水の都市でのデート

まえがき

2023/10/14


 大変お久しぶりです。一年以上失踪していたゲースナですが、新作執筆とともに再開いたします。


 ですが最近読み返してみて、未熟すぎてあまり納得のいかない作品だと痛感いたしました。ですので、この機会にリメイクし、一から投稿することを考えております。


 Xのアカウントでお聞きしますので、賛成反対意見などありましたらお送りください。



 いまだフォローを外さずにおいてくださった読者の方々、大変ありがとうございました。




_______________________

 LFOの町並みは、街ごとに様々な様相を見せている。

 平原の真ん中に建てられた城塞都市、山の斜面に佇む鉱山都市、谷の中に潜む峡谷都市……本当に様々な場所に街が点在しているが、どれも共通しているのは「古代遺物アーティファクトが中心にある」ことである。


 設定としては、動かせない古代遺物の近くに街が作られるようになった、らしい。

 なんでもNPCにあたる現代人が、研究の末にわずかながら古代遺物の稼働に成功し、モンスターを寄せ付けない古代遺物を起動できるようになってから、次第とその周りに街が作られるようになったんだとか。


 古代人であるプレイヤーは古代遺物をゲームの施設として十全に使える。

マイハウスに高性能なものを購入したせいで、今はもう使うことがなくなったレンタル制のクリエイトベンチ。

 スキルのあれこれを操作する『スキルセットベンチ』などがそれだ。


 そんなLFOの各街は様々な特色があり、観光するだけでも楽しいものだった。

まさに――デートにはうってつけだ。


 さて、裏の仕事の準備もそこそこにたった一日の学業も終えて迎えた、学生の安息日、土日。

 LFOに降り立ったユーガが訪れているのは、仲間達と一緒に拠点としている『エストール』ではなかった。


 張り巡らされた水路、そこをゆくゴンドラ。

 まるでイタリアのヴェネツィアのような様相を見せる、しかしそれ以上に宙を流れる水路がゲームならではの幻想的な光景を見せるLFO唯一の港町。

 海上湾港都市『リーリャ』だ。


「ひっさしぶりに来たなぁ。場所としては中盤だから、なかなか用事がないんだよなぁ」


 俺は石畳の道を歩きながら久々の街を眺めていた。

 最近のLFO一周年記念の大型拡張アップデート。

それに伴って追加されたレイドモンスター『天雷の神王竜 ゼウス・デウス』の討伐に注力していたため、ソーナと一緒にゆったり過ごすことはできなかった。

 随分と無茶な強行軍だったが、廃人ゲーマーのノリと勢いというのは恐ろしいもんだ。


 ただ、もちろんそちらに時間を多く割く必要があったせいで、今回ソーナの不満が爆発したわけだ。

『全然デート行けてない!!』とソーナが可愛く駄々をこね、今日は丸一日デートの日程になったのだった。


 そして待ち合わせに指定されたのがここ、LFO指折りのデートスポットと名高い水の都リーリャだった。

 イタリアのような町並みと、魔法や古代遺物によって宙を流れる水路の美しい風景は、女性に総じて人気が高い。

 ソーナもそんな女の子の内の一人だったと言うわけだ。剣を振るっているときの勇ましさや元気さとのギャップが凄くいい。


 さらにこのリーリャには人気に拍車をかけるものがある。

 ゲームの街はそれぞれのテーマを元に作られていることが多い。

 たとえば鉱山に近い街だったら鉱石系の武器や素材が売られていたり、山の奥にぽつんとある小さな村には植物系の素材が潤沢だったり。

 LFOは小さな街にも特産品と呼べるものが用意されているのだ。


 そして、海に面した大きな入り江の内部に建てられた海上都市であるリーリャの特色は、海産物の豊富さ。

 水棲モンスターの素材が安価で売られていたり、海鮮料理の店のレパートリーがとても充実していたりする。


街の至る所に海鮮レストランが軒を連ねており、道の端には屋台が所狭しと並んでいるのもデートスポットたる理由だ。

 リーリャが前線だった頃は、よくソーナと食べ歩いたりして楽しんだなぁ。


「たしかに思い出してみるとデートも久しぶりだったよな……」


 三月中旬に行われたアップデートによって、俺たちの春休みは消し飛んだと言っても過言じゃない。

 最初は俺たちも新しく解放されたマップに突撃していた。


 だが偶然トップクランがゼウス・デウスに遭遇して、コテンパンにボロ負けした結果、そのリベンジに燃えるクランがゼウス・デウス討伐を掲げ、それに多くのプレイヤーが乗っかり、たった半月で追加されたレイドモンスターが撃破されるという事件が起こったのだった……MVPとったのは俺たちだけどな。

 まあ、ゼウス・デウスも完全に倒したわけでもないが。


 そんなこんなで、振り返ってみれば半月近くは丸々デートが出来ていなかったことが判明した。

 一緒に戦っていようが、それをデートと称していようが、デートらしいデートをしなくてもいいと思えるわけじゃない。ソーナも寂しくなっただろうし、俺もデートしイチャつきたくなった。

 こうやってマイハウスで合流せずに、こうやって待ち合わせるのもデートっぽくていい。


「待ち合わせは町外れの噴水だよな……でもちょっと時間あるんだよなぁ」


 やっぱ楽しみにしてたんだなぁ。かなり早めにログインして時間を潰してたはずが、まだ足りていなかった。


「どうするかなぁ……ん?」


いい匂いが俺の鼻に入ってきたのは、そう悩んでいたときだった。



*****



「あっ、ユーガ!」


 待ち合わせの時間から、少し早めに待っていた俺に気付いたソーナが駆けてくる。


「やっほー!」

「うわっ、と!」


 そしてそのまま勢いよく飛びついてくる。ソーナはAGIを上げているだけあってかなり強い突撃だったが、なんとか受け止められた。


「おまたせっ! 待たせたかな?」

「いいや? 今来たとこだよ」

「えへへ、お決まりありがと!」

「様式美だからな。それにどれだけ待っても、相手がソーナなら苦じゃないさ」

「ふふふ、嬉しい……!」


 ソーナはデートなだけあって戦闘用の装備、俺が創った『戦乙女銀装ヴァルキュリア・ドレスシリーズ』ではなく、街などで着るような普段着の装いだった。


 白いオフショルダーのトップスに、紺色のパンツ。

 肩を出しボディラインを浮き彫りにする服装は、ソーナのメリハリの付いたスタイルをさらに際立たせている。

 リアルの私服に近しい、活発なソーナに良く似合ったコーディネートだ。


「服新しいやつ? よーく似合ってるよ」

「もー、目敏いなぁー! そうだよ、いい腕の生産プレイヤーさんに作ってもらったオーダーメイド!」


 なるほど、似合うわけだ。

 ただ、いつも俺の作ったもので装備を固めてくれているので、なんというか少し悲しいというか、寂しい気持ちがある。

 俺は服飾スキルを持ってないからこういった服は作れないし、彼女が着てくる服を全部把握しているというのも味気ないというのもわかるけども。

 独占欲が揺れ動くなぁ……!


「ユーガのためだけに用意した一点ものだよ」


 訂正。作れなくて良かった。かなりグッとキた。


「ユーガも服新しいの? 似合ってるし、抱きついて体の感触がわかりやすいから最高だね」

「そりゃデートに軽鎧を着ていくわけにもいかないしな」


 俺の服も、普段使っている軽鎧『銃機装ガンナードシリーズ』ではない。

普段着のように見える装備だが、大きく開いた袖やカーゴパンツの腿部に弾倉マガジンをこれでもかと仕込んだ銃器運用特化の装備ではデートっぽくないだろう。

 それに腐っても軽鎧。胸部には黒いメカメカしい胸当てがある。それではソーナの希望である密着感が得られない。


 なので潤沢な資金で新しい服を買ってきた。

 ジーパンに白Tシャツ、黒い七分丈のシャツという服装は我ながら無難だが似合っているとは思う。

 現に、ソーナのお気に召したようだ。


「ふふふー。じゃ、いこっか! 見てみたいお店がいくつかあるんだ」

「服でもアクセでもご飯でも。何にだって付き合うさ。それこそ装備とかでもな」

「装備はユーガが作ってくれるからいらないじゃん」

「たしかに。ソーナの為ならなんでも作ってやるからな」


 これまで鎧も剣も俺が作ってきたんだ。今更他の奴に譲ってやるかよ。


「あ、ソーナ――」

「あっ、そうだ! えっと……」


 俺が切り出そうとすると、突然ソーナがステータス画面を開いてなにやら操作する。すると彼女の手元に棒状のアイテムが二つ出てきた。


「はい、これ! 来る途中で見つけたから、一緒に食べようと思って! 好きだったでしょ? リーリャ名物、氷水飴!」


 そう言ってソーナが差し出してきたのは、リーリャ特産のお菓子だった。

 ひんやり冷たく硬く、口に含むとすぐに溶けて甘い水飴となる。ソーナと一緒によく食べていた水飴だ。


「――ははは。懐かしいな、ありがと。でも考えることホント一緒だなぁ」

「え?」


 俺はメニューを開くと、途中で買ってきたアイテムを出した。


「リーリャ名物、巨大ホタテ串の醤油味。よく食べてたろ? 見かけたからつい買っちまった」


 巨大なホタテがいくつか刺さった、いい匂いのする串焼き。氷水飴と同じく、これも前に二人でよく食べていたものだ。


「うわー懐かしい、ありがと。じゃあ、氷水飴はデザートにしよっか」

「まずは、軽く串から食べていこうか。食べ歩きするしな」


 俺たちは水飴と串焼きを一つずつトレードして、食べながらリーリャの雑踏へと入り込んでいった。

 ちなみに半年近く経っていたが、二人で食べる味はまったく変わっていなかった。


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