リアルのカノジョ
世界の技術はVR、フルダイブシステムの確立によって大きな進歩を遂げた。
自動車はほぼすべてが自動運転になり、記録媒体は電子化が普通。
多くの労働が外出する必要もなくなったが、それでも会社に足を運んでしまうのは日本人の悲しき性だろうか。
しかし、そんな時代でも変わらないものもある。
子供たちが通う学校では、教材の電子化などの変化はあったが、ノートを使ったりコミュニケーション能力を養うために登校する制度がそれだ。
そして、俺が通う私立清凜学園も類に漏れず、登校しなければならない学校だ。
「っっしゃギリセーフ!!!」
だから寝坊して慌てて登校して教室に駆け込む姿があるのも、それが春休み明けの高校二年生最初の登校だったとしても、いつの時代も不変のことなんだ、きっと。
一昨日の夕方まですっかり新学期のことを忘れていた結果、最終日は課題に準備に用事にと忙殺された。まあそのせいで寝坊してりゃ世話ないがな!
そして来たる
「いやっほー優我! おはよう!」
ギリギリを駆け抜けて汗だくの俺に、突然飛びついてくるなにか。
それはとても柔らかい銀色だった。
ふわりと揺れる輝く髪に、透き通るような青い瞳に見惚れていると、彼女は顔を俺の体に擦り付けてきた。
「今年も同じクラスだね~、ふふふ~。久々の優我分補給~!」
「なんだよそれ……あっちでもやってるだろ? ソラナ」
「それはユーガ分補給だし~、リアルだと深みがダンチなんだよ」
「深みっていったい……」
朝から抱き着いてくるくらいには相思相愛だが、たまに怖いのが珠に瑕である。
「汗掻いてるから勘弁してくれ」
「むしろそれ狙ってるんだよ?」
窓際の席に座って、風にその髪をたなびかせでもしていたら深窓の令嬢に見える外見も、中身というか言動がこれだからギャップがありすぎるんだよな。
それがよくもあるけれど。
「優我は私の汗は嫌い?」
「いやそうでもないけどさぁ……」
「私は優我の汗好きだよ!」
「
いつか襲うんじゃなくて襲われそう……喰われる?
「朝から見せつけやがってバカップル共め……」
ソラナに遅れて、野性味強いツラをした悪友が歩いてきた。
茶髪に長身の野生系イケメンとして通用しそうなこの友人は
その顔はガオウとそっくりで、隠す気も無いリアル反映キャラメイクはいっそ清々しい。俺やソーナでさえちょっと手を加えているのに。
「だって仕方ないじゃん、好きなんだから。大輝もそういう人が出来ればわかるって」
「そうだぞー。経験が無いことを僻むなよ
「こンのリア充どもめ爆散しろ……ッ!」
親の仇でも見るような目で睨んでくる大輝。もう少し怨念が籠れば血涙流しそうでおもしろいなぁ。
「なんだそのろくでもないことを考えていそうなツラは。あ? 優我」
「いやぁ? 早く親友に愛しい人ができるといいなぁと思ってるツラだぜ?」
「人を罠にハメて高笑いするようなやつのそんなセリフが信じられるかよ」
だって気持ちいいんだから仕方がないだろ。
それはそれとして、大輝のどこかヤンキーっぽいというかガサツな言動が、彼女ができない原因なんじゃないかと俺は思っている。顔もいいし大輝は気遣いもできる男だ。
だがその顔と態度が似合いすぎていて、女子から勘違いされているんじゃあないだろうか――言ってはやらないけど。
それよりも――
「ソラナ、ソラナ。いつまで抱き着いてるんだよ。そろそろ大輝が血涙通り越して砂糖吐きそうだぞ」
「えぇ……? まだいいじゃん。どうせ減るものでもないし」
大輝と話していた間もずっと引っ付いていたソラナに聞くが、まだ満足されていないらしい。
ソラナは母がロシア人のハーフだ。
髪も綺麗な銀色だし、大変ご立派なものを押し付けられている。
いい匂いがして、柔らかい。そして朝だから、ちょっと俺の理性が悲鳴をあげている。待って胸をさらに押し付けないで、形が変わるほど力いっぱい抱き着かないでくれ! それ押し付けてるの俺の体だから!
「俺の理性が擦り減るんだよ。キスしたくなるだろ?」
「ウェルカム」
「ここ教室だっての」
「ディープじゃなきゃいいじゃん」
「ダメだろ」
努めて冷静に、落ち着いてクールぶって対応する。もし興奮しているだなんて知られたら本当に喰われかねないからな……。
そう言いながらも、ソラナの背中に手が回ってしまう自分が恨めしい。
「くっ……こいつら、二人っきりの世界に入り込みやがって……っ! あっ、やっと来たか委員長! 助けてくれ!」
「なんだい? ……ってうわ、甘っ!? 空気が甘い!」
がらりと戸を開け、なにかの資料を手に持って教室に入ってきたもう一人の友人、
「朝っぱらから何をやってるんだ君たちは……みんなが大ダメージ受けているからやめた方がいいよ? 特にソラナ。まだ高校二年生なんだから、もっと健全にね?」
静樹は女子にしては短い髪をしている。そのおかげで中性的な顔立ちはさらに拍車がかかっている。
思わせぶりな態度をとり、話し上手なイケメンフェイスは校内で王子様と呼ばれ、ファンクラブまである始末だ。
だが……LFOでの彼女は目も当てられない変態淑女、セイリその人だ。リアルでのファンにはとても見せられたもんじゃない。
クラス委員長まで務めるリアルでの真面目な生活の反動なのか、なぜあんなにもはっちゃけたのかはわからない。
とりあえず、ソラナには離れてもらった。彼女のスキンシップは嬉しいんだが、激しいのを連発されると理性が保たない。それが唯一の悩みだ……。
それにつられて、なんだか教室の喧騒も大きくなってきた気がする。
ともかくこれで、いつものゲームメンバーが集まった。
この三人の仲がいいのか悪いのかわからない奴らが、主な俺のゲーム友達だ。
「で? お前らあれからヴァルトベルク行ったのか?」
「ああ、昨日ばっちりな。だが苦労したなぁなんだよあの弾幕」
「僕は炎系の魔法は苦手だからね。苦戦したけど、しっかりアクセサリーを入手してきたよ。手伝ってくれてもよかったんじゃないかい?」
「やなこった。やっぱり確定泥かー。ヴァルトベルク狩りがさらに加速するだろうな」
4人が集まれば、始まるのは自然とLFOの話題だ。
どうやら二人とも、俺が忙殺されている間にきっちりヴァルトベルクを倒してきたらしい。
相性的にもう少し苦戦するかと思ったんだが、さすがだ。
俺たち二人だけを化け物扱いはできないレベルで、大輝と静樹も化け物なんだよなぁ。
「で、今日はどうする? LFOやるか?」
「あー、ちょっと今日はカナンに止められててな。掃除とか、春休みにやらなかったことをまとめてやれって。帰ったら馬車馬のように働かされる予定だから」
「それはまあ……やってなかった優我が悪いねー、ドンマイ」
「サポートAIに顎で使われる家主ってなんだい……?」
「仕方ない、ウチはアイツにネット回線支配されてるから……」
「ゲームができなくなるってことか……恐ろしいな、お前んとこのカナンは」
そんなことを話していると、予鈴が鳴ってしまった。
そもそも俺が遅刻ギリギリで入ってきたんだ、そりゃ時間もない。
「じゃ、詳しいことはあとでね」
「お~う」
委員長の鶴の一声で各々席に戻る。
自分の席に戻る途中で、クラスメートが開いていたニュースサイトがちらりと見えた。
『昨夜、巨大企業『
……高校生なのにニュースサイトなんて堅いなぁ、と思いつつ俺は自分のPCに教師たちにはバレないようにこっそりと、ゲームのインストールを始めた。
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