隆没の巨台地


 シルバーゲイルグリフォンとのボスバトルの場所は、土砂崩れによって崖にできた道の広場になっている場所。

 アプデによって道が開かれたが、巨台地の上に行くための道に奴が住み着き、エリアボスとして立ちはだかっていた。


 その門番を打ち倒し、急勾配の坂を登った先に広がるのが、地面から突き出す岩とそれに纏わり付く植物が広がる新エリア、『隆没りゅうぼつ巨台地きょだいち』だ。


 毎回のことだが、ここに来るには渓谷を抜け、シルバーゲイルグリフォンを倒し、あの坂道を登らなければならない。ライドアニマルを使えば楽だが、それにしたって時間が掛かる。


「うーん……何度来てもここは気持ちいいねー!」

「標高が高い山は空気が澄んでるって言うからな。行ったことはないけど」


 崖際から周囲の風景を見渡せば、いかに高いかよくわかる。下を見ればさっきまで進んできた渓谷がまるでアリの迷路だ。

 この絶景の影響で覚える錯覚か、ソーナの言うようにこの巨台地の空気は澄んでいるように感じられる。


「標高が高い場所は気温が下げられているらしいね。その影響もあると思うよ」

「マジかよ、そんな所まで作り込んでんのか」

「噂じゃ体温まで隠しマスクステータスにあるらしいぜ? 雪山でのバッドステータスはこれが原因じゃ無いか検証されてるって聞いたことがある」


 エリアによるバッドステータス一つにも隠しステータスが関与してくる辺り、LFOの作り込みは驚異的だ。

 どれほどヤバいのかと言えば、サービス開始から一年が経とうとしているのにも関わらず、検証勢が日夜走り回っていても初期から実装されているコンテンツが全て明かされていないらしいと言えば、わかるだろうか。

 存在すら知られていないマスクステータスも山のようにありそうだな……


 それはそれとしてこの巨台地では、この絶景や風情をいつまでも楽しんでいるわけにはいかない。

 エリアボスを倒して新しいエリアに入れば近くにあるはずの街が、この巨台地にはないからだ。


 長い峡谷を越えた先で、補給もせずになにも情報のないところを攻略するのは難しい。それはいつも先陣切って新エリアに飛び込む変人廃人達も変わらず、攻略に苦労していた理由だ。


 歩けど見渡せど見つからない街。俺たち四人はそれに飽きてゼウスデウス討伐という脇道に逸れた。

 ところがヴァルトベルクを倒したり配信者に絡まれたりと遊んでいる間に、トップクランの一つが街を発見したらしい。


「第十二の街、遺跡都市は、台地の中央に向かって進んだところにあるんだったか……遺跡都市、楽しみだなぁ」

「ユーガの銃は古代遺物アーティファクト扱いだもんね。遺跡みたいなところなら銃の素材に出来るものがたくさん出るんだっけ」

「ああ、銃カテゴリの武器は、神代製のゴーレムの核を使わないと作れないからな」

「だから強い銃を手に入れるのは難しいんだろ?」


 銃は出土したものが流通しており、生産できるNPCはいない。

 装備の製造をクリエイトベンチという古代遺物に頼っているのにも関わらず、銃を作れるのも扱えるのも古代人であるプレイヤーのみだ。NPCからの情報が無い以上、銃の生産は手探りで、強い銃を作るのはさらに難しかった。


 となれば、攻略が進めば銃の性能がモンスターに追いつかないことになるわけだ。

 それも銃が不遇と言われている要因である。ここまでマイナス要素が多いといっそ不遇武器として胸張った方がいいんじゃないか? いやポリシーを変えるな銃は最高銃は最高……


「最初残念だった性能面は、俺が製造法を確立してから比較的強い銃を作れるようにはなったんだけどなぁ……」

「お前なんで生産面でトップになってねぇんだ……銃の生産依頼なら取り放題だろ」

「銃の生産なんて顔見知りしか頼んでこないんだよ……」

「あー成る程ねぇ……そもそもの使用者数の問題かぁ」


 でも銃使い界隈では有名だし、銃の生産依頼もたまにあるんだぞ、銃使いは少ないから皆顔見知りだけどな。

 とそんなことを話しながらも、マップを見ながら着実に進んでいく。

 景色は代わり映えすること無く、大きな岩とそれに繁茂する植物に見慣れてきたくらいだ。

 だが、いつまでも散歩を楽しんでいるわけにはいかないようだ。

 なんと言ってもここは、LFOというゲームの攻略最前線なのだから。


「ここの動物系モンスター嫌いなんだよなぁ……HPバカみたいに多いし」

「大きい分タフネスもあるんだろうねー」


 目の前には、ばったり出くわしたヤギらしきモンスターが蹄で地面を蹴っている。

 この隆没の巨大地に出現するモンスターは大きく分けて二種類だ。

 その片方、動物系のモンスターには大きな共通点がある。


 とにかくデカくて、タフだということだ。


「そら来たぞ!」


 ヤギと言っても車よりデカいサイズで、ハンマーとしか思えないような金属で覆われている巨大な巻き角を振りかざして突進してくるんだからたまらない。

 台地のモンスター《金角山羊メタルホーンゴート》は攻守兼用の鉄の角を持つ。

 巨大な角の攻撃力は言うまでもなく、頭を狙えば角で銃弾を弾く面倒なやつだ。当然剣や槍も弾くから、正面からの対処は不可能に近い。


「はーいヤギさんこっちだよー」


 そんな奴に狙われたソーナは、きっちりと角が届かない範囲で鉄角ヤギの攻撃を躱し、通り過ぎざま斬撃を叩き込んでいく。


「赤い布はないから紅い剣で許してね!」

「牛じゃないからそれで大丈夫だと思うぞ」


 それに奴はヤギのくせに主食が鉄らしいから剣でも掲げとけばOKだ。おとなしく紙でも食ってろよ!


 俺は頭に撃っても角に弾かれるので、適当に足の関節に銃弾を叩き込んではいるが……駄目だな、あんまりダメージが出ない。


「やっぱりこういうのは僕の持ち回りだよねぇ! 一瞬止めるよ!」


 高耐久にはウチの魔法使いの魔法が光る。セイリによってヤギの足が氷の鎖によって絡め取られる。奴のパワーなら長くは保たないが、魔法の並列起動ができるセイリにとっては一瞬でも十分だ。


「《黒闇の喰壊ヴォイド・エクリプス》!」


 闇魔法の黒い球が、ヤギの体内で暴れ狂う。もちろん止まっているってことは他のメンバーにとってもチャンスということで。


「まずは足をぶっ壊す! 《斬断ざんだん破岩はがん》!」

「バフ盛り完了……! そぉーれそれそれ!」


 ガオウはスキルで後ろ足を。ソーナはエリクトールとレッドビートの普段使いコンビで前足を斬りつける。

 このパーティーの一番の特徴は個々の強さだ。それぞれが火力を出せるからカバーし合ったり集中攻撃をすることで絶大な攻撃力が出せる。

 俺? クリティカル出せなきゃ低DPSの置物だよ、ちくしょう!


「だからコイツら相手にするのは嫌なんだ! オラ状態異常弾でも食らっとけ!」


 銃の強み! 銃弾を切り替えることで様々な属性、状態異常で攻撃ができること!

 弓でも同じことはできるがそのスピードが違う。ヤギなんて怯んでいる間に麻痺だ。

 弱みは実弾銃でしか状態異常弾を使えないってことかな。エネルギー弾だと属性は内封できても毒物は混ぜられないから……


 ファスターで撃ち込んだ状態異常弾によって、体を痺れさせる金角山羊。

 防御力が高くクリティカルが出せない敵と戦うときのパーティー戦術は、俺が怯みや状態異常を起こすサポート要員に回ることだ。

 低DPSは黙って補助に回っとけってか? ハハハその通りで。


「オラァ! 今度は毒だ、麻痺だ! とっととぶっ飛ばしてくれ!」

「自分が活躍できてないからって荒れてない? ねぇユーガ!?」

「やっべぇ銃が効かないからキレてやがる!」


 こちとら渓谷からサポートばっかでフラストレーション溜まってんだよ! さっさと新しい銃の開発がしてぇんだ!

 こんなヤギとっととスプラッタだ! はいまた麻痺れぇ!


「怒ってるユーガも良いなぁ……♪」

「ちょっとソーナ? 彼氏見てて手を緩めないでくれない? あとバカップルすぎるよ……」

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