狂気に震える野次馬たち
「ふぃー……うん、落ち着いてきた!」
驚愕に染まるくるなの顔を見て、ほんの少し溜飲を下げたソーナは大きく息をついた。
それまで活発なソーナが静かにしていたのは、あまりにもキレ過ぎていたから。
動きに支障がないように、そして一瞬で倒してしまわないようにじっとしていたのだ。
「怒りすぎると感情の起伏が乏しくなるのは考え物だねぇ、ははは……」
なんとか落ち着いたソーナは自分の癖に苦笑を浮かべる。
仕返しの方法も思いつき、怒りのボルテージが多少なりとも下がってきたソーナはいつも通り話しかけた。
「ごめんねくるなちゃーん。先に謝っとくよ」
「は、はぁ~? な、何がよ!」
「いや~、うん! 自分でも思うけど、結構ひどいことするからね!」
「ひっ……」
明るく笑顔で語るソーナだったが、薄々自分よりも格上であることが分かってきたくるなは短い悲鳴を漏らす。
「で、でも、アンタがあたしを倒せないのは変わらないじゃない……!」
とはいえ、くるなの周りに魔法が展開されている限り、近づけば迎撃が飛んでくるのは変わっていない。
不用意に近づけば、ソーナの紙……どころかティッシュレベルの防御力では大ダメージを受けることは目に見えている。
ソーナのステータスはそれほど機動力に費やされているのだ。
ただし。
近づけないのと近づきにくい、では天と地ほどの差があるのだ。
そして防御力という重要なステータスを機動力に捧げたソーナにとっては、この状況はあくまで後者なのであった。
「んー? 余裕余裕!」
「……え?」
「私に挑んでくる人はよくそういうタイプのスキルを作るからね。対応も慣れたよ」
ソーナは左手を突き出す。するとそこに金と銀が混ざり合った短剣がエフェクトとともに現れた。
「今度はなによぉ……?」
「このアクセサリー『
ソーナは剣を足元に刺し、首元のペンダントを持ち上げる。
とあるレアモンスター、《トゥワイス=アイズ》の素材を使ったアクセサリーだ。
着用者のMPを
出現させた短剣は、攻撃力や耐久値こそ低いものの近接戦にも投擲にも使える万能さを持つ。
正直なところ、エリクトールよりこの幻刃の首飾りの方がはるかに珍しく優秀な装備だ。
アクセサリー全般に言えるのだが、そもそもアクセサリーという装備品がクラス《細工師》の領分であり、クリエイターではアクセサリーは作れない。
この『
「ゲームで大事なのは施行による検証ってね。まずは、範囲!」
ソーナは剣を引き抜き駆け出しながら、短剣をくるなに向けて投擲した。
まっすぐ飛翔する短剣は、くるなの顔に向かって飛ぶ。
「ひいっ!?」
反射行動で顔を庇うくるな。しかし短剣はその守りに届くことなく魔法《
「投擲はちゃんと迎撃されるんんだ。範囲はだいたい三、四メートルってとこかな」
短剣への迎撃に魔法弾が動いた距離から、《
くるなが顔を庇って視界を塞いでいるうちに、左側へ回り込んだソーナはもう一本投げつける。
「はいよっと!」
次に検証するのは発動者の意識外からの攻撃に反応するかどうか。出現させた二本目の短剣をくるなは知覚していなかったが、これも迎撃された。
「全自動、っと。オッケーオッケー。次の魔法が展開されるのは発射してから二秒くらいかな?」
反応範囲と発動条件、そして再展開の時間を確認したソーナは、「イケる」と確信した。
「十分十分、行きますか! 《
くるなが言い終わる前に、ソーナは短剣を三本投げてから《
ソーナがトッププレイヤーでいられる独自の強みは、常人離れした反応速度と動体視力。
目で見て情報を受け取ってから行動を起こすまでの速度が恐ろしく速く、発射された弾丸さえ目で追うことが可能。
であれば、全速力の五倍もの速度で流れる視界など余裕で対処できるものだった。
三本、幻刃の首飾りによって生み出された短剣を投げ、そのあとを追随する。
くるなを取り巻く七つの光弾が一斉に向かってくるが、ソーナに向かってくるのは四つ。
一つはかがんで避け、二つ目は飛び上がり回避。三つ目はジャンプと同時に斬り抜ける。
そして宙に跳んだソーナに迫る四つ目は。
「《
空中にいながら大気を踏みしめ空を駆けることによって
そして大気という不安定なものを踏んだことで、ソーナはさらに加速する!
「作ってよかった新スキル! 補正大きい!」
オリジナルパッシブスキル《アクロバット》。ヴァルトベルクを倒したSPによって作られたソーナの新たなオリジナルスキル。
足裏が平らな地面ではない不安定な場所についている間、AGIに大きな補正を加える。それが発揮されるのは壁だったり、木だったり、大きな岩だったり――
「空気を蹴ってるときとかね」
空を駆けるソーナは《超過加速》に《アクロバット》が加わった超加速も難なく御した。《超過加速》単体ならソーナは制御に苦労することは無い。
一瞬で、大きく離れてから助走をつけてくるなの真後ろにまで迫る。
そして、
「くるなちゃん」
「は――?」
「その顔おもいっきり蹴っ飛ばすから、覚悟してね!」
「ぶぐっ……!?」
くるなの鼻先にソーナの蹴りが、長い脚によるしなりを加えて打ち込まれた。
【直接対決】スピゲマについて話すスレ@くるなvsソーナ【ユーソナ】
.
.
.
.
.
93:名無しの視聴者
うわっ
94:名無しの視聴者
ひえっ
95:名無しの視聴者
っひゃあ……
96:名無しの視聴者
ひでぇ……
97:名無しの視聴者
今の痛いだろなぁ……
98:名無しの視聴者
ユーガが一方的にスナイパーライフルで殴り始めたからこっちきたんだけど……この、なに? この……集団リンチ?
99:名無しの視聴者
残念、これ一人による行為なんだよな
複数人に見えるほど速いもんなわかるよ
100:名無しの視聴者
>>98
ちょい待てなんだそのパワーワードw
101:名無しの視聴者
いや……うん。
デート邪魔されてフラストレーション溜まってたんやなって……
102:名無しの視聴者
速すぎねぇ?
なんでこんな速度が出せるんだ
オリジナルスキルだったらかなりSP取られるだろ
103:名無しの視聴者
>>102
意識系の加速スキル盛り込んでないみたいよ
104:名無しの視聴者
意識の加速スキル?
あっ、《見切り》とか、スローモーションに見えるやつ?
105:名無しの視聴者
>>104
そう。速すぎる加速スキルを作るときにはたいてい自動でつくんだよ。じゃないと速すぎて制御できないから。けど意識の加速スキルはものすごいSP取られる。
ソーナはそれをオミットしてるらしいから、ポイントが浮いてるんだと思う
106:名無しの視聴者
素の視界で動いてんのか
ジェットコースター乗ってるようなもんだろ
107:名無しの視聴者
試してみたけど消費SP半分以下になったよ。かなり取られるわ
でも発動してみたらすっ転んで、顔面から地面や壁にダイブした
108:名無しの視聴者
>>107
交通事故やん
これミスったら死ぬだろ。ソーナどうなってんの?
109:名無しの視聴者
VR適正ってやつかな
これがトップを張る超人か
110:名無しの視聴者
うわ顔面集中狙いのキックエグいな……
111:名無しの視聴者
いたぶるにしたって限度があるんだよなぁ
112:名無しの視聴者
髪ひっつかんで地面に叩きつけた
ひでぇ……
113:名無しの視聴者
攻撃する前にどこ狙うか予告するのも怖すぎる
114:名無しの視聴者
このゲーム痛みとかかなり軽減されるけどどうなるの?
115:名無しの視聴者
>>114
麻酔打たれた感じ?
痛みはほぼ無いだろうけど感触はあるよ。
それに蹴りが迫ってくるのを想像してみな
116:名無しの視聴者
十分痛いし怖いじゃん!
117:名無しの視聴者
ソーナちゃんって足長いから蹴りの威力高そう
あれリアルでもそうなのかな。だったら羨ましい……
118:名無しの視聴者
対策が全然仕事してねぇ
119:名無しの視聴者
最初は短剣投げて減らしたり一発蹴ったらすぐ離れるヒット&アウェイしてたのに……
いまじゃ出てくる端から斬り捨ててる……
120:名無しの視聴者
あっ、くるなのMP尽きた
121:名無しの視聴者
もうくるなちゃんグロッキーじゃん……
122:名無しの視聴者
鬼か悪魔なんじゃねぇの……?
123:名無しの視聴者
ユーガってこれと付き合ってるんだぁ……
124:名無しの視聴者
ユーガさん流石っすわ
『ふぅー。本人を殴るのもいいけど、掲示板で先導してた人たちも腹が立つなぁ……』
125:名無しの視聴者
ひいっ
126:名無しの視聴者
ゆるして
127:名無しの視聴者
ごめんなさい
128:名無しの視聴者
こっちにも飛び火が
129:名無しの視聴者
これは蹂躙姫の再来か
『まあ匿名だったし、ここにいる人以外の特定は難しいかなぁ……よっと』
130:名無しの視聴者
ちょっと待って補足されてんの?
え?
ゆるして
131:名無しの視聴者
行かなくてよかった……
132:名無しの視聴者
すんごい軽い声の八つ当たりで顔を地面に叩きつけたな……
133:名無しの視聴者
ソーナは敵に回さんとこ
134:名無しの視聴者
少なくともデートは静かに見守ろうね……
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