食い倒れカップル


「ん~美味しかった!」

「いやほんとになぁ。リーリャの飯は美味かったけど、ここ数ヶ月でさらに美味くなってるもんな」

「料理人プレイヤーたちの努力ってすごいねぇ。他の街もいろいろ変わってるかもね」

「今度戻って遊んでみるのもいいかもなぁ」


 串と飴を食べた後は、道にある露店や有名なレストランを食べ歩いたり、雑貨や服を売っているショップを覗いたりしてデートを楽しんでいた。

 なぜわざわざリーリャの中心部から離れた場所の噴水に待ち合わせたのかといえばこのためだ。外縁部から回るように中心に歩いて行くと、いろいろな店を覗きやすい。


 それと中心部は、街と街を転移するための『転移ポータル』という古代遺物アーティファクト、いわゆるファストトラベルの施設があるのでプレイヤーが多い。

 人目はあまり気にしないが、ゆったりデートしたいからな。


 露店では浜焼き、焼き蟹。店ではいくら、鉄火丼や寿司など、海の幸をこれでもかと堪能し、ショップではマイハウスに置ける小物や雑貨などを見ていく。

 フルダイブでは食べ物を味わうことができるが、物理的に食べているわけではない。その食べたという思考が満腹感を生んでいるだけだ。


 なので、普段はあまり食べられないという人でもたくさんの量を食べることもできる。その限界は個人差があるが、とりあえず俺たちはたくさん食べられる部類だった。

 俺はリアルでも事情があって、燃費の悪い体の構造になっているから、半分くらいはリアルの間隔だけども。


「いつかリアルでも食べてみたいなぁ。北海道とか、本場でよさそうじゃないか?」

「食べ歩きしてみたいねぇ。大阪とかも行ってみたいよー」

「国内で行ったことない所がたくさんあるから、いろいろ旅行とか行ってみたいよなぁ」

「うん! 九州とか興味ある! 博多の豚骨ラーメンとか食べてみたい!」

「俺も。食べ物のことばっかりだな、俺たち」


 綺麗な景色というのはどうしてもゲーム内で見慣れてしまう。だからこんなにも食べ物にベクトルが行くんだろうな。

 デートの最中で、予定も立てていない旅行のことを話すのは急ぎすぎだろうか。

 楽しいのだから仕方ない……と自分を納得させる。付き合ってからそろそろ一年だが、二人で旅行なんて行ったことがないのだから。


 俺たちの馴れ初めはここ、LFOで出会ったことだった。

 サービス開始直後にフィールドで出会い、その後すぐにリアルの同じ学校で出会い、半年もしないうちに付き合った。


 まあ、それからはリアルでデートしたりも多かったが、圧倒的にゲーム内で遊ぶことが多かった。だからリアルではそれほどイベントを起こしていなかったのだ。

 これからは、もっとリアルでもイチャつきたいという考えは、二人共通のものだったらしい。


 そんな恋人らしいことを考えていたがここはゲームの中、そして俺たちはゲーマー。

 自然と話題もゲームへとなっていくわけで。

 俺たちの話題は、お互いのスキルの話になっていった。


「それで、この前のヴァルトベルクとそれからレベルが上がって貯まったSPで、新しいオリジナルスキルが作れたの!」

「あー、ソーナのスキルどれもSPが重いからなぁ。今回も重めのやつなんだろ?」

「えへへ、パッシブスキルをちょっと……」

「そりゃ重いわけだ……」


 基本的にスキルというのはSPを使って取得する。

 元からシステムに創られている既存のスキルと、自分で1から創るオリジナルスキル。それらの取得に必要なSPはイコールではない。


 まず第一に無いものを理想通りに創るのだから当然オリジナルスキルの方がポイントがかかる。

そしてそのスキルの性能が上がれば上がるほど必要な消費SPが嵩んでいくのだ。

 当然オリジナルスキルを創れば既存のスキルばかり取得するよりスキルが少なくなってします。ならなぜオリジナルスキルを創るのか。


 当然、その方が強いからだ。

 だいたいのトッププレイヤーは独自のオリジナルスキルを創って、それを使いこなしている。かくいう俺やソーナもそのクチだ。

 ソーナの《千々剣舞サウザンドラッシュ》や、《死線加速デッドエンドアクセル》などは彼女のオリジナルスキルだ。


 かかる強化の上がり幅が大きいだけに、必要なSPも一際デカい。

 しかし、俺の《一弾必殺ワンショットキル》もオリジナルスキルだが、メリットに見合うデメリットを設定しているので必要なSPは案外少なかったりする。


 プラスの効果を入れれば必要なSPは増加し、マイナスの効果を入れれば減らすことができる。それがLFOの『スキルクリエイトシステム』だ。

 そんなシステムで常時発動するパッシブスキルを創ろうものなら、SPが重くなるのも頷ける。


「ねぇ、たしかユーガはこの前のアプデで、SPがかなり余裕できたんだったよね? スキル構成はどうしたの?」

「うーん、まだ決めかねてるんだよなぁ」


 春のアップデートで俺はとある理由でオリジナルスキルにつぎ込んでいたSPをかなり浮かせることが出来て、今現在SPにはかなり余裕がある。


「今の時点でやりたいこともできてるし、今のところは保留って感じかな」

「ぐぬぬ……SPに余裕あるのが羨ましい……!」

「俺はそうでもして強めのスキルを揃えないと、銃を最前線で運用できないからなぁ」

「よく使うよねぇ。ピーキーなスキルばっかり」


 銃を使うためだ、仕方ない。それくらい銃カテゴリの武器は冷遇されているんだ。

ここ最近は銃使い専用掲示板も大きな動きはないしな……。

 そんなマイソウルウエポンと同志たちに想いを馳せていると、突然右頬になにかが押し付けられた。


「デート中に他の女のこと考えるの禁止ー」

「女って……スレ民が女性とは限らないだろ」


 ソーナが人差し指でぐいぐいとつついてくる。結構力が強くて顔がすごい歪んでいる。


「わかったわかった、ごめんて」

「やーだー。罰としてSP稼ぎ! の前にどうしても行きたいところに行きます!」

「SP稼ぎに行くのは決定なのか……」


 まあ、俺もそのつもりだったしいいけれども。


「その前にデート! 次はこっちね!」

「わかったわかった、逃げないって」


 ソーナは俺の右腕をがっしりと掴んでぐいぐいと引っ張っていく。

 そんなに強引にしなくても、俺がソーナから逃げるなんてあり得ないのに。

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