この彼女あってこの彼氏有り


 配信者グループ、“スピリッツゲーマーズ”。

 主にVRMMOのゲームで配信活動をする配信者のグループ。

 マナーの悪さ、素行の悪さ、地雷行為は日常茶飯事。視聴者が少ないことから規模の小さい炎上と鎮火を繰り返しながら迷惑行為などを繰り返す質の悪い配信者集団。


『メージン』と『くるな』、『キョウヤ』と『リッカ』というそれぞれのカップルのチャンネルが合わさってできたグループであり、それが今回、俺たちに絡んできたチャラ男たちの概要、らしい。


 らしいというのは、この情報が俺とソーナのように、こいつらの仲間に絡まれたガオウから送られてきたメールに書かれていた内容でしかこいつらの情報を知らないからだ。

 向こうはセイリと一緒にいるところを絡まれたようだ。ほんといっつも一緒だなあいつら、付き合ってるんじゃねぇの?


 俺たちの方に来たムカつく奴らがメージン&くるな、ガオウたちの方に現れたのがキョウヤ&リッカだ。

 ではなぜ、その評判の悪い配信者たちが俺たちの元に来たのか。


 それは先日話していたクラン『リンドブルム』の内部抗争、そのゴネていた中級者というのがこいつらだったというわけだ。

 大規模なクランに加入しており、討伐報告が無い新ボスとのレイドバトル。当然活躍し視聴者と登録者が爆増――のつもりだったのに。

 始まってみればどこのクランにも所属していない俺たち四人が大立ち回り。しかもMVPまでかっ攫われる始末。


 歴が長い上級プレイヤーたちにとってみれば「ああまたか」、「クッソまた取られたー!」「次は本気でMVPとってやろうか……!」という感想くらいのよくあることなのだが、前線に初めて出てきたこいつらにとっては憤慨ものだったらしく。


 どうやら大きなクランに所属していること自体が一種のステータスと感じているらしく、無所属の俺たちが活躍したことに我慢ならなかったようで、こうしてチートや不正と難癖をつけてきているらしい。


「だからよぉ、さっさと認めろよ! チートを使ってたって! でなきゃ無所属のお前らがMVPなんて取れるはずないだろ!」

「だから言ってるだろ、チートなんて使ってない。全部PSプレイヤースキルだ」

「そんなんでMVPとれるワケないじゃん。バカにしてんの?」

「逆にPSなしでMVPとれると思ってるなんて馬鹿にしてんのか?」


 あれから俺たちはリーリャの中央にある噴水広場までやってきていた。

 そこでずっとこの押し問答をしているのだが、あいにくそれで納得するような頭をしていたらこんな難癖などつけに来ないわけで。

主に俺と相手の二人、メージンとくるなが言い争っていた。


 周りには配信を見たのか、物珍しさからか次々と野次馬が集まっている。

 ソーナは……ずっと黙っている。が、俺にはわかる。

 これは余計な刺激をしたら即爆発するニトログリセリンだ。触ったら火傷するぜどころじゃない、触ったら全身消し飛ぶレベルのマジでヤバい危険物だ。


 今日の予定を、俺とのデートを、自分の計画とノッた気分を全てぶち壊されたことによって盛大にキレ散らかしていらっしゃる。


 今はおとなしくウィンドウを開いてブラウザでなにかを調べたり、時折周りに視線を飛ばしたりしているが、これは俺でも触りたくない、このまま落ち着くのを待って鎮火させたいところだ……。

 そんなこともあって、俺は消極的に配信者達の相手をしていた。

 目の前のアホより、激怒した彼女の方が怖いのだから仕方ない。


「つーかずっと黙ってるカノジョもカノジョなら、カレシもカレシだよね~。言い返す度胸もなくて、日和ってばっかでさ~」

「言ってやんなよ、チーターなんざ弱いからズルするんだから。俺らが怖くて仕方ないんだって」

「きゃははっっ! 魅力ゼロじゃん! ウケる!!」


 我慢、我慢だ。

 俺がキレたらソーナを止めるやつがいないし、爆発したらこっちにまで飛び火してくる可能性もあるんだ。俺にとってソーナより怖いものはない。

ソーナがキレたら犯罪組織のボスや警察よりも怖いところがあるからなマジで。

 脳天に風穴をぶち込んでやりたい気持ちを必死で抑え込んで、ソーナを刺激しないように振る舞う。


 だがアホはそんな俺の気も知れず、ましてや本能による危機察知能力もないようだった……


「そっちの女はどうなんだよ、さっきから黙りこくっちゃって。そんなに自分たちのチートがバレるのが怖いのかな~? ぎゃははは!」

「カレシに全部まかせっきり~? そういうの姫プっていうんでしょ~?」

「うわぁ」


 やりやがった。自分から見えてる地雷を踏みに行きやがった。それも踏めば広範囲を吹き飛ばす特別なやつを。

 子供でももうちょっと危機感を持つと思うぞ……?


「おい、お前らいい加減――」

「いいよ? じゃやろっか」


 俺が止めようとしたとき、後ろからやけに淡々とした、けれど今にも爆発しそうな底冷えする声が聞こえた。


「やるって、なにをだよ?」

「私達と戦いたかったんでしょ? だからこんなにしつこく絡んできて、こっちが手を出して、動画的に反撃できる理由が欲しかったんでしょ? ならやろーよ」


 その瞬間、一瞬で相手のくるなとかいう女の背後に回って、首筋に装備した剣を突きつけるソーナの姿があった。


「えっ、はや……!?」

「は!? な、舐めやがって!」


 突然の挑発に驚いた奴らだったが、俺としては違和感を感じていた。

 あれだけキレたソーナがそんな挑発をするとは思えなかった。

 着火さえしてしまえばペナルティが厳しい街中とはいえ輪切りにしてPKも辞さずにリスキルし続けるかと思っていたからだ。

 反撃できる余地を残してチャンスがあると思わせて、徹底的に心をたたき折るような容赦のないリスキルを。

 そのことに違和感を持った俺は大人しく見守っていようと様子を見――


「どこでも男誘うビッチが、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

「……あ?」

「どうせ誰でもいいんだろ!? なんなら――っぎゃ!?」


 もう流石に我慢できなかった。

 ……気付くと俺は、『エレイル』を握ってメージンの右膝を撃ち抜いていた。


「っあ、この野郎……!?」

「よぉしわかった、お前は俺が相手してやる。俺はどうでもいいがソーナのことを悪く言うなら二度とこのゲームを出来ないくらいにボコしてやる」


 外聞? 配信中? ソーナからの飛び火? 知ったことかボケ!

 さっきまでのかわいい煽りくらいなら笑って銃にマガジン装填しながらスルーしてやるが、可愛い彼女のことをここまで悪く言うムカつくやつなんざ蜂の巣にしてやる!

 腹立ってたし、もういいよな!


 俺は右膝を撃たれて片膝をつくクソ野郎の頭に銃口を突きつけ、ぐりぐりと押し付ける。


「言っとくが、コイツは丸出しの頭なら前線のタンクでも二、三発でHPを消し飛ばせる。発言は慎重に選べよ?」


 LFOは町中でもPKができる。NPCのクソ強い衛兵が飛んでくるが、俺やソーナなら対処しながらリスキルに向かうこともできるだろう。

 プレイヤーは死ぬと最後に訪れたどこかの街のポータルに飛ぶ。コイツらならリーリャのポータルだろう。

幸いそれならすぐ近くにあるからな。


 PKたちに仕掛けられたことしかなくて、「町中でくらいゆっくり買い物させろや運営!」と思っていたが、なるほどコレはいいや。

 どこでもコイツらを殺せて心をへし折れるんだからなぁ……!


「はっ、これが本性ってか! チーターはやっぱ気が短――」


 黙らなかったので撃つ。

 四肢を撃ってクリティカルを外し、わざと体力が危険域レッドゾーンに突入する手前で止める。


「知ってるか、LFOにおける痛みってのは軽減されてるが、感触はあまり軽減されてないらしいな」

「なにを、言って……ひっ!?」


 俺は体勢のメージンを蹴り倒し、二本の指を倒れた奴の眼球すれすれに突きつける。


「目を抉られる感覚、体験してみるか。随分気持ち悪いぞ? 刃物みたいな鋭いやつならマシだろうが、指ほど太ければどんな風に感じるかな?」

「……っ!」


 もちろん、全年齢ゲームのLFO。そんなおぞましい体験は完全体験ってわけにはいかないし、そんなトラウマ体験はできない。

 が、それを知らなければどれほど脅しになるだろうなぁ……?

 なんで俺が知ってるかって? キレたソーナにやられたからだよ。


「まあ、別にこのままPKしちゃってもいいんだけどねー。教会に駆け込んで免罪符買い占めればいい話だし」


 ソーナが片手剣をノコギリのように前後にスライドさせる。くるなの首から少量の赤いダメージエフェクトが出るが、それ以上に首筋を撫でる感触が血の気を引かせるだろう。


「で、どうする? 大人しくり合うか、それともこのままられるか」

「後者の場合はリスキル仕掛けるよ~?」

「――はっ、こっちはハナっからそのつもりだったんだ。決闘で戦ってやるよ……!」


 随分上から目線なのが気に入らないが、突きつけていた指を引いて上からどいてやる。見ればもくるなの首から剣を外していた。


「クソが! 不意打ちで調子に乗りやがって! お前らのチートなんかひねり潰して、暴いてやるからな!」


 おおう、あそこまでやったのにまだイキりやがる。

 ま、そんなに見たいって言うなら見せてやろう。


 自覚はないが、皆が俺たちに言うってチートをな。


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