それぞれの功績と沙汰


「お決まりだろ? そう目くじら立てるなって、アノシタさん」

「なんで個人情報初手バラシがお決まりになるんだろうねユーガくん。あとぼくの本名は井之上じゃないよ、うん」


 恨むんならそんな安直なPNをつけた過去の自分を恨むんだな。ある意味俺よりわかりやすいぞその名前。


 そんな彼がクラマスを務めるのが、最大級といっても過言ではないほどの所属人数を誇る大規模クラン、『リンドブルム』だ。

 その質は中堅から玄人、果てはガチ勢廃人勢をも要する巨大クラン。


 初期は面倒見の良いプレイヤー『アノシタ』が仲間や困っている野良を助けているうちにクランとなり、それがどんどん大きくなっていき今のようなカオス……もとい多種多様な人材が揃うことになった。


 だがその実態は加入すればなんらかの恩恵があるため、とりあえず入っているプレイヤーが大多数を占めているらしい。

 人数が多すぎてまとめるのが大変だと、クランマスターのアノシタさんや幹部の初期メンがよく愚痴っていたのを聞いていたが……まさかリンドブルムの来るもの拒まずの精神が、こんな厄介事を引き込んでいたとは夢にも思わなかっただろう。


「だ、団長? そのチート野郎と仲が良いとか、友達って……」

「まずチートとか言うのを止めようか。それは彼みたいに、自分の腕で最前線を切り拓いているプレイヤー全員への侮辱ぶじょくだ。もちろん僕も含めてね」

「う、ぐ……」


 頼りにしていたクラマスからの容赦のない指摘に押し黙るメージン。

 指摘や否定をばっさりと口に出来るのもこの人の強みなんだよな。

そのくらいの胆力がないと、超大規模クランの運営なんてやってられないんだろう。

 見た目通りの優男と思ったら大間違いだぜ、メージンよ。


「いやでも、なんで、仲が良いなんて……」


「我らマイナー遠距離武器使いコンビだぞ。昔からよく語り合ってたんだよ」

「そうだね。それに前線でよく会うし、プレイスタイルも何かと似ているから。新しいマイナー武器ユーザーがどうとか、引き込み方法とか相談してたよ」



 俺が銃という「不遇の塊」「当たらない豆鉄砲」と蔑まれている圧倒的少数派マイノリティにしか使われていない武器を使っているように、彼もまたマイナーな武器種を扱う遠距離攻撃職なのだ。


 その接点から俺たちはなにかと感じ合うことも多く、遊びに誘い合うような友好関係だったわけだ。

 まあたまに互いの無茶に付き合わされる関係でもあるが。


「まあぼくの『魔法弓』は銃みたいな不遇の塊ってわけじゃなくて、扱いにくいってだけなんだけどね」

「は? そっちの魔法弓だって最初は発動すら覚束おぼつかなくてまともに使える奴が皆無だったろうが。スキルが実装されてからも使用者が増えてねーのにデカいツラしない方が良いぞ?」


 訂正、遊びに誘いながら殴り合う仲だ。


「いやいや銃みたいにマイナスされてるわけじゃないから。プラスが大きいけど難易度が高いってだけだよ」

「こっちにはロマンがあるさ。だから昔から変わらない銃使い専用掲示板があるんやぞ」

「面子が変わらない=新規が入ってこないってことなんだよねぇ……」


 お、喧嘩か? 格安で買うぞ?

 第四九回マイナー遠距離武器論争(言葉だけとは言ってない)開催か?


「ねぇ、あれ二人はどう見る?」

「五十歩百歩だろ」

「どんぐりの背比べだよね」

「僕は長いのがいいか太いのがいいか比べてるみた――」

「よし言い出しっぺのお前は黙れや」



 セイリのゆるゆるのお口をガオウが手のひらで塞ぐ。ソーナもひどいな。


 僕らは仲が良くて、矢と弾丸も気楽に飛ばし合える友達なんだ!

 後ろから撃たれない限り、その友情は友好で有効なんだよ。

 時々論争(手も出る)が巻き起こるけど、関係は至って良好です。


「というか、スキルスカウトされた関係では先輩じゃん、アノシタさん」

「あっそうか、配信で見てたよ。《銃闘技ガンナアーツ》だっけ? スキルスカウト凄いじゃないか!」


 そう、そうなのだ。

 このアノシタさん、俺と同じようにオリジナルスキルがスカウトされて、自身が使うマイナー武器種『魔法弓』の実装されていなかった系統スキルを作り上げた凄い人だ。

 その関係では、ついこの前俺はこの人の後輩になったとも言える。


「先にスカウトされてたアノシタさんに言われてもなぁ……」

「いや、僕がスカウトされたのは魔法弓の系統スキルを用意してなかった運営が悪いんだよ。たぶん行き当たりばったりで実装したからスキル思いつかなかったパターンだぞ」


 システムに実装しておいてスキル思いつかなかったってどんなギャグだよ……



「そ、そんな……」

「リンド団長と伝手があるなんて……」


 おっと、忘れかけてた配信者共。

 無所属の俺とリンドブルム団長のアノシタさんと繋がってるとは思いもよらず、最後の保護者がいきなり敵側に回って呆けているようだ……やーいざまぁ。



「そもそもさ、よりにもよって《ユニークモンスター》を倒している彼らに勝てるわけ無いだろう……アレを倒すとか相当頭おかしいんだからね? この人達」

「「「「オイコラ」」」」


 いきなり俺たち四人をディスりやがった。なんなんだよ急に。


「ユニークモンスター……? あのクソ強いけど、素材を使うだけでエンドコンテンツ級の武器を作れるって言う……?」


 おいおいアノシタさん、それは火に油だぞ。

 LFOに登場するモンスターMobで最強はどれだと聞かれれば、挑戦した面子は声を揃えて言うだろう。


『自分の戦ったユニークモンスターだ』と。


 それほどの強さを誇る最強。それが《ユニークモンスター》という奴らだ。

 それこそエンドコンテンツ、ゲームをやりこんだ先にあるような頭のおかしい難易度を設定された、『運営が倒させる気がない』と言わしめたモンスター。


 だがそれを踏み越えた先に待つものもまたエンドコンテンツだ。

 ユニークモンスターの素材やドロップ素材から創られる装備品は、その元となった敵の性質を色濃く受け継ぎ、そして必殺とも呼べる強力なを有している。

 それが『ユニークウェポン』。俺たちは四人全員、それを所持している。


「そっ、そんなのまさしくズルじゃねぇか! ユニークウェポンなんて使ってたら、そりゃ――」

「ちなみに言っとくと、俺は俺のユニークウェポンを一回も使ってないぞ」

「あ、私もね」

「オレは使ったが、ユニークスキルは使ってねぇな。条件達成してなかったし」

「僕もユニークスキルは使ってないね、使う価値もなかったから」


 反撃の僅かな希望も叩き潰されるスピリッツゲーマー一同。特にセイリからバッサリ切られたキョウヤ何某は崩れ落ちた。


「普通の装備であれらを倒している人達に叶うわけが無いじゃないか……」


 そうは言っているアノシタさんだが、彼も標的を選べば十分討伐を狙えると思うぞ?

 ユニークモンスタ―は正直なところ相性だ。ユニークモンスターを一体倒した俺でも、他の面子が倒した奴には絶対勝てないと思う。


「というか忘れてたけど、きみたちリンドブルム追放ね?」


 そしてとうとう、クランマスターから彼らの沙汰が言い渡される。


「はっ!? いやちょっと待ってくださいよ! そんないきなり……ッ!」

「こんなことをしでかしておいてかい? 周りを見てみなよ。きみたちのせいで、僕たちリンドブルムがなんて思われたと思う?」


 周りを見渡すスピゲマの四人。広場には多くの野次馬が集まっていた。


「『リンドブルムは自分勝手なプレイヤーが多い』『民度が低いクランとは関わり合いたくない』。もしそんなことを思われたら、今リンドブルムに所属する大勢のメンバー全てが被害を受ける。だから僕はきみたちを追放しなきゃならない」


『人数が多い方が正義』というような考え方の奴らは、いまや大勢から白い目で見られていた。


「人数が多いクランが強いとか、所属してれば偉いとか考えているような感じがするから言っておくけど、ゲームはそれが絶対じゃない。きみたちは今度から、それを覚えておいた方が良いよ」


 断罪の斧が振り下ろされるかのように、クランマスターの声が冷たく響いた。


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