リアルフレンド



 LFOの味覚システムは、現実のものと遜色ないほど精巧に作られている。これも進化を重ねたフルダイブシステムの賜物だろう。

 おかげで、ゲーム内にある飲み物や食べ物も美味しく頂ける。噂によれば人気店やチェーン展開している企業の協力もとりつけているのだとか。


「美味いなぁ……現実じゃ手が出なくても、ゲーム内通貨ならいくらでも出せるからな」

「体重とかも気にしなくて良いからねー。女の子も気軽にスイーツに手が伸ばせちゃうよ」


カモメから情報を聞き出した俺たちは、ホームタウン『エストール』へと帰ってきていた。

 俺の遅刻で別行動になっていたフレンドと合流し、行きつけの喫茶店『ネクタル』のテラスで巨大パフェをパクついていた。

 トッピングに至るまでなにもかもが巨大なこのパフェはこの店の名物だ。


「カモメの配信見たが……お前ら落ち着くってことを知らねぇのか?」

「マグロみたいだねぇキミ達。止まれない方のね」


 そして合流したからにはフレンドもいる。

 全身をゴツい金属鎧で固め、巨大な大剣を壁に立てかけた赤銅色の短髪巨体ナイスガイ――ゼウス・デウス戦で俺が出荷したプレイヤー、ガオウはコーヒーを飲みながら呆れた物言いで聞いてくる。


 そしてもう一人。

 紫髪のショートカットで、ソーナとは違いスレンダーなアバター。

スリットの入ったスカートを履いている、魔法少女の服を露出度過多に改造したような服を着こなす女が一人。


「マグロは酷いんじゃないのー? というか止まらない方って、そうじゃないのは?」

「そりゃソーナ、ベッドの方に決まって――」

「これでも食って黙ってろ」

「ほらほら、まだまだあるぜ? 遠慮せず」


 いきなりセクハラをかまそうとした女、『セイリ』の口に、ガオウがケーキを詰め込み俺がお代わりを構える。


「もがもぐ……」

「「そういうプレイ?」とか言わせないぞ? これは黙らされるセイリが悪い」

「ったく、なーんでこっちじゃここまで色ボケなんだよ。限度ってもんがあるだろうがよ」

「んぐっ、んはぁ……。VRだからこそ限度を取っ払うんじゃないかぁ。ユーガもガオウもお堅いなぁ」


 センシティブ判定に引っかかりそうだから言ってんだよ……今まで食らってるところを見たことないのが不思議なほど際どいことを言ってるんだが。

 あとそれに反応するソーナが引っかかりそうだから。


「はー……未討伐フィールドボスを二人で……。ほんと、よくできたよな」

「いや、あれに関してはネタが割れればそこまで難しくもなかったぞ。それにヴァルトベルクはフィールドが不人気だったって言うのも未討伐の理由だろ」

「タロス大森林、モンスター無限沸きだものねぇ……そりゃ好んで行きたい場所じゃないのもわかるね」

「たくさん戦えていいところだけど、面倒くさくはあるよね」


 戦闘大好きなソーナからしてみれば多少はマシだろうが、大部分の一般人にとっては行きたくもないフィールドだ。

 ただ、これからは人口が増えるかもな……未討伐のフィールドボスの攻略法、それも比較的簡単なものが拡散したんだ。

 倒すだけで多くのSPが手に入るフィールドボスという旨みはそれだけの価値がある。


「で、どうだったのかな? そのヴァルトベルクのドロップ品は。僕たちくらいには教えてくれても良いんじゃない?」

「お、そうだな。どんなだったんだ? キリキリ吐きやがれ」

「お前ら……ま、いいけどさ」


 多くに公開はしたくはないが、身内程度なら教えても構わない。バトルスタイル的に、俺たちよりガオウの方が合っていそうだしな。


「ドロップはアクセサリーに、私は引けなかったんだけどレア素材アイテムがあったよ。タンク向けだったけど強力な効果だった」

「タンク向け……ってことは僕たちにはあんまりいらないんじゃない?」


 俺たち四人の編成は前衛がソーナとガオウで、後衛が俺とセイリだ。

 ガオウは一見タンクに見えるが、大剣を振り回す高耐久な前衛アタッカーだ。耐久力よりも攻撃力に多くの割合を振っている。


「いや、そんなことないぞ。俺とソーナには合わなかったが、特にガオウにはあってるんじゃないかな。やりようによっちゃセイリも使えるかも」

「俺? そりゃタンクというか、壁役やることもあるけどよ」

「僕にも使えるって、それどんな効果さ」


 防御を捨てている俺たちと違って、ガオウは前衛で殴り合うスタイルだ。

 回復性能が高いからタンク向けと言ったが、一番向いているのはガオウのような高耐久を兼ね備える前衛だろう。

 勝ち取ってきた戦利品『森緑竜の首飾り』の効果を二人に説明した。


「つっよ」

「なんだそれ……たしかに欲しいな」

「僕も欲しいよ。よくダメージ受けるし、まだ確認されていないけどHPを代償にする魔法なんかあればそれ人権アクセサリーだよ」


 セイリは攻撃を捌ききれずにダメージを受ける場面が多々あるし、ガオウはダメージ前提の高火力前衛ビルド。欲しくないわけがないか。

 四人でパーティーを組む時もガオウがタンクを務めることが多い。紙装甲のソーナは避けタンクだが。


「しっかし今から取りに行ってもいいなーこれ。ちなみに使わないんなら譲るなんてことは――」

「地獄見てどうぞ」

「人の苦しみは蜜の味だよね」

「チッ、クソが」


 友人とはいえ誰が苦戦した成果を譲るかよ。

 眺めるだけでも価値あるんだぞ。そして協力してやることもしない。自分の味わった苦難は人に味わわせるのが至福となるんだからな……!


 でもソーナが欲しがったらすぐにあげよう。

 彼女には甘い男だからな。


「まぁそうだろうな……セイリ、この後まだ空いてるか?」

「デートのお誘いかい? ホテルで休憩する準備は――」

「その口塞いどけピンク脳。……ってかLFOにホテルなんてないだろ」

「え? あるよ。普通の宿屋じゃなくてラブラブっぽい雰囲気のやつ」

「あるのっ!?」


 あるのかよ……セーブポイントとしての宿屋はあるが、そんなもの聞いたことないぞ。

 このゲーム全年齢なんだけどなぁ……あとなんでそんな過剰反応してるんですかねソーナさん?


「うん。リーリャの裏路地の奥の奥のさらに奥にね……」

「あの街にあったんだ。うわぁ……連れ込みづらそうだけどなかなか良さそうな感じ……」

「でもソーナたちにはマイハウスがあるじゃないか。自宅でしっぽりってのは?」

「相当その気分にさせないと乗ってくれないんだよねぇたぶん……もしそんな雰囲気になったら別のR-18ソフトで……」


 そのままどんどん二人の世界に入っていくソーナとセイリ……これは男が見聞きしない方がよさそうな光景だ。特に俺にはよくない。


「いつか拉致られそうだよな、お前」

「やめろよ、考えないようにしてるんだから……」


 この二人がエロ談義を始めると長い。俺とガオウはこうなると大人しく野郎だけの静かな語らいに移行するのがお決まりだ。


 ……普通逆じゃないか? これ。


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