《シルバーゲイルグリフォン》・2


 ガオウの大剣がヒットし、大ダメージが入ったシルバーゲイルグリフォン。

 ゴリッゴリの近接ファイターの攻撃、それもユニーク武器による渾身の一撃は強烈だったようだ。


 戦闘を開始してから好きにやられてキレたのか、《鑑定》で見た奴のHPゲージが半分を切っていることが原因なのか。

 起き上がったシルバーゲイルグリフォンは全身の毛を逆立て、明らかに発狂モードに入っていた。


 風が吹き荒れ、グリフォンの周囲に竜巻のように纏われる。

 風を纏って近くの敵の動きを阻害し、遠くからの攻撃を弾く。さらには纏った風から予備動作無く攻撃を飛ばす、グリフォンの第二形態だ。


 この姿になってからは銃や魔法は効かず、近距離戦闘も辛いものになる。

 初見の時は辛かったなぁ……セイリは置物になってたし、《銃闘技ガンナアーツ》で無理矢理殴りに行っては吹き飛ばされた。

 予備動作がない風の刃が不意打ちで飛んできて、慣れていなかったソーナが死にかけるし、まともにダメージを与えられたのがガオウだけという地獄だった……


 おのれ飛ぶ遠距離無効はクソモンスの第一候補だぞ、だからこうやって完封されるんだざまぁみろ。

 使う武器に由来する私怨を多分に含め、俺は《固定換装セット》によって武器を変える。


「そのモードの対策と準備はとうに出来てるんだよなぁ……! ソーナ!」


「はいはい了解止めてくる!」


 その対策のかなめとなるのがソーナだ。

 戦闘を開始してからソーナは無数の攻撃を与えたが、それはダメージを与えるためのものではなかった。

 今も彼女が装備してるのは二本のレイピア。俺が彼女のために作った武器で、レイピアは一種類しか存在しない!


毒蜂細剣ホーネットピアーズ・麻痺モード! 君には体感五十回で麻痺が入るってわかってるんだよねぇ!」


 毒、麻痺、催眠と、攻撃に付与する状態異常の毒の種類を切り替えられる細剣を二振り携えてソーナが走る。

 グリフォンの全身を覆う暴風も不意の攻撃も、慣れてしまったソーナのPSがあればたかが十、二十回斬りつけるのなんて簡単だ。俺はやろうとも思えないけど。


「ところであれどうやって切り替えられるようになってるの?」


「設計上は毒が生成されるカートリッジを切り替える感じかな。鍔から剣の溝を伝って斬りつけたところから毒を注入する」


「毒も滴るいいレイピアに体の中に注入されちゃうのか……なんかえっちじゃない?」


「それに興奮を覚えンのは変態でも希有だぞ……?」


 そういう人間は普通の注射でもR-18判定じゃないか? 普段交友のある、学級委員長というそれなりの立場である王子様がその類の人間でないことを切に願う。

 でも手遅れかなあ……せめてリアルに出さないでくれ。


「ちょっとーもう麻痺るけどー!? 早く来てくれないーー!?」


 っと、さすがソーナ仕事が早い。ソーナが斬りつけ続けるグリフォンが痙攣して暴風も止んでいる。シルバーゲイルグリフォンの風の鎧は、状態異常で解除されるのだ。

 それじゃ、ダメージ稼ぎと行きますか!


 安定した中距離火力重視のファスターから、短いレンジでの爆発力が高いエレイル&セレイルに換装し、グリフォンを狙う。


「殴れ殴れ! ここで稼がねーとあとキツいぞ!」


「わかってらオラァ!」


 ガオウは大剣を振り回し、セイリは氷の槍を飛ばしつつ闇の弾で削っていく。

 俺は倒せなければ後の弾丸が威力減衰してしまう《一弾必殺ワンショットキル》は使わずに、それ以外のスキルでクリティカルを出しまくっていた。

 こういうときは余ったSPで威力上昇系のスキルを取るか創るかしておけばよかったと思うんだけどな。いつもスキル関連は慎重になる。


「キュグルァアアアア!!!」


 好き勝手に殴っていたが、どうやらボーナスタイムも終わりのようだ。

 麻痺が溶けたグリフォンは翼をはためかせて寄ってたかっていた俺たちを追い払う。

 流血表現は無いが、所々からポリゴンが流出している。輝いて美しかった羽も酷くボロボロだ。

 怒りの咆哮をあげるグリフォンだったが、先程のように風を纏うことができない。


「何度か調べてわかったからな。お前は……状態異常が起きているとき、あの害悪風を纏うことが出来ない!」


「だったら私の毒蜂細剣で状態異常ローテーションするよねぇ」


 体から立ち上る紫色の毒々しいエフェクト。ジリジリと減っていくHP。

 麻痺で動けないときに散々ソーナが叩き込んだ毒の効果が、グリフォンに正しく力を使わせない。


「風の無くなったお前なんて、陸に打ち上げられた魚だぜ!」


「単純に翼を失った鳥じゃいけねぇのか?」


「翼自体は失ってないからね! 解釈違いだよきっと」


「ちょーっと凍らせて串刺しにしただけだからね。いでないから失ってない」


「俺達がとんだ外道に思えてきたぜ……」


 モンスターにとってプレイヤーはみな外道だよ。

 だからせいぜい、ひと思いにやってやろうじゃないか。


「――《クイックドロウ》」


「――《血戦暴血けっせんぼうけつ》、《斬断ざんだん・――」


 身を屈めて、両腰のホルスターに納めたエレイルとセレイルに手をかける。

 ガオウは攻撃力を底上げするスキルを使って

 シルバーゲイルグリフォンは危機を感じとったのか、傷ついた翼で空に逃げようと足掻くがもう遅い。


「逃がさないよ、《繋ぐ凍氷鎖フローズ・コネクチェイン》」


 地面から四肢をい止める氷の鎖がグリフォンを縛り上げる。

 逃げたとしても、宙を駆ける戦乙女がいるのだ。叩き落とされる未来しか無い。

 現行最強のエリアボスなれど、完封されてしまう姿は哀れだ。


「《一弾必殺ワンショットキル》」


「――なぎ》ッ!」


 空を統べる白銀の鷹獅子は地に縫い止められ、致命ちめいの弾丸と決死の大剣によって倒された。

 ……うん、遠距離無効で飛び回るお前が悪い。南無三!



『エリアボス、《シルバーゲイルグリフォン》を討伐しました』



_______________________

《鑑定》

アイテムの名前やMobの名前などを把握する発生スキル。

注視するとHPゲージが見えるため、だいたいのプレイヤーがとっている。

そういうものを見たくないリアル志向のプレイヤーなどは獲得していない。

(これまで見ていたHPゲージも鑑定によるもの)


《血戦暴血》

自分の体力を参照して、残りHPが少ないほどSTR・VITに上昇補正が入る。

そして自分がダメージを受けた直後の数秒間、攻撃力に補正が入る。

(つまり火事場と逆恨み。決して両立出来ないスキルだろお前ら)




一週間空いてしまい、すみませんでした。

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