。

 盾も殴ってくるのが厄介なところだが、それはなんとか捌けばいいので。


「つーわけでお前はサンドバック決定だ! 《砕銃撃ガンブロークン》!」


 銃で殴れるようにスキルを発動し、シールドマンへ突貫。やっぱ双銃使いは前出て殴らねぇとなァ!

 盾は強い。だが同時に、自分の視界を制限してしまうという弱点もある。


「そんなん構えてちゃ見えねぇよなぁ! 《スリップスロート》!」


 勢いそのまま《スリップスロート》を発動し素早くやつの側面へ回り込む。


「ッオラァ!」


 まずはガラ空きの顔面を殴り飛ばし、空いているセレイルで顔面を銃撃する。

 ドールマンの弱点はだいたい人間と同じだ。だから頭部を撃てばクリティカルが出せる。

 高威力の光学銃の直撃は相当痛かったらしく、シールドマンは盾を振り回してくる。

 だがそれもカモだ。


「《銃流撃ガンズシェイド》」


 銃によるパリィに補正をかけるスキルを使い、大盾の攻撃を逸らす。すると後に残るのは隙だらけのシールドマン。

 なら、それにつけ込まない道理は無い。

 今なら頭部も装甲の薄い関節部も狙い放題なんだからな!


「《銃撃連星シュ―ティングスター》!」


 迷った末創った新しいオリジナルスキル《銃撃連星シューティングスター》。

 銃撃による攻撃がクリティカル攻撃だった場合、さらにそれが続くたびに、クリティカル倍率に補正が入る。

 つまりクリティカルが続くたびにダメージが上がるスキルだ。


 一発撃つたびにクリティカルになり、さらに威力が増していく銃撃に耐えきれず撃たれるたびに体勢を崩すシールドマン。

 はははは、クリティカル出し放題だ!


「これが隙を作る近接銃手の戦い方! 後衛だけじゃねーんだよ!」


 ガオウの前で何度も実演してやってるんだから、馬鹿にはできないはずなんだけどなぁ。

 そしてドールマンたちよ、ちょっと自分の相手だけに目を向けすぎじゃないか?

 お前らは離したが……俺たちは離れていても連携できるんだぜ?


「特にそこのアクスマン! 人の彼女ばかり見てんじゃねぇよ!」


《銃撃蓮星》のスキル効果はクリティカルを外すまで。だからここで隙だらけのアクスマンを撃ってもその効果は続く。

 ソーナに斧を振り下ろそうとしていたアクスマンの膝裏を撃ち抜き、体勢を崩してやればソーナが仕留められないはずもない。


「《クレセントスラッシュ》!」


 三日月のような軌跡を残す斬撃が首に吸い込まれるようにして入り、残り少なかったアクスマンのHPを刈り取った。


「っと、あとはお前だけだ」


 残るシールドマンは連発クリティカルによってボロボロになった身体を必死に大盾でカバーしていた。

 これじゃあ銃で狙えない……なんてな。


「今度は私を忘れてるよ」


 ソーナは速度を乗せた飛び蹴りを横から盾に叩き込む。弾かれるようにして大盾はどかされ、照準を置いていた位置に映るのはシールドマンの頭部。


「お前と同じ、連携ってのは互いをカバーできて初めて「連携」って言えるのさ。《一弾必殺ワンショットキル》」


 初めて連携らしい動きをしてくるドールマンだったが……俺とソーナのチームワークには、敵わなかったらしい。

 シールドマンは《銃撃連星》と《一弾必殺》の補正が重複した凶弾によってそのHPをゼロにした。


「ま、互いの体を台にして入れ替わりながら戦うくらい本気出させて貰わないと、物足りないけどね!」

「まったくだ」


 バトルロワイヤル形式のPvPイベントの時なんか凄かったからな。次々とくるもんだから俺とソーナがハリウッドアクション並みの動きをして、そのときのイベントの公式ムービーは歴代最高の再生数を叩き出した。

 あの規模をまたやるのは勘弁してほしいが……たしかに楽しかったなぁ。


「雑魚相手ならこんなもんか」

「ドロップはどうだい?」

「んー、めぼしいのはないかなぁ……装甲板ばっかだ」


 銃を作るときはそのゴーレムの核に値するドロップアイテムが必要だ。まあこればっかりは運か……


「私も似たかんじー。まあへクセンシルムまでにはもう何回か戦うだろうし、そのうち落ちるよ」


 物欲センサー発揮しなけりゃいいなぁ。

 新しい銃のための素材が落ちることを願いながら、歩を進めることになった。



*****



「回り込め! 今度は隠れさせるな!」

「芋砂は滅べッ!」


 撃っては隠れ、離れては撃つことを繰り返したするそのエネミーを必死に追いかける三つの影。

 隆没の巨台地は大きな岩だらけだ。簡単に登れる高台になる大岩もそこら中にあるが、たまに何も無いクレーター状の空き地がある。


 その空き地に俺、ガオウ、ソーナの三人は追い込み漁のように芋砂走行砲台《ライフルハーゲン・スナイパー》を追い入れた。

 特にガオウはよく狙われてたから目が血走ってるな。一番狙いやすい挙動だったんだろうな。

 もちろん、待っているのはこの女。


「いらっしゃい。しっぽりゆっくりしてってね、《繋ぐ凍氷鎖フローズ・コネクチェイン》」


 目を逸らしたくなるセリフと共に、地面から繋がる氷の鎖がライフルハーゲンの移動を封じる。

 三脚を持ちながらも車輪?で走行していたライフルハーゲンは、これを振り解くことは難しく。


「っしゃぁぁあああああッッッ!! 《斬断・破岩》!!」


 怒り心頭のガオウによって、その硬い装甲の破片を散らしながらスクラップになった。


「芋砂は許さん。それは俺のゲームの信条の一つだ」

「狙いやすい動きしてるお前が悪いんだよ」

「AGIねえんだから仕方ないだろうが!」


 いやAGI加味してもやたら隙だらけなんだよな。遠くに意識を向けてないというか、動きが素直なんだ。

 狙撃手としてはそういうやつを狙いたくなるのはよくわかる。延々とスナイパーに狙われ続けるタイプだ、ガオウは。


「結構ゴーレム倒したけど、どう?」

「装甲と関節部と銃身ばっかですね……」


 まあ、核はレアドロップ枠にされてる節があるしな……雑魚のレア泥がこんだけ渋るのも解せないが。

 今持つエレイルとセレイルにも古代ゴーレムの核が使われているが、あのときも大変だった。


 この二丁には攻撃型のゴーレムの核が使われているが、そのゴーレムはレアエネミーだったうえにドロップを外しまくったせいで一週間ずっとマラソンをした記憶が……あばばば。


「これが、物欲センサーか……」

「都市伝説 語ってないで行くよ、この辺りのハズなんだから」


 過去のトラウマに膝をつきそうになっている俺を冷たくあしらうセイリ。くっそ、これだから地獄を見たことないやつは。


「もー、あの時よりポップ率いいんだから。レベリングついでに沢山狩れば、そのうち出るよ。私も一緒にしてあげるから、ね?」

「ソーナぁ……」


 後ろから首に抱きついてきて落ち着かせるように耳元で囁いてくれる彼女がやっぱり一番だよ。


「ずっと出なくっても慰めてあげる、から、ね。……ふふふ、ちゅっ」

「ひゅえっ」


 目の前にあったからしたくなったのか、いきなり耳にキスされた。ぷるぷるとした柔らかくて熱いものが耳に触れて、びくっと体が反応してしまう。

 それだけでは満足できなかったのか、口を開けた気配がしたので、俺は急いでソーナを振り解いた。


「むー、ケチ。耳ペロするくらいいいじゃーん」

「いや、勘弁してくれよ。マイハウスならともかく、こんなところで……」


 いくらソーナのことが大好きでも、これはちょっと刺激が強すぎる。

 場所的なこともあるし、普通に耳を舐められるのは……うん、恥ずかしいしな。


「じゃあ帰ったらするからね」

「いやそれもちょっと……」

「お預けの分、もっと凄いことするからね?」

「……はい」

「よし! じゃあ元気出していこ!」


 だがそんなことは肉食系な彼女には通用しなかったようだ。

 あー……帰ったらどんなことされるのかな、もっと凄いこと……理性耐えきれるかな。


「フィールドでイチャついてんじゃねぇよ……ッ!」

「僕あれ凍らせても文句言われないと思うな」


 いつの間にかガオウは背中のツキワリを握りしめて、セイリはレスティアを開いていた。

 俺だってびっくりしたんだよぉ!


 気を取り直して、新しい街を探す。

 ただ歩いているだけじゃ見つからない街って何だ?


「たしかクレーターの近くにある苔に覆われた岩を登って、そこから見える割れるほど大きなヒビが入った大岩を探す……と」

「苔まみれの岩を登らせるって地味に殺意を感じるよな」


 しかもやたらわかりづらいところにあるらしい。

 俺がライフルのスコープで苔岩を探し、空を歩けるソーナに岩の上から探してもらう。


「たしか見つけたのってんところの傭兵団だろ? あいつらよく見つけたなぁ」

「がさつに見えるけど意外と細かいんだよね彼ら。ロールプレイは様になってるけれどね」

「見た目と中身のギャップが凄いんだよねー。あと、それっぽい岩見つけたよ」


 上を飛び回るソーナの案内を頼りに進むと、やがて大きなヒビが入った大岩を見つける。小さな雑居ビルくらいの大きさだろうか。

 情報通りなら、ここがらしい。


 一人、二人がなんとか通れるという大岩の亀裂に入ると、地下へと続く坂道になっていた。

 ごつごつとした岩で出来た真っ暗で細い道だ。俺たちはその道を降りていく。


「おいおい、ホントによく見つけたな……普通こんなところに街があるなんて思わないだろう」

「NPCから教えて貰う情報でもあったのかもしれないね。じゃなきゃ拠点が地下にあるだなんて、誰も思わないだろうし」


 見つけたやつには本当に感謝だな。俺だったらしばらく見つけられなさそうだ。

 しばらく歩いていると、淡い光が通路の先に見えてくる。


「うぉぉ……ここが」

「凄い……!」


 洞窟のような通路を抜け出たさきは、まさに「幻想的ファンタジー」だった。

 青い光が街中を照らし、建物はこれまでのどの街よりも古代色が強い、科学感溢れる機械的で無機質な街並み。


 Lost Fantasy Online空想が終わったゲームで感じる幻想ファンタジーが、科学的サイエンスチックとは考えさせられるところがある。


 とにかくここが、Lostロスト Fantasyファンタジー Oninオンライン、第十一の街。

 遺跡都市『へクセンシルム』だ。


_______________

・芋砂

芋スナイパー。主にFPSゲームなどで使われる蔑称。

遠距離から狙撃できるスタイルを選び、敵から攻撃されにくい定点から動かず一方的に敵をキルすることに専念するプレイスタイル。

やってる方は気持ちいいがやられる方は最悪。味方にも嫌がられることもある。

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