ネチケットは必修科目
「そうだ、お前カモメからなんか聞き出したんだろ? それ聞かせろよ」
「お前……それ俺たちが聞き出した情報なんだけど……ほんと遠慮ないのな」
「お前ら相手に遠慮してたらついて行けねぇんだよ、ほら教えろ教えろ」
言ってもセイリもガオウも、なかなかリアルチートだと思うけどなぁ。
まだ学生で、ゲームにかけられる時間が少ない俺たちは、廃人変人が集うトッププレイヤー達とのレベルの差を、PS《プレイヤースキル》でほとんどを埋めていると言ってもいい。
たとえば俺の射撃能力、ソーナの反射神経とか、な。
それに似たり寄ったりな能力をこの二人も持っているんだが……まあ、俺とソーナはコンビで組むと凶悪になるらしいので、それについていくのが大変とは言われる。
まあガオウたちにも関係のある話だから別に話してもいいんだけどな。
「んー……『リンドヴルム』が内部抗争? を起こしてる、ってさ」
「はあ……? リンドヴルムって超大型クランだろ? 昨日のゼウス・デウスのときにもいたじゃねぇか。なんでそんな情報押し付けられてんだよ」
「まぁ聞けって。その騒動に俺たちが巻き込まれる可能性があるんだと」
「…………んん?」
カモメから聞いた話はこうだ。
リンドヴルムは中堅プレイヤーが多く所属するクランだ。
だがその幅はゲーマー歴が長い玄人から、LFOがゲームデビューとなった初心者ゲーマーまで幅広い。
広く門戸を開いているから、プレイヤーによって波が激しいクランである。
ただそれだけ人数も多く、話を聞く限り民度も高くはないらしい。
なんでもそのリンドヴルムメンバーの数名から、昨日のゼウス・デウスのレイドバトルで活躍していたのにクランにすら所属していないプレイヤー……その中でもMVPをかっ攫ったソーナと、時点で活躍した俺やガオウたちにヘイトが集まっていると。
俺たちを責めようとする中級者の派閥――と、それを諫める玄人とで軽い諍いがあり、内部抗争とはいかないまでもギスギスしているそうだ。
その中級者派閥は血の気が多いプレイヤーらしく、俺たちのことをチートだなんだと喚き立てているらしい。
「で、もしかしたらいちゃもんつけに来るかもしれない、ってさ。面倒な話だが」
「なるほどねぇ……まあどのゲームでも考えなしにチートだズルだという奴はいるし、LFOはゲームを初めてする初心者も多い。マナーが無いのも仕方ないか」
ため息をつき、コーヒーと一緒に残った甘いケーキを口に放り込むガオウ。
まあ、俺たちのように変に目立っていれば、やっかみや僻み、嫉妬やらを向けられることも多い。MMOをやる上でやむを得ないことだ。
「で? それだけしか聞き出せないで逃がしたのか?」
「仕方ないだろ、新エリアの情報もまだ無いって言うんだし……足りない分は貸しってことにしといたさ」
「まあ、今はあんまり欲しい情報もないからな。それで十分か」
ぶっちゃけ欲しかったのは攻略が進んでいない新エリアの情報だったんだが。
つい先日の大型アップデートを経て追加された要素は膨大だ。
新しい職業、素材、そして新しいエリア。昨日の《天雷の神王竜 ゼウス・デウス》も、新規に追加された要素の一つでもある。
「新しいレイドボス見つけたけど倒せそうなレベルだから殴り込みかけようぜ!」と、とあるトッププレイヤーが息巻いて、多くのプレイヤーがそれに便乗したんだが……うん。正直倒せるとは思ってなかった。
運営もおそらくこんなに早く倒されるなんて思っていなかっただろう。
MVPと、貢献度ランキング一桁総ナメなんてしてる俺たちが言っても説得力なんてないと思うけどな。
それはさておき。
そのレイドボス騒動のせいで、新しい要素についての情報が想定よりも集まっていなかったのが現状だ。レイドボスにうつつを抜かしすぎた。
その結果、アップデートで追加された情報は欲しいが、自分がピンポイントで知りたいことがわからない、という自体に陥っている。
だからカモメからリンドヴルム程度の情報しか聞かなかった。だって使いもしない盾の情報なんか押し付けられても仕方ないだろ。どうせならもっと有効に使いたい。
「ってな感じで、今は引き出すの止めといた。欲しくなったら配信してるところに絡みに行けば今回の分も吐くだろ」
「鬼だなお前……なるほどな。ひとまずリンドヴルムに気をつけとけってことくらいか」
「覚えとくくらいでもいいさ。いくらネチケットがないって言っても、いきなり喧嘩ふっかけてくるわけでもないだろうし……」
……なんか今旗が立ったような気がしたな?
わかっても口に出すものじゃないな、くわばらくわばら。
「まあ、どうせ俺らはログイン少なくなるし、大丈夫そうだな」
「え? お前イン少なくなんの? アプデ来たんだからこれからだろうがよ」
「いやいや、お前もだろ」
「は? なんで」
アップデートが来たゲームをわざわざ放置しておくほどにわかゲーマーじゃないぞ? 昨日は疲れすぎてたから寝たけど、二徹三徹するくらいやろうと思ってたのに――
「だって明後日から春休み開けて学校じゃねーか」
「……あ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます