挑む愚者の会心


「そっちから申し込んでこいよ。どんなルールでも乗ってやるぜ」

「けっ、チーター野郎が……」


『決闘』システムは、もの凄くざっくり言えばお手軽合法PvPシステムだ。決闘中に死んだとしてもデスペナルティはつかず、また殺した側もペナルティはない。

 俺たちはそれを使って決着をつけることにした。

 街中での中でのPvPバトルはカルマ値が非常に溜まりやすいから、このシステムを使うのが一般的だからな。


 カルマ値はゲーム中で犯罪を犯せば犯すほど溜まっていくマスクステータスだ。

 これが高いとNPCの警備兵が襲ってきたり、懸賞金が掛かったりする。懸賞金が高すぎるとトッププレイヤーやPvPキチ共が小遣い稼ぎに狩りにくるので要注意だ。

 俺? たくさん稼がせてもらいました。


 ようするに決闘システムはカルマ値を上げずに合法的にPvPが出来るシステムだ。

 主に対人戦の練習や、アイテムの分配などで揉め事が起こったとき等にもよく使われている。結局は腕っ節ってわけだよ。


 俺とメージン、ソーナとくるなの組み合わせで、タイマンで戦うことになった。

 野次馬が集まってきた広場の、噴水を挟んで半分ずつを使って戦うが、この組み合わせは向こうから決めてきたことだ。

おおかた、それぞれ対策でもしているんだろう。


 今回の俺の対戦相手、メージンから決闘申請が送られてくる。俺はそのウィンドウのyesを躊躇いなく押した。

 ルールは時間無制限の完全決着デスマッチ。HPが完全に無くなるまで戦うルールだ。これで死んでもデス扱いにはならずアイテムや金も失わない。


「へへっ、泣いても許してやらねぇからな」

「泣いて土下座しても銃弾ぶち込んでついでにライドアニマルの足蹴にしてやる」

「いやエグくね……?」


 そりゃそうだろう? ソーナを悪く言ったんだぞ。とりあえず百発は銃弾叩き込んでやる。

 俺が決闘の承認を押した瞬間、視界の片隅に現れた10カウントが進み始める。


 ステータスメニューを操作し、俺は銃機装ガンナードシリーズを身に纏い、腰には赤い実弾銃『エレイル」、青い光学銃『セレイル』を装備する。


「銃使いとして避けたいんだが、近距離戦はこれがよく馴染む」


 決闘はこの10カウントの間で装備を整える。メージンの装備はと言うと、目の隙間も厳重に守られた重鎧、そして片手でなんとか振り回せるほどの長剣と大楯だった。

 クリティカルを防ぐ装甲に、受けられれば銃の攻撃ではほぼダメージが通らない大楯。完全に俺のメタ装備じゃねぇか!


「ちっ、しっかり調べて対策固めてきてるだろ! さては有名人考察スレでも覗いたな?」

「なんのことだろうなぁ? クリティカルが出せないような重装甲ってだけでガタガタ言うなよ、コイツは俺のメイン装備だぜぇ?」


 白々しいなクソが!

 OKOK、変わりは無い。元々何百発も撃ち込む予定だったし、どっちみちコイツのプライドを容赦なく叩き潰せば良いことだ!


「そぉら、行くぜぇ! 《シールドチャージ》!」


 カウントが0になるのと同時、真っ直ぐに俺に向かって突っ込んでくるメージン。

 離れさせる気はないってか、だが――


「甘いっての」


 地面を横に蹴り、《スリップスロート》起動。大楯の死角になる右側へ文字通り滑って回り込み、瞬時に奴の背後に回った。


「甘いのはテメェだ! 喰らえ!」


 スキルによる突進を踏みとどまり、メージンは後ろに向かって右手の剣を振り抜くが、さらに甘いと言わせてもらう!

 俺の動きを読み振られた長剣は、しかし俺の眼前十センチを空振り隙を晒してしまう。

 百発百中の銃撃手の眼前へ、ガラ空きの顔面を。


「まずはファーストヒット」


《クイックドロウ》の補正を乗せた弾丸が五つ、無骨な鉄面に叩きつけられた。

 一発ファーストどころか五発叩き込んでやったが、HPは大して削れてないな、クソッ!


 ただ向こうもずっと撃たせてくれるわけじゃない。横振りはバックステップ、振り下ろしはサイドに回り込みながら距離をとりつつ、一発、二発。

 三発四発と弾丸を肩や肘に追加で撃ちこむが、体勢を崩すくらいで大きなダメージにはなってくれない。


 この距離での銃撃は確かに強いんだが、威力が変動しないし防御力によってダメージの増減の差が激しい。不遇と言われる銃系武器の弱いところだ。

 かといって、いやだからこそ! 銃を撃つ手は止めないがな!


「ほらワンツースリー! トロいままなら蜂の巣にすんぞオラァ!」

「クソ! 遠くからバカスカ撃ってくるんじゃねぇ! なんでそのクソ武器が当たるんだよ! やっぱチートだろ!」

「お前にとってのクソ武器は、俺にとっては神武器というだけさ!」


 振るわれる剣から逃れ、大楯を構えれば瞬時にズレてカバーできていない箇所をバカスカ撃っていく。

 だが、それでも減らないメージンのHP。


 今の俺、というより戦闘中の俺はそのクラスをずっと育ててきた生産職『クリエイター』に設定していない。

 過去の産物、未知の文明の象徴たる銃を手に過去ヘの道しるべを切り開く、銃特化戦闘職『銃手ガンナー』だ。


 こちらもクリエイター同様初期から育てており、クラスごとにある『熟練度』で言えばかなりのものになっている。熟練度は上がれば上がるほどクラスの性能も強くなる。

 上位職には転職できていないが、補正自体はそれに匹敵するだろう。


 銃手のクラス補正は、『銃カテゴリ武器による攻撃に補正が入る』『銃カテゴリ武器の取り回しがよくなる』こと。今の俺の銃撃は近接武器にすら引けを取らない。


 そんな銃手の補正を加味しても、だ。

 ダメージにならない。何発撃っても手応えを感じられないのは、屋台の射的でデカいぬいぐるみを撃ってる気分だ。というかさっきからHPの減りが遅くないか? 自動回復リジェネ効果のあるアクセサリーでもつけているかもしれない。


 それに、現在進行形で無視できないことが起きている。それは――


「体力が減っていくか? そうだろうな! わざわざそのためにスキルを作ってやったんだ!」

「そんなもんだろうと思ったさ……! ダメージ反射系のオリジナルスキルか? パッシブスキルになんてしたら、かなりSP食いそうなもんだが……!」


 そう。さっきから、俺がメージンに攻撃を当てるたびにわずかなエフェクトが光り、そのたびに俺のHPが少しずつ削れていた。


 ダメージ反射。自分が攻撃を受けて体力HPが減少した時、その攻撃の主にもダメージを負わせるスキル。

 なるほど、素の体力差と自動回復リジェネで競り勝つつもりか。


「ほとんどのSPスキルポイントをつぎこんで作った《範囲外反撃アウトカンジカウンター》ってスキルだ。俺から離れた場所からの攻撃ダメージの何割かを相手に返す! このまま続けりゃ、自動回復のある俺より先にお前の体力が無くなって俺の勝ちだ!」


「なるほどクソだな。完全に俺をメタったスキルだろそれ。いったいどれだけSPつぎ込んだんだか……」


 おそらく、ソーナが持つスキル群のどれよりも要求SPは多いだろう。それこそ何十レベル分くらいは必要かも知れない。


「それにしたって強すぎて作れたもんじゃないだろ。条件付きだな? 少なくとも、「一定距離から外からの攻撃」っていうのはあるはずだ」


 さっきからダメージが返ってくるときと、来ないときがある。

ほかにもいろいろとデメリットを追わせなければダメージ反射スキル、それもパッシブのスキルなど作れないだろう。


 なんでわかるかって? LFOプレイヤーならほとんどが試すからだよ、作らないとしてもな。そして挫折の道を往くわけだ。


 LFOの自由度は「やりたいこと」を保証しサポートするが、「ぶっ壊れ」は決して許さない。


「ああそうさ。俺から1.5メートル外からの攻撃ってのが反射条件だ。つまり近くからぶっ放し続ければお前の勝ちだぜぇ?」


 あー、なるほどね。つまり、


「――ほら、来いよ。後ろから離れて撃つしか能がない銃使いが、来れるもんならなァ!」


 ダメージ通したければ、自分の有利な距離に来て戦え、と。

 そんな度胸もないだろ、と。



 要するに、俺は近距離クソ雑魚だと舐められているわけだな?




「ハッ! ま、そうすりゃすぐに斬って殴って泣かせごがっ」


 その長いセリフが終わる前に、《スリップスロート》を駆使して反時計回りに回り込み、大柄なメージンの懐に滑り込み密着する。

 そしてエレイルのグリップで、兜に覆われた顔面を殴り抜いてやった。


「っぐ、なんっで……なんだ、それ」


 メージンの視線はおそらく、スキルのエフェクトを纏ったエレイルに向かっているのだろう。そしてさぞ間抜けなツラをしているのが頭装備越しにも思い浮かぶぜ。

 俺が近距離苦手だと? 挑発としては満点をくれてやろう。


「上等だ、一流の銃使いの殴り合いを体験させてやる」


 拳銃ハンドガンという銃種が何故あると思う? その答えを、俺は取り回しやすいからだと答える。

 取り回しやすければ、殴りやすいだろう?


「銃使いとしちゃ邪道でも、“拳”も“銃”も扱えるのが一流なのさ」


 これを話したとき、なぜかガオウには「アホだな」と言われたが。


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