一難去って波乱の予感
団長からの容赦ない尻尾切り宣言を受け、俺たちを目の
視聴者の前でこれ以上無いほど惨敗を喫し、クランマスターにも処罰された姿はさすがに哀れ……でもないな。普通に自業自得だ。
被害を
かといって常軌を
「まあ今回の件は別に良いよな。向こうが十割悪いし、リアルでもないし、それにまだ優しい方だ。セーフセーフ」
「わざと遅延行為しておいて何言ってやがる……」
「それにソーナは明らかにトラウマにしちゃってるでしょ。やり過ぎだよ、あれは」
「えー、仕方ないでしょー? ついやっちゃったんだから! 煽ってきた向こうが悪いんだよ」
ガオウは呆れた顔で俺を見て、セイリは残虐なソーナの仕返しに苦笑する。
俺はしっかりと直視はしていない。できなかった、が正しいけども。
ソーナがすっきりしていて、俺に飛び火してこなければいいや!
本気でキレたときは、その相手のみならずこっちにも被害が及ぶからな……機嫌が直ったあとで謝ってくれるけど、それまでソーナに話しかけられないのがちょっとツラい。
「見事にブチ切れてたよね。今は落ち着いてるけど」
「そりゃ好きな人のこと悪く言われたからねぇ……まあ手を出すなんて方向じゃなかったからいいケド……」
「猛獣の宝物に手を出そうとするようなのは猛獣だけだろうねぇ……」
「それがもしあったら、始まるのは怪獣大決戦じゃねぇかなァ……」
争いは同じレベルでしか起こらない、って話か? ソーナレベルがそうそう居るとは思えないけどな。実力的な意味でも、愛の深さ的な意味でも。
あとガオウは、人の彼女を怪獣扱いしないでほしいな。否定しきれない自分がいるけど。
「さて、ウチのメンバーが悪かったね。ユーガくんたち」
「俺は構いやしねぇよ。アンタの苦労はユーガ経由で少しは聞いてるしな」
「人数増えると大変だろうからねぇ。複数プレイの方がマシなんじゃないかな?」
「ちょっとお口チャックしようねーセイリ」
ちょっとは落ち着くことができないのかこのピンク脳。
普段がキリッとしている分の反動なのか、妙にはっちゃけてるんだよな、
セイリの下ネタは置いておいて、俺も二人と同じ意見だ。
「そういうことだ。昔は井之上さんも含めて、トッププレイヤー全員がそんなことを言われてたんだし」
「だからぼくはアノシタだ」
「はいはい。というわけで、アノシタさんが気に病むようなことはないよ」
「そうだよ、デートを邪魔されたのはムカついたけど……さすがにアノシタさんを責めるのはお門違いだからねぇ」
「ソーナさんも、ガオウくんたちも……ありがたいよ」
今回の件について、アノシタさんはほぼ蚊帳の外。突然よく知りもしないクランメンバーの不始末を知らされただけなのだ。
クラン人数が多いってことは悪いことでは無い。むしろゲームの攻略効率は上がるだろう。
それと反比例して、プレイヤーの民度というものは荒んでいく傾向にある。絶対数が多くなれば当然自分勝手な人も増え、荒れやすくなるというものだ。
アノシタさんはよくやっている方だ。止めきれなかったことを責めるのは流石に気が引ける。
「まあそれはそれとして、蘇生アイテムでも欲しいなぁ、この前のレイドで使っちゃったし」
「あ、俺は素材集めマラソンに付き合ってもらうぜ」
「一気にありがたみがなくなったなぁ!」
やけくそ気味に叫ぶアノシタさん。だがその顔は怒りを少しも映してはいない。
「OK。また今度、奢りでもマラソンでもしてあげるさ。じゃあまたね」
アノシタさんは手を振って、転移ゲートの方に歩いて行った。これからクラン会議でもあるんだろうか、その足取りは重かったが。
アノシタさんの健闘を祈る俺たちだった。
*****
一段落したということで、ガオウ達と別れたあと。
俺とソーナはリーリャのビーチ近くに来ていた。
「今日は変なのに絡まれたなぁ。せっかくのデートだったのに」
「だよねー。こんなところで寄り道ばっかりしてるのが不味かったのかなー」
たしかに、リーリャは順番的にはプレイヤーが六番目に訪れる街、レベル帯としては中盤程度だ。ここなら誰でも訪れやすいだろう。少なくとも最前線よりかは。
思えば三月中旬、春休み中盤でアップデートが来てから新エリアを開拓したのはほんの少し。
一週間経たずに《天雷の神王竜 ゼウス・デウス》に飛びついて攻略を中断し、それからはヴァルトベルク、デートと随分な寄り道をしたものだ。トッププレイヤーが笑っちまう。
「じゃあ、次から本格的に新エリアに行くか?」
「うん! ユーガとならどこでも楽しいからね!」
ばしっ、と右拳を左の手のひらにぶつけるソーナ。
俺はソーナと一緒に遊べればそれだけで癒やされるからな。
反吐が出るつまらない日常を、愛しいソーナが彩ってくれるから。
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