間抜けた鉄面にイカれたパンチをぶちかます※イカれてるのは常識です


 銃とはなんぞや。

 銃とは、人間が一人で持ち歩くことのできる火器、遠距離で攻撃できる武器である。

 その特性上、近距離、もしくは至近距離における取り回しや命中精度に難があり、近接戦闘においては弱いと言わざるを得ない。


 では武器とはなんぞや。

 武器とは戦いに使う道具である。相手を倒すために使う道具だ。

 ならそれでぶん殴っても、銃の用途としては間違ってないんだよ。


 撃とうとするからダメなんだ。引き金は引ける時に引き、それ以外は格闘戦で、または銃本体でぶん殴りつつダメージを与えながら隙を作っていけばいいんだよ。

 それが銃の一つの使い方だ。


 そんな持論を語ったら、ガオウには鼻で笑われ、セイリには引き攣った笑みを浮かべられた。なんでだ……。

 そんな俺に同意を示してくれたのはソーナだけだった。やっぱり彼女って最高だよ。


 つまり、俺が現在進行形でメージンにしているのは、


「銃撃が近接で弱いなら、銃でブン殴りゃいいだろうがよォーー!!」

「そうはなんねぇだろ、ごっ!? がはっ!」


 銃を鈍器とみなした近接格闘だった。

 メージンの武器は大盾と長剣。どちらも懐に入られてしまうとリーチが活かせず、二丁拳銃を使って徒手空拳の間合いで戦う俺に酷く苦戦している。


「《砕銃撃ガンブロークン》」


 もちろん俺はその距離を維持する。対人戦で相手の嫌がることをするのは当然だからな。

砕銃撃ガンブロークン》。普段は遠距離武器であり、叩きつけても大したダメージを出せない銃の本体にを付与し、その銃に設定された出力に比例した攻撃力のとしての性質を与えるスキル。

 それを発動し、メージンに密着してその鎧に包まれた体を打ち据える。


「ぐぅぅっ!! 離れろ!」

「やだね、近づいてこいと言ったのはそっちじゃないか」

「こいつ、バックステップにぴったりと……!?」


 後ろに下がってもその分ステップでついて行き、距離を維持する。逃さねぇよ、お前をこんなフルボッコにできる機会逃すわけないだろ!


 あいにく俺はAGIにも多めに振っているんだ。防御力がない分しっかりと避けないといけないからな。

 お前のような鈍重タンクについて行けないほど遅くない。


「お望みの殴り合いは続くぜ! 《銃格闘ガンファイト》! ついで《格闘射インファイア》!」


 近接攻撃でコンボを繋げるほど、攻撃力に補正が入る《銃格闘ガンファイト》を起動する。ここからはラッシュだ!

 ガラ空きの腹や兜、腕や足を鎧の上からエレイル&セレイルのグリップや銃身の部分で殴りまくる。


「オラオラオラオラ! 近接職が聞いて呆れるなぁ!?」

「銃で殴るのがおかしいんだろうが……クソッ、離れろ!」


 顔に胸に腹にと好き勝手殴られていたメージンが、剣を横に薙ぎ払ってくる。

 後ろに回避させて距離を取らせようとしているのがよくわかるが、俺の攻勢は変わらない。なぜなら、


「円周運動は俺の得意だぜ」


《スリップスロート》を発動して、剣が振り抜かれる方向と同じ向きに跳ぶ。

 そして同時に円周機動の中心点を、に設定するとどうなるのか。


「なっ……!」

「同じ方向に回ってる奴に、追いつけるわけないよなぁ?」


 右回りの独楽が右回りの独楽に追いつけないアレだ。メージンを中心にして、俺の通った後を剣が追う。

 凶刃は獲物に追いつけず、逃がした獲物は剣を薙ぎ払ったばかりの隙だらけな標的の背後に立つことに成功する。


「仕上げだ」


 メージンの鎧にセレイルの銃口を突きつける。

 俺はラッシュの前に《銃格闘ガンファイト》とは別にスキルを発動していた。


 スキル《格闘射インファイア》。コイツは事前に近接攻撃をヒットさせるごとに、次の射撃に補正が入るスキル。


 そして、その射撃に防御力貫通効果がつけば、その威力はそのままダイレクトに通ることになる。

 俺はラッシュを終えたばかり、さてどうなるでしょうか?


「《寸勁射ワンインチショット》!」


 凄まじいエフェクトを発しながら発射された弾丸が、メージンの鎧に突き刺さる。

 突きつけられた銃口から放たれた弾丸は、装甲など関係無いとばかりに分厚い鎧をブチ抜いた。

 防御を貫くスキルを乗せ放たれた弾丸は、メージンの体力を前の格闘戦で削れていたダメージと合わせて、残り体力が二割ほどになるまで消し飛ばした。


「が、あっ……ぐう……!」


 ノックバックで吹っ飛ばされたメージンはフラフラと立ち上がる。

 いやあ……彼女の悪口言ったやつをぶっ飛ばすのは気持ちいいなあ! それが銃を舐めてるやつなら尚更だ! 


「なんなんだよ、そのスキル! 銃で殴るなんておかしいだろ!」

「そんなにおかしいか? 映画でも銃の形ガン・カタとかあるだろ。あれとはまたちょっと違うが」


 リアルならこんな銃の使い方は耐久性や暴発とかがあるから、特注品でないとなかなか出来ないがここはゲームだ。

 ましてやLFOにおける銃というのは『銃弾を発射する』という特性上、銃カテゴリの武器は耐久性が高いという特徴がある。

 ほら、ますます殴るのに向いているだろう?


「出来るかどうかだろうが! だいたい聞いたことねぇぞそんなスキル! オリジナルスキルか!?」

「あれ、知らねぇの? これ既存スキルだぜ?」

「はあ!?」


 知らないのか……いや無理もないか。LFOはプレイヤーに発見を任せるところがある。

「新しいスキルを追加しました」と告知しても、詳しい内容を書かなかったりな。


「この前のアップデートで追加された、《銃闘技ガンナアーツ》っていうスキルだ。銃系統スキルと一緒に格闘系統スキルを取ると、一定の熟練度で派生に出るぞ」

「んな、いつの間に……いやちょっとまて。系統スキルなら、おかしいんじゃねぇか?」


 系統スキルとはLFOのスキル体系の一つだ。

 そもそもLFOのスキルは大きく三種類に分けられる。


 一つは系統スキル。これは《片手剣系統スキル》や《銃系統スキル》など、武器種によっておおまかに分けられる。

 最初に多くのSPを使って習得し、使うほどに上がる『習熟度』を伸ばすことで強力なスキルを習得していく、LFOに用意されたスキル群だ。

 必要なSPが少なめなのがメリットだな。それなりに強いスキルもあるし。


 二つ目は発生スキル。プレイヤーの行動やプレイ履歴で習得条件をクリアすれば解放され、SPを使って習得できる。

 俺の《スリップフロート》やキーワードで装備を変更する《固定換装セット》なんかもこのくくりだ。回避スキルや武器種をまたいだ攻撃スキルなんかが多い。


 そして最後にオリジナルスキル。これは簡単だ。強さに比例したSPを使ってプレイヤー個人が作ったその人だけのオリジナルスキル。

 俺たちのような、トッププレイヤーを超人たらしめるスキルであり、『幻想は終わり、君の物語が始まる』というキャッチコピーの通り、プレイヤーの最たる例だ。


 この中の系統スキルに類する《銃闘技ガンナアーツ》だが、いったい何がおかしいんだか。


「アップデートからまだ一ヶ月も経ってねぇ。こんな短期間でそんなスキルを覚えられるまで習熟度を上げられるわけがない、やっぱチート使ってたんじゃねぇか!」


 そう、残念ながら系統スキルは少ないSPで多くの良スキルを習得できるかわりに、習熟度の伸びが遅い大器晩成型なのだ。

 さぞかし嬉しそうにメージンが笑う。妄想の通りならそりゃ嬉しいだろうな、適当ふっかけて喧嘩売った相手が予想以上の特ネタだったんだから。


「やーっぱりおかしいと思ったんだ! 行動系はバレるからシステムに干渉しよーったって甘ぇんだよ! 習熟度弄るチートかぁ? ぎゃはははは!」

「いやあのな」

「おら見ろ視聴者共! これがこのクソ野郎の正体だ! ぎゃはは!」

「クッソ喜んでるところ気分いい……くくく、いや申し訳ないんだが? これはチートでも何でも無いぞ」

「は?」


 ちょっと本音が出てしまったが、ついでに笑いも漏れたが問題ないな。

 奴にとっては残念ながら、俺はチートなんかに手を出したことは一度も無い。いやリアルチートとか言われてるのは知らん、お前が頑張れってだけだ。


「そんなわけないだろ! 習熟度上げなきゃ、そんな強いスキル使えるわけがねえ!」

「それがな……実はこのスキル、俺が使ってたオリジナルスキルが運営にスカウトされたやつでさぁ」

「……はぁ?」


 LFOではプレイヤーのオリジナルスキルを正規のスキルとして運営がスカウトする例がいくつかある。

 それまで見向きもされなかった武器が、そうやって新しいスキルを追加されたことによって注目されるようになることもある。

 元がその武器を使っていたプレイヤーのオリジナルスキルなんだから強いに決まってるしな。


 意外なことに、俺にもなんとその打診が来たのだ。

 ……いやそんなに意外なことでもないか、銃の使用率は最低クラスらしいし。

 正式採用されたプレイヤーにはいくつかの特典が与えられる。SPとか、ゲーム内通貨のマニーとかな。


「その特典の中に、《銃闘技ガンナアーツ》スキルの無条件習得と習熟度上昇があってな。もともと使ってたオリジナルスキルをバラす補填なんだとよ」


 もしくは実演によるデモンストレーション効果も狙ってるのかもしれない。

 そんなことは知る由もないが、とにかく俺のスキルはシステム、ゲームに認められたものだということ。

 チートでも何でも無いことが証明されたわけだ。


「というわけで、俺は正規の方法でお前をボコす。回復は終わったんだろう?」

 長々とおしゃべりしているうちに、自動回復リジェネによってメージンのHPは六割ほどにまで回復していた。


「《固定換装セット》、《セントラル》」


 声に応じて、エレイル&セレイルは腰のホルスターに。そして手元には太く長めの銃身を持つ、流線形のライフルが現れる。


「な……」

「頑丈さと取り回し重視で作ったスナイパーライフル『セントラルHS60』だ」


 ちょうど良い機会だ。《銃闘技ガンナアーツ》のデモンストレーションがてら、生かさず殺さずボコボコにしてやろう。


「楽に死ねると思うなよ?」


 取り出したセントラルの肩に担ぎながら、笑いかける。

 このときの俺は、さぞ凶悪な笑みを浮かべていたと思う。

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