大柄美女のお抱え細工師


 日は変わって翌日の放課後。

 新学期のぬるい授業をこなしてソラナとの昼食の食べさせ合いで周囲の人間を砂糖の海に沈めた学校から、LFOの世界へとログインする。


「ふっふふっふふ~ん!」


「機嫌いいな。どうしたんだよ」

「だって本格的に新エリア探索でしょ。どんなのがあるか楽しみじゃん!」

「それはわかる!」


 今日はガオウ達と一緒に、新エリア攻略を目的とした日だ。

 その前にソーナが製作を依頼していたアクセサリーを受け取りに向かうために、ホームタウンのエストールを歩いていた。


 石畳が敷かれた古風の欧米のような町並みは、ファンタジーらしい装いのプレイヤーが歩くことでまるで異世界のようだ。

 特に輝きを放つ銀髪を揺らして歩くソーナは美しさがより際立つ。


「まあ、こうやってユーガと街を歩いてるだけでも楽しいけどねっ!」


 右腕に抱きつきながら、頭を肩に乗せて見つめて笑いかけてくるのは、控えめに言って反則だ。長身で抜群のプロポーションのソーナがやると、ギャップ萌えに近い何かが胸を焼き焦がす。


「ソーナ」

「んん?」

「可愛いよ。凄く」

「好き? 惚れ直しちゃった?」

「いつだって惚れ直してるさ。ソーナは綺麗で可愛くって格好良いんだから」

「やたっ!」


 彼女は美人寄りの美少女だ。綺麗で格好良い。だがもちろん可愛さも十二分にあることを日々思い知らされている。

 俺の彼女は今日も可愛い。


「ユーガもかっこいいからね!」


 可愛すぎてツラい。


 そんな会話をしながら、だんだんと狭い路地へと入っていく。

 といってもそれほど暗くはなく、人通りもないわけではない。ひっそりとした名店が隠れていそうな雰囲気だ。

 そして俺たちの目的地は、そんな『隠れた名店』なのだ。


 やがて窓辺にいくつかの装飾品が飾られた店が見えてくる。

 看板がなく、一目見ただけではよくわからない怪しげな店だが、ソーナは躊躇いなくドアを開いて入っていく。


「やっほー! リビア、いるー!?」

「いるに決まってるでしょ、アンタに依頼されてたんだから」


 店のカウンターに座っていたのは呆れたように笑みを浮かべる大柄な女性だった。

 彼女はリビア。とあるクエストで知り合ったNPCであり、俺が製作できないアクセサリーを製作できるクラス《細工師》のアクセサリー職人。

 その中でもソーナの持つぶっ壊れアクセサリー、幻刃の首飾りトゥワイス=セリーテを作った凄腕だ。


「あら、ユーガも来たの? アンタ自分の用では全然来ないのに、彼女の付き添いは頻繁に来るわよね」

「そりゃ愛しの彼女だしな。付き添いなら来るさ」

「自分の用で来なさいよ」


 リビアの世話になることは、俺よりもソーナの方が圧倒的に多い。

 俺は銃を撃つだけだからな。自前のテクニックが主なので、武器さえ充実していればいいからアクセサリーの更新はほとんど無い。


 編重ステータス的にアクセサリーの補正は焼け石に水くらいにしかならないからな。DEXに補正が掛かる効果くらいしか使っていない。

 出会ったばかりの頃に作ってもらったDEXに補正をかける『黒絹のグローブ』で十分事足りる。新しいものを作ろうとしても誤差にしかならないほど高品質なアクセサリーだ。


 他にも優秀なアクセサリーを作ってもらったから、変えようとは思えないな。

 そんな俺だったが、頻繁にソーナと一緒に来るから好感度が低くならないで済んでいる。


「相も変わらずラブラブなことで。まあいいわ。例のものはしっかり出来てるから、とってくるわ。ちょっと待ってなさい」


「はーい。じゃあ適当に店の中のもの見てるねー」


 リビアが店の奥に消えていったので、ソーナは店の中に飾られた品物をわくわくした目で見に行った。


 特殊なNPCのリビアは、あるクエストをクリアしなければアクセサリーを作ってもらうことは出来ない。普段はプレイヤー、つまりこちらの世界で言う古代人『眠りし人』とは商売をせずに、街の人を相手に商売をしているらしい。

 知る限りでは、プレイヤーでリビアの世話になっているのは俺たちだけだ。


 店内の品物は街の人に向けたもので、装備品というよりは装飾品という意味合いが強いらしく、効果はそれほど強くないものばかりだ。

 それでも女子高生であるソーナには十分魅力的らしいが、俺はゲーマー脳の男なので、それほどお洒落に興味が無い。


 それよりも、リビアの体格の方が気になっていた。

 ソーナは女性の中でも割と長身な方だ。だがリビアはそんなソーナと並んでも頭二つくらい違うほどの大柄なのだ。

 さっきだって店の奥に入るためのドアを屈んで通っていたからな……おそらく一九〇センチはあるだろう。


 ゲームとはいえ恐ろしいほどの体躯。毎回思うのだが、なんであれで戦闘職じゃないんだろうな……。しかし彼女の前でそんなことはおくびにも出せない。前に言いかけて思いっきり殴り飛ばされたからな。

 巨女とか言ったら首根っこを掴まれて砲丸投げが体験できるぞ。お前が砲丸だがな!


「ユーガ、なにか失礼なこと考えてないわよね?」

「まっさかぁ。そんなことあるわけないじゃないか」


 いつの間にか店の奥から木箱を抱え戻ってきたリビアがジト目で睨んできた……NPC、つまりAIなのに察してきたぞ。うちのカナンくらい高度な知性レベルなんじゃないか?

 やっぱりLFOは上等なAIを積んでいる。さすが幻想を終わらせるって謳い文句なだけあるぜ。

 おかげでこっちも臨場感ありまくりだよ。下手したら生産職にミンチにされかねないからな……。


「それでそれで!? リビア、どうなったの?」

「焦らないの、アクセサリーは逃げないわよ。あと言って置くけど、これはそれに匹敵するくらいのとびっきりよ」


 リビアはソーナの胸元に光る自身の最高傑作幻刃の首飾りをして、それと同格であることをほのめかす。

 彼女によって開けられた、豪華な装飾が施された木箱から姿を現したものは。


「――『不朽の翠魂ヴァルド=ソウル』。かの山を統べる竜の魂を宿した、まさに不倒不滅を現すアクセサリーよ」


 つい先日、初討伐を成したフィールドボス。そのドロップアイテム森林竜の首飾りを彷彿とさせるブレスレットだった。

 それは森緑竜の首飾りを、おなじくヴァルトベルクのレアドロップ、『峰山竜の不滅魂』と回復系の性質を持つアイテムを使い、強化させたものだった。

そっとソーナがそれを取り上げて、メニューウィンドウを開く。




不朽の翠魂ヴァルド=ソウル


 淡く輝く宝玉を据えた龍木の首飾り。

 龍ならざれどそれを目指した竜王の一角は、死してなお不滅を誇る。

 朽ちぬ、滅びぬ、太古より茂る森林のように。


 VITに上昇補正。

 ダメージを受けたとき、受けたダメージに応じてHPを回復する。

 ダメージを与えたとき、与えたダメージに応じてHPを回復する。

 一定以上のHPのとき、戦闘中に一度だけ食いしばり効果を付与する。




「うっわぁ……」


 思わず声が漏れた。なんだこの絶対死なせないという強い意志を感じさせる能力は。

 だが……これをソーナが? という疑問が頭に浮かんだ。

 たしかにこれをタンクが持てば最強の盾の出来上がりだろう。なんなら壁も出来て殴りも出来るガオウが一番強くなれる。


 しかしソーナは恐ろしいほどの紙装甲だ。もはやティッシュ装甲と呼んでも差し支えない「あたらなければどうということはない」を地で行くソーナが、HP回復?


「幻刃の首飾りと併用するために、首飾りだったものを腕輪に作り直したわ。重さも出来る限り抑えたけど……どう?」


「――うん、最高! 理想通りだよ、リビア!」


 そんな俺の疑問とは裏腹に、ソーナは満面の笑みを浮かべ嬉々として自分のアクセサリースロットにそれをセットした。


「ふふん。そりゃそうでしょ。アタシに迫る職人はなかなかいないもの」


 ソーナからの評価でこれ以上ないドヤ顔を見せるリビア。

 実際かなりの凄腕なので、リビアほどの細工師が他にいるかと言われれば少ないだろうが……タッパのでかい美女が子供みたいなドヤ顔をするのは不思議なアンバランスさがあった。


 それから少しだけ雑談をしたあとで、待ち合わせのために俺たちはリビアの店を後にした。




「なあ、さっきソーナは注文通りって言ってたけど、HP回復ってどうするんだよ。ほとんどあたらないじゃないか」


 ガオウやセイリとの待ち合わせ場所に行く途中で、店で感じた疑問を聞いてみた。


「実はちょっと考えがあってね~。成功したら、ユーガも喜ぶと思うよ?」

「驚くじゃなくて、喜ぶ?」


 なんだろうか、ソーナが強くなるならそれは嬉しいし喜ばしいが、それとはちょっと違うだろう。


「正解はそのときのお楽しみにね!」

「ふふふ、そっか。じゃあ楽しみにしてる」


 ソーナが言うなら喜んで待とう。

 どうせずっと一緒にいるんだ。そのうち見れるだろう。

 俺は新たな期待を胸に、ソーナの手を握りながらエストールの転移ポータルの元へ歩いた。



_______________________

装備品は主に頭、胴、腰、足の四部位に装備できます。

これまでは一括で作られたシリーズ防具でしたがそれぞれの部位で名前もあります。


・ユーガ

《装備》

銃機装ガンナードシリーズ

頭:無し

胴:銃手の胸装

腰:銃手の腰装

足:銃手の脚装

それぞれDEXに上昇補正。


《アクセサリー》

『黒絹のグローブ』

 薄手の指ぬきグローブ。DEX上昇補正。


『オートロード・マガジンホルダー』

 銃のマガジンを固定し、スムーズに出納、そしてそのままリロードできるよう設計されたマガジンホルダー。マガジンがなくなると自動でインベントリからホルダーにマガジンを出す。

 なにげにぶっ壊れ。


『ステップカバー・アンクレット』

 足首につけられる軽量なアンクレット。

 回避行動時、AGI上昇補正。


『闘技の腕輪』

 手首の動きを阻害しない

 近接攻撃時、STR上昇補正。


『森緑竜の首飾り』

 ダメージを与えるほど、ダメージに応じて自分のHPを回復する。

 戦闘終了まで、受けたダメージに応じて最大HPの上限を上昇させる。

 VITに上昇補正。




・ソーナ

《装備》

戦乙女銀装ヴァルキュリア・ドレスシリーズ

頭:無し

胴:『戦乙女の銀鎧』

腰:『戦乙女の銀腰鎧』

足:『戦乙女の銀具足』

それぞれAGI上昇補正、魔法消費MP軽減


《アクセサリー》

『風狼のチョーカー』

STR、AGI上昇補正


『魔鋼の腕輪』

MP量up、MP回復量up


『身代わりの命玉めいぎょく

HPがゼロになるとき、かわりに破壊されることで装備者のHPを1にする


魔蝶の耳飾りマギアバタフライ・ピアス

MPリジェネ


『幻刃の首飾り《トゥワイス=セリーテ》』

金、銀色の短剣を作り出すペンダント。

装備者の余剰MPを吸収し蓄積させておき、それを消費することで手元に直刃ナイフを出現させる。三十本分までストック可能。

投擲、近接武器として使うことができる。

《トゥワイス・ワイズ》のレアドロップ素材から作った。

レアモンスターのレア素材から、隠しNPCの職人が作ったのでオンリーワンの性能をしている。



不朽の翠魂ヴァルト=ソウル』New!!

ソーナの奥の手を最大限生かすために製作を依頼した『幻刃の首飾り』に匹敵するぶっ壊れアクセサリー。タンクが装備すればアホみたいな性能になるが、その唯一のアクセサリーを持つのは紙装甲の権化のような女。



戦乙女銀装のイメージは某ハイスクールの残念ヴァルキリーさんの鎧。

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