渓谷を征く




 俺たち四人のパーティーはそれぞれがやりたいことをやっているせいで、なんと全員攻撃手のフルアタッカー構成だ。

 回復役もいなければ攻撃を受け止めるタンクもいない。


 ただ、全くダメージを受けないでヘイトを持ち続けられる回避タンクを兼任できる魔法軽戦士と、大抵の攻撃を捌くことが出来るタンクもどきの剣闘士グラディエーターという優秀な前衛が二人も揃っている。


 さらに遠距離から大ダメージを与えられる攻撃職に、拘束力の高い魔法アタッカーがどんどんダメージを出していくせいで、奇跡的にパーティーとして成立している。

 攻撃は最大の防御を実行できる最強のパーティー、悪く言えば脳筋パーティーである。誰が脳筋だ。

 このエリアには当然、岩トカゲ以外のモンスターも数種類いるんだが。




 全身が岩で出来ている天然ゴーレムのくせに、衝撃を与えると装甲が散弾銃よろしく弾けてダメージを与えてくるソーナの天敵、《スプレッションゴーレム》とか。


「射程が足りてないぞ! これだからショットガンはダメなんだ!」

「小銃相手に散弾銃で立ち向かえってのも酷な話だと思うがな……」




 岩肌を地面のように駆け上り、地形と速度を活かして死角から奇襲を仕掛けてくるクロヒョウ、《キャニオンパンサー》とか。


「ん? えいっ」

「うわっ、奇襲に完璧に反応してるよソーナ……見えてなかったのに頸動脈撫で斬り。文句なしのクリティカルだ」

「速いけど硬くないパンサーくんには痛撃だな……ソーナ相手に後ろから驚かすのはやめよう」



 後先を考えていないせいで、最高速度かつ直角に近い角度で地面に突っ込み、抉り取るほどの威力を持つ爪で襲って来るアグレッシブ鳥類、《強襲鷹アサルトホーク》とか。


「質量を持つ物体がそれなりの速度で刃物に突っ込むとどうなると思う? 答えはガオウが実践してくれるよ」

「大剣なら構えてるだけで真っ二つなんだ……片手剣じゃこうはいかないなぁ。タイミング合わせて首に一撃するくらいしかできないよ」

「それ野球のボールを真上から斬るのと同じなんじゃないか? ……えっ、できるの?」



 追加エリア一歩手前だけあってどのモンスターも強力だが、どいつもこいつも力技で次々と倒していった。

 ここ最近PvPがあったからいい慣らしになった。やっぱRPGは現実離れなモンスターエネミーを倒してこそよ。

 人を撃ちたいならFPSに行くね。バトロワならどれだけ撃っても次から次へと来るからな。

 スプレッションゴーレム以外はばっさばっさと斬り倒しているソーナもテンションが上がってきて、今は一人でキャニオンパンサー四体を相手取っている。

 ソーナの輝かんばかりの笑顔を見るだけで、ほくほくと頬が緩んでくる。


「可愛いなぁ……」

「お前あの蹂躙を見てよくそんな顔できるなァ……」


 彼女の楽しそうな顔を見れて満足です。なおその場の状況には目を瞑るものとする。ソーナの笑顔のためなら生態系破壊も致し方ないよね!


「まあ、このまま行けば余裕で渓谷は突破できるから良かったぜ。通り道になったここいらの敵に苦戦しなくて良いのは助かる」

「そりゃそうでしょ。僕らにはコレがあるんだから」


 そう言ったセイリは、自分の持つ魔導書『刻氷の魔書レスティア』をぱたぱたと振った。


 魔導書という武器は、登録された魔法の威力を上昇させ、消費MPを軽減という簡単に言えば魔法を限定した長杖と短杖のいいとこ取りのレア武器だ。

 登録された魔法以外には補正が乗らないことと、生産で作れない非生産装備であることからそこまで使っているプレイヤーは少ない。


 だがセイリの持つ刻氷の魔書レスティアは別格だ。なにせ、エンドコンテンツとも言われているユニークモンスター由来のものなのだから。


「ここらで苦戦してたら、越えてきたユニーク達に示しがつかないじゃん?」

「ユニーク武器は本当にぶっ壊れ性能だからなぁ……元になった奴らがこのレベル帯のボスでも比べものにならねぇから、妥当っちゃ妥当か」


 ガオウが背負った大剣を撫でる。ガオウのメイン武器である大剣『黒熊の月剣ツキワリ』もユニークモンスターの素材から作られたものだ。


 そもそもユニークモンスターとは、各地に存在するボスモンスターである。

 だがその強さはエリアボス、フィールドボスなどとは比べものにもならず、プレイヤーに倒されることを想定されていないと言わしめた。

 だが倒したときのリターンは大きい。大量の経験値に加え、他の武器とは一線を画す強力なユニーク武器が作れる。


「ユニーク武器様々だねぇ。僕はもうコレ無しにはLFOはできないよ」

「でもまあ、俺とソーナは使ってないけどな。俺のはスナイパーライフルだし」

「そりゃ普段使いに向かないように作ったのはお前だろうが。本体は強いんだから仕方ないだろ」

「仕方ないのはわかるんだけどさぁ……一番好きなヤツだけに、使いどころが限られるのは悲しいな」


 もっと使ってやりたいんだが、スナイパーライフルの中でも超遠距離狙撃に特化した仕様にしちまったからなぁ……。

 ソーナのユニーク武器も強力なのは強力なのだが、いまいちソーナの戦闘スタイルと噛み合っていないせいで普段使いはされていない。

 生産職のトップに頼んだガオウの黒熊の月剣ツキワリとは違って、俺が作ったからなぁ……本人が良いと言ってくれているが、せっかくの素材を生かし切れなかったのは悔やまれる。


「みんなー! 終わったよー!」

「お、早いな」

「速くても硬くはないからね! 速さで私に勝てるわけがないじゃん」

「なんでモンスターより人の方が速いんだろうねぇ」


 防御力もなにもかも機動力に特化したからだろうな。いったいどれくらいの人間がそれを操れるのかは知らないが。


「お疲れ。綺麗だったよ、戦ってるとこ」

「ふふふふ! もーユーガったら!」


 抱きついてくるソーナの頭を撫でる。VR空間だと、ソラナの髪のきめ細やかさは再現できないが、撫でたときのソラナ本人の癖が同じだから十分楽しい。

 ソラナは撫でると頭を擦りつけてくる癖がある。ソラナは女性としては長身でソーナアバターも変わらないが、抱きつくときは首元に腕を回してくるので頭の位置が下がって撫でやすいのだ。あと犬みたいで可愛い。


「二人の世界作るのやめろや……お前よくそんなナチュラルに褒められるよな。イタリア人の血でも入ってんじゃねーの?」

「何言ってんだよ、んなわけあるか失礼な」


 俺はソーナに本気で惚れているだけだ。だから離したくないし、そのためならなんだってやるって思いがある。

 俺みたいな人間が、こうして付き合えているのも奇跡みたいなもんだ。気恥ずかしさなんてとうの昔に消したよ。


「ほらほら、お砂糖タイムは次の街に到着して、僕らがいないところでやってよ」

「お砂糖タイムって、やめてよセイリ! 普通のスキンシップだって」

「じゃあ甘~い練乳タイム? 真っ白なドロッドロまみれだね!」


 ここでツッコミをしたら俺は負けになるんだろうか……

 なにはともあれ、俺たちは順調に岩流の渓谷を進んでいった。

 目的地である隆没の巨台地はかなり近づいてきている。だが、その前に越えなければいけない壁がある。


 LFOでは次のエリアに進む際に障壁となるボスモンスターが立ちはだかる。

 それがエリアボス。ダンジョンならば、ダンジョンボス。

 このボスを倒せなければ次のエリアには行けず、寄生や出荷などで無理やり突破してもその先で通用しなくなる。いわば試金石。


 倒せばそれなりの経験値と、初討伐ならSPも手に入る。強くなれば実験台やサンドバックにもできるしな、俺も適当なエリアボスで作った銃の試し撃ちをしたりする。

 それでも現在最強のエリアボスともなれば、のんきに実験作の的とはいかないわけだ。

 岩流の渓谷から巨台地へは、崖崩れでできた坂道を上る必要がある。奴はそこに住み着いた。


 白銀の体毛を持ち、巨大な体躯を持つグリフォンの特殊個体《シルバーゲイルグリフォン》。風を刃として操り、その強靭な爪と鋭いくちばしで外敵を排除するエリアボスだ。


「グリフォンだから飛ぶし、遠距離攻撃もある。そのくせ素早くて直接攻撃も強い」

「さすがは後半のボスってところだねぇ」


 その攻守のバランスの良さはあらゆる初見のプレイヤーを苦戦させた。新エリアに挑む多くのプレイヤーの心を叩き折った手強き門番……だが。


「対策法が確立しちゃった私たちからしたらチョロいけどね」

「言ってやるなよ……エリア入るたびにいちいち倒さないといけないから、効率優先で倒しちゃったけどさ」


 ゼウス・デウスに釣られる前の二、三日は巨台地に入り浸ってたから、とにかく速度優先で倒したんだよな……

 現在最強のエリアボスさんには悪いが、これは戦いじゃない。

 若干作業じみた、グリフォン狩りと行くか。



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