出演料はしっかりカツアゲしよう
LFOには多くの『クラン』が設立されている。
有名どころで言えば、主に平日昼間を活動時間にする『社会反乱軍』。そして逆に夜間を主な活動時間とする『社畜組合』。
傭兵団ロール大好き連中『
生産系クラスが集まった『パイルバンカー工業』に『ヘパイストスの炎』。
カモメはその中でも屈指の大手クラン、攻略から豆知識まで様々な情報を取り扱い取引する情報屋クラン『LFO報道』のエース。
どんな情報でも相手でもすっぱ抜き、情報を売り飛ばし拡散する。時にはすっぱ抜きついでに最前線の映える戦闘を配信し人気を博す。
マナーはよくないが、それを「映ってしまったから」という言い訳で跳ね除け逃げる。
それが《
「うっひゃ~危ない危ない。なんであれでバレるんだろうね、《隠密》使って十メートル近くは離れてたよ? 相変わらず頭もおかしいし、イカれた耳してるね!」
『なんであれバレたの』
『銃って扱い難しいよな? なんであんなに命中率良いんだ』
『カモメに撃ったの明らかにわざと外したよな?』
『↑そうでしょ。だってフィールドボスへの攻撃、半分以上がクリティカルだったし』
『というかなんで未討伐のフィールドボスを二人で撃破してるんですかね』
『やっぱ頭ユーソナおかしい』
配信をしているカモメのコメント欄に、先程までのヴァルトベルク戦も含めた感想が流れる。
「あはは! そうだねあの人達は頭おかしいよ! ソーにゃんは神速反射神経で全部躱して鬼みたいな連撃叩き込むし、曲芸やってるみたいに変な挙動してたからね!」
『攻撃がすり抜けてるみたいだった』
『当たった! と思ったのに当たってなかった』
『避けた次の瞬間には三、四回は斬られてるボス』
『フィールドボス以上のボスですか?』
『さすが『銀の
『
「でもそれよりわかんないのがユーガ氏だよねぇ。撃っても全然当たらないし、当たってもダメージしょぼい銃系武器でクリティカル連発! 百発百中、誤射もなし! おまけに全然動かないのに攻撃を何気に躱してるし。どういう目をしてるんだろうねぇ」
情報屋という立場柄、多くのプレイヤーを見てきたカモメの評価は間違っていない。
ユーガとソーナは特に意識せず平然と避けたり撃ったりしているが、それは一つ一つが一般的なプレイヤーのスーパープレイらしい。
特にサービス初期から幾度となくパパラッチを仕掛け、それを初回から返り討ちにされ続けているカモメの二人への分析はとても的を
『銃を使って高レベルプレイヤーと並んでるのってユーガくらいだもんね』
『俺、扱いやすいと言われてる小銃使っても半分は
『安心しろ、俺もだ』
『私もよ』
『なんで撃たれやすい地面走って逃げてるの? 《ムササビの術》で逃げればいいんじゃない?』
コメント欄に、走って逃げるカモメへの疑問が投げかけられる。
彼女のクラスは《忍者》。様々なアイテムを
発動自体に媒体が必要なものが多数あるものの、その分強力なスキルと素早い身のこなしが魅力なクラスだ。
その中には万人のイメージ通り空を飛ぶ《ムササビの術》がある。速度は決して速くないものの、距離を離す移動手段としてはとても優秀なスキルだ。だが、
「おっと読者さんそれはダメだよぉ。ユーガ氏相手に遮蔽物のない空に逃げるなんて最悪手。射線を完全に切らなきゃ、あの人は見えていなくても当ててくるからね」
カモメのチャンネルのリスナーは一般的に「読者」と呼ばれる。新聞をイメージしてカモメ本人がつけたのだ。
『えぇ……』
『マジかよ。このゲーム弾道落下あるのに上にいる奴に当ててくるんか』
『
「いやぁ……投げナイフで器用に布だけ裂かれて自由落下はヒュン、ってなったよねー……」
『あっ……』
『ひぇっ』
『体験済み……でしたか』
『わからされちゃってたのかぁ……』
必死に走りながら遠い目をするカモメに察する読者たち。
それを横目に、カモメは枝に掴まり幹を蹴って、立体的な忍者らしい高速機動で森の外を目指す。
「まぁ森を出てしまえば、あとはライドアニマルちゃんでひとっ走りして逃げ切れ――」
と、その時だった。
ドオォォン! と、爆発音が響いた。
「うわぁっ!?」
森を駆けるカモメの前方十メートル付近で、爆発が起こる。驚いたカモメは枝を掴んで宙返りすることで停止してしまった。
「えっ? なになに? モンスター!?」
慌てて辺りを見回すが、それらしきモンスターどころかプレイヤーすら見えない。
だが、そうしている間にも。
「えっちょ、なに!? ナニコレー!?」
前方から行き先を塞ぐように次々と爆撃されていく。
そしてそれがみるみるうちに自分の方へと迫ってくるのだ。
「キャーーー!!!」
さっきまでの余裕のある態度もなりを潜めて、絨毯爆撃から逃げるために一目散に逃げ戻る。
「ちょっと待ってちょっと待って待ってってばーー!!」
迫る爆撃音、背中に感じる熱風がどんどん近く熱くなっていく。コメント欄を見る暇も無く、カモメは逃げる。
「あぁ〜〜〜〜! もう無理無理無理!! ひゃあ~~~~!!!」
一際近くで起こった爆発がカモメの小さな体を軽々と持ち上げ、女忍者の体躯は森の中を飛んだ。
爆風によって吹き飛ばされ、ぐるんぐるんと回るカモメ。すぐにどしゃっと着地したが、何が起こったかわからなかった。
「うぅ……いったいなにが……」
「
両手をついて体を起こしたのと同時に後頭部にあたる硬質な物体と、やけに綺麗な発音でかかる降伏宣言。
「やっほー。久しぶりカモメちゃん。またまた私達で視聴者伸びたみたいだねー?」
そして上からかかる、肉食性を抑えきれない明るい声。
「あ~、え、っとぉ……もしかしなくても、詰みですかぁ?」
「ああ、そうだな。出演料と情報料はきっちり取るタイプなんだ、俺は」
「みーとぅー♪」
手をあげつつなんとか見たのは、凶悪な笑みを浮かべたカップルだった。
「悪いな読者諸君。こっから先は、カモ虐の時間だ」
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