一難去って波乱の予感


 団長からの容赦ない尻尾切り宣言を受け、俺たちを目のかたきにして難癖をつけてきたスピリッツゲーマーズの四人は、茫然自失といった様子で去って行った。

 視聴者の前でこれ以上無いほど惨敗を喫し、クランマスターにも処罰された姿はさすがに哀れ……でもないな。普通に自業自得だ。


 被害をこうむった人間は悪びれる必要は無い。こちらに非は存在せず、加害者が一方的に苦痛を与えてきただけなのだから。

 かといって常軌をいっした仕返しも良くない。一線を越えてしまえば、あっという間に被害者が加害者に成り代わっちまうからな。


「まあ今回の件は別に良いよな。向こうが十割悪いし、リアルでもないし、それにまだ優しい方だ。セーフセーフ」

「わざと遅延行為しておいて何言ってやがる……」

「それにソーナは明らかにトラウマにしちゃってるでしょ。やり過ぎだよ、あれは」

「えー、仕方ないでしょー? ついやっちゃったんだから! 煽ってきた向こうが悪いんだよ」


 ガオウは呆れた顔で俺を見て、セイリは残虐なソーナの仕返しに苦笑する。

 俺はしっかりと直視はしていない。できなかった、が正しいけども。


 ソーナがすっきりしていて、俺に飛び火してこなければいいや!

 本気でキレたときは、その相手のみならずこっちにも被害が及ぶからな……機嫌が直ったあとで謝ってくれるけど、それまでソーナに話しかけられないのがちょっとツラい。


「見事にブチ切れてたよね。今は落ち着いてるけど」

「そりゃ好きな人のこと悪く言われたからねぇ……まあ手を出すなんて方向じゃなかったからいいケド……」

「猛獣の宝物に手を出そうとするようなのは猛獣だけだろうねぇ……」

「それがもしあったら、始まるのは怪獣大決戦じゃねぇかなァ……」


 争いは同じレベルでしか起こらない、って話か? ソーナレベルがそうそう居るとは思えないけどな。実力的な意味でも、愛の深さ的な意味でも。

 あとガオウは、人の彼女を怪獣扱いしないでほしいな。否定しきれない自分がいるけど。


「さて、ウチのメンバーが悪かったね。ユーガくんたち」

「俺は構いやしねぇよ。アンタの苦労はユーガ経由で少しは聞いてるしな」

「人数増えると大変だろうからねぇ。複数プレイの方がマシなんじゃないかな?」

「ちょっとお口チャックしようねーセイリ」


 ちょっとは落ち着くことができないのかこのピンク脳。

 普段がキリッとしている分の反動なのか、妙にはっちゃけてるんだよな、静樹セイリは……

 セイリの下ネタは置いておいて、俺も二人と同じ意見だ。


「そういうことだ。昔は井之上さんも含めて、トッププレイヤー全員がそんなことを言われてたんだし」

「だからぼくはアノシタだ」

「はいはい。というわけで、アノシタさんが気に病むようなことはないよ」

「そうだよ、デートを邪魔されたのはムカついたけど……さすがにアノシタさんを責めるのはお門違いだからねぇ」

「ソーナさんも、ガオウくんたちも……ありがたいよ」


 今回の件について、アノシタさんはほぼ蚊帳の外。突然よく知りもしないクランメンバーの不始末を知らされただけなのだ。

 クラン人数が多いってことは悪いことでは無い。むしろゲームの攻略効率は上がるだろう。


 それと反比例して、プレイヤーの民度というものは荒んでいく傾向にある。絶対数が多くなれば当然自分勝手な人も増え、荒れやすくなるというものだ。

 アノシタさんはよくやっている方だ。止めきれなかったことを責めるのは流石に気が引ける。


「まあそれはそれとして、蘇生アイテムでも欲しいなぁ、この前のレイドで使っちゃったし」

「あ、俺は素材集めマラソンに付き合ってもらうぜ」

「一気にありがたみがなくなったなぁ!」


 やけくそ気味に叫ぶアノシタさん。だがその顔は怒りを少しも映してはいない。


「OK。また今度、奢りでもマラソンでもしてあげるさ。じゃあまたね」


 アノシタさんは手を振って、転移ゲートの方に歩いて行った。これからクラン会議でもあるんだろうか、その足取りは重かったが。

 アノシタさんの健闘を祈る俺たちだった。



*****



 一段落したということで、ガオウ達と別れたあと。

 俺とソーナはリーリャのビーチ近くに来ていた。


「今日は変なのに絡まれたなぁ。せっかくのデートだったのに」

「だよねー。こんなところで寄り道ばっかりしてるのが不味かったのかなー」


 たしかに、リーリャは順番的にはプレイヤーが六番目に訪れる街、レベル帯としては中盤程度だ。ここなら誰でも訪れやすいだろう。少なくとも最前線よりかは。

 思えば三月中旬、春休み中盤でアップデートが来てから新エリアを開拓したのはほんの少し。

 一週間経たずに《天雷の神王竜 ゼウス・デウス》に飛びついて攻略を中断し、それからはヴァルトベルク、デートと随分な寄り道をしたものだ。トッププレイヤーが笑っちまう。


「じゃあ、次から本格的に新エリアに行くか?」

「うん! ユーガとならどこでも楽しいからね!」


 ばしっ、と右拳を左の手のひらにぶつけるソーナ。

 俺はソーナと一緒に遊べればそれだけで癒やされるからな。

 反吐が出るつまらない日常を、愛しいソーナが彩ってくれるから。


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