戦い終えて


 そもそもの話、レベル制MMOで大きなレベル差がある相手に戦いを仕掛けること自体無茶があるのだ。


 片や卓越したプレイヤースキルという名の本体性能を持つ、最前線を切り開くことができるレベル120。

 片やレイドボスに薙ぎ払われたレベル80台。


 その実質40以上もの数字の差は、ゲームにおいてはとてつもない差となる。

 現状のLFOにおける中堅レベルのプレイヤーが最上位層に挑めば、いったいどうなるのか。

 答えは簡単だ。こうなる。




「セントラルHS60の“HS”はッ! ヘッドショットではなくゥ!! ハンマーショックSの”HS”だァッ!!!」

「ぶげら……っ」


 セントラルHS60を用いた脳天叩きつけで『気絶』を起こしたメージンを、今度は下からカチ上げる。

 下を向いた顔面にゴルフスイングよろしく叩きつけて振り抜いたので、メージンは受け身もとれずに吹っ飛んでいった。


 うん、いや最初は6割をヘッショできるように安定性を持たせようと考えてたんだ。決して設計段階から銃としての使い道を捨てていたわけではない……最初から鈍器運用を想定して作ってはいたが。


 長いものは棍棒足りえる条件をだいたい満たしている。そして棍棒というものは硬ければ硬いほどよいものだ。

 しからば、良質な素材をつぎ込んで殴りやすいようにチューニングして作ったこのセントラルこそベストオブ棍棒なのでは?


 うん。最後くらいはしっかり銃器運用してあげよう。


「というわけで終わりだ。サンドバックお疲れ様。すっきりしたわ」

「お前が勝手にしてただけだろうが……ッ」


 お前がイラつかせたからノーカンだよ。

 俺は倒れたメージンの眼前にセントラルの銃口を突き付けた。


「はいお疲れ様、《《寸勁射ワンインチショット》」


 いかに分厚いヘルムで頭を守ろうとも、衝撃を内部まで響かせる装甲無視のヘッドショットには丸出しも同じ。

 さんざ殴りまくったせいで一割を切っていたメージンのHPは、クリティカルも相まってオーバーキル気味にその光を消し飛ばされた。


「ふぅーすっきりした。さて、ソーナの方はどうせ勝ってるだろうけど……」


 ポリゴンとなったメージンを傍目に、広場のもう半分で戦っているソーナを見ると。


「次は顔を地面に叩きつけるね! ほら泣いてなんかないで! えいっ」

「もう、やめてぇ……ッべぎゅ」


 ……うん。俺はなにも見なかった。うわセントラルの耐久値半分削れてるなー。だれだこんなつかいかたしたのは。あとでしっかり修理しないと。

 まあ、鬱憤を晴らせているようでなによりだ。


「ユーガ! 終わったよ~!」

「うおっ! 急に抱き着いてくるなよ。受け止められないだろ」

「えへへ!」


 さっきまで見えていたギャルの姿はどこにもなかった。いったいどんな最期を迎えたんだか……

 まあ、ソーナがご満悦ならそれでいいか。


「おーい。そっちも終わったかー」

「うお、ガオウにセイリ。……と、引きずってきたそっちは……」

「僕らのほうに来たおバカさんたちだよぉ」


 リーリャの転移ポータルがある方角から、馴染みの二人が歩いてくる。その後ろには二人のプレイヤーの姿があった。


 ロープのアイテムで縛られて歩かされている、いろんな意味でな軽戦士と、不貞腐れた顔の、生意気そうな軽戦士ビルドっぽい女。

 たしかキョウヤとリッカだったか。見ただけで酷いやられ方をしたのがわかるな、容赦なさすぎるだろう。


「お前可哀想にとかそんなツラしてるが、お前らの方がよっぽど非道ひどいやり方してるからな?」

「少なくとも僕たちは圧勝しただけだよ。キミたちみたいに弄ぶようなことはしてないから」


「弄ぶってセイリお前……そんなことするわけが」

自動回復リジェネ使って決着引き延ばしてたでしょ? それこそ焦らしプレイみたいにさぁ」

「やめてくれアイツに焦らしプレイとか吐きそうだ。その二択だったら迷いなくなぶってたって言うわ」

「私は普通に戦ってたし?」

「残酷な方法をわざと選んでなぁ?」


 なんだよ俺らを悪く言うことで自分たちの与えたトラウマを軽く見せようってか?

 どれだけ自分たちより酷いことをやった奴がいるからって、自分たちのやったことが小さくなることはないんだぞ。

 そっちの二人は「もう懲りた」って顔してるからな。なんなら男の方は女性恐怖症に陥ってるんじゃないかってくらいだ。


「はぁ……はぁ……くそっ! なんなんだよお前らは!?」

「ひっ……ひぃい……!」

「おっとリスポーンしたか」


 決闘システム独自のリスポーンで、その場に復活したメージンとくるな。

 だがメージンは息を荒げキョウヤ以上に憔悴しており、くるなに至ってはソーナを見るだけで震えあがって後ずさりするほど怯えていた。


「ん~? 人の顔見て怯えるとか失礼じゃない?」

「ひっ……来ないで! もう許してッ!」

「ここまでくるといっそ哀れだなァおい」

「ソーナも容赦ないよね。特にユーガのことになると」


 ゆっくり近寄ることでねちっこく死体蹴りしているソーナ。俺の方は……まあうるさくなりそうだから煽るのはやめとくか。


「さて、もうそろそろ来てもおかしくは無いと思うんだが……」


 メニューを開いて、フレンド欄を見る。えっと……うん、ログインしてるな。

 一人のフレンドに、はよ来いというメールを連続で出してから、項垂うなだれているメージンたちを見やる。


「うぐ……くそっ。チートみたいなもんだろあんなの。なんで攻撃が当たらねぇんだよ……」

「万全だと思ってた対策揃えて意気揚々と挑んだのに軽く捻られてボッコボコにされて視聴者達の前で恥かかされるって凄いよな! なあどんな気持ち? 今どんな気持ちなんだよ教えてくれよ!」

「お前相手の傷口に塩塗り込んでから抉るの大好きだよなァ」

「今は止めとこうって雰囲気出してたのに、ソッコー手のひら返して煽り倒すの凄いと思うよ。大人げなさが」


 だって仕方ないだろ! ムカつく奴が泣きそうな顔と声で子供みたいな癇癪かんしゃく起こしかけてたらそりゃ煽りたくもなるって。

 現にソーナは泣きじゃくっているギャルをつついてさらに追い込んでるぞ。あれくらいでいいんだよあれくらいで。


「クソが! だいたいお前らズルいんだよ! どうせ武器が強かっただけだろ!? お前らなんか、クラマスなら――」

「僕がどうしたって? メージンくん……だっけ?」


 期待通りキレ始めたメージンの後ろから、やけに落ち着いた声がかかる。

 ガオウ達と同じように転移ポータル方面から歩いてきた緑髪の男性プレイヤーは、最前線を切り拓く実力を持った紛れもないトッププレイヤーの一角。


「だ、団長っ!? な、なんでこんなところに……」

「ウチのメンバーがぼくの友達に迷惑かけてるから来たんだよ」


 メージンたちの所属している大規模クラン『リンドブルム』のクランマスターその人だった。



「よぉー、数日ぶりだな! 井之上さん!」

「ぼくのPN名前は『アノシタ』だって、ユーガくん」


 話してみれば律儀でノリが良くて、気の良い優男なんだが。

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