激戦を終えてパパラッチ


「あっはっはっははは! 勝ーった勝った! 私たちが初討伐だよ!」

「これでまた俺たちの強さが証明されちまったなぁ!」


 気分は宝の山に飛び込んではしゃぐトレジャーハンターだ。

 実際トレジャーハントと言っても差し支えないだろう、未討伐だったフィールドボスの討伐なんだからな!


「さーて、激戦後の至福の時間よ……!」


 近くの大きい根に腰掛けて、リザルトの確認をする。

 ドロップや経験値などのリザルトを確認する瞬間が、一番生を実感する!



・ドロップアイテム


アクセサリー『森緑竜の首飾り』

深い緑色の宝石が埋め込まれ、竜の意匠が施された木製の首飾り。

山のごとく佇み倒れぬ峰山竜の力は、倒したものに命の力を吹き込む。


ダメージを与えるほどにその半分の数値分、自分のHPを回復する。

戦闘終了まで、受けたダメージ量に応じて最大HPの上限を上昇させる。

VITに上昇補正。


 アイテム『峰山竜の不滅魂ふめつこん

 峰山竜の消えること無き不滅の宝玉

 かの竜は生きとし生ける生物の源を吸い取り糧とする

 自らが滅びぬよう、不滅であるように


・ヴァルトベルクの通常ドロップ素材


『経験値を獲得しました』


・初討伐ボーナス

『50SPスキルポイントを獲得しました』


『レベルが2上がりました』



「――っくぅ~~っ!」


 レベルが上がる。それも一気に二つも。

 しかも50SP、実に5レベル分の獲得量だ。スキルを獲得するためのSPがモノを言うこのゲームにおいて、5レベル分はデカい!

 ふはははは、これだからフィールドボス狩りはやめらんねぇぜ!


「あ~さいっこうじゃねぇか……ソーナそっちはどうだった?」

「レベルが3も上がった! しかも50SPも……! あ~来て良かったぁ!」


 ステップまで踏むソーナ。わざわざこんなところまで来て、未討伐のフィールドボスと戦ったからな。


「ちょっと作ってみたいスキルがあってね。SPが全然足りなそうだったから、欲しかったんだ。ありがとユーガ!」

「なるほどねぇ。こんなとこまで出向いたのはSPが欲しかったからか」


 SPの溜め方はいくつかあるが、どれも地道なものだ。

 一気に欲しいのなら、自分が倒していないボスモンスターを倒したり、難しいクエストを受注してクリアする必要がある。


 俺たちはスキル充実のためにだいたいのボスモンスターは倒してしまった。だから、まだ挑戦も、討伐すらもされていなかったヴァルトベルクを倒しに来たんだ。


「結構キツかったけどな」

「うっぐ。だって昨日ゼウス・デウス戦で私達すっごく活躍したから、イケると思っちゃって……そ、そうだ! ドロップの方はどうだった!?」

「露骨に話題逸らしたな……そうだな、俺は甲殻やらの素材がいくつかだろ。それに、不滅魂っていうレア泥っぽいのと、アクセサリーだ」

「私はレアアイテムはなかったなー。アクセサリーは私も貰ったけど。『森緑竜の首飾り』ってやつ」


 それほどレアでもなかったのか? いや効果は強力だしなぁ……二人して強運発揮したのか?


「うーん、でもこれ……」

「私達使えないよね……」

「合わねぇ……俺たちと合わなすぎる……」


 俺もソーナも紙防御の「当たらなければどうと言うことはない」教の信者だ。

 レベル100という大台を過ぎたステータスで防御は捨てているから、いまさら少し増えた程度では焼け石に水。


「回復性能は優秀だけどなぁ……」

「カスダメ回復くらいしか使わないね。あって困らないけど無くてもいい。これつけるなら私ステータスアップ系のアクセつけるよ」

「だよなぁ……ガオウには合ってるだろうけど、どうせそのうち取りに来るだろうし。死蔵品か?」


 これまで獲得してきた、使わないけど売るには勿体ないレアアイテムがまたホームの倉庫に溜まっていく……。

 結局、ヴァルトベルク戦のリザルトはこんなものだった。正直レベルアップとSPの方がうまみが強いように感じる……。

 さて。



 これだけせてやったんだから、そろそろネズミ……いやの方も満足だろう。



「じゃあそろそろ、取り立てしないとなぁ」


 俺は右腰のホルスターに収まっているエレイルを抜き放つと、ずぅっとゴソゴソしている後ろのヤツに向けて不意打ち気味にぶっ放した。


「うひゃあっ!?」


 その弾は少しズレた木に当たったものの、小さく悲鳴が聞こえる。


「あ、やっぱりいた?」

「ああ、外してやったから逃げた」


 近づいて下手人がいたと思われる場所を覗き込んだが、すでに影も形もない。


「街を出た頃からいなかった? ずっとあの子に見られてる感覚があったんだけど」

「そのあたりから察知してたのかよ。俺は森に入った頃からいるな、とは思ってたけど」


 森には足音を鳴らす物がたくさん落ちている。隠密系のスキルでかなりの音は消せるが、俺は五感には自信がある。


 ソーナの場合は完全な勘だ。

 このゲームには知り得ない物を知らせる直感システムなんてものはない。第六感で探知してるよこの彼女……。


「ま、せっかくネタを提供してやったんだ。逃がすつもりはないよなぁ」


 幸い、ヴァルトベルクのおかげで高い木々は薙ぎ倒されている。


「《ファイア》」


 俺は太い銃口を持つ銃を、《固定換装》で両手に装備した。


*****


「うっひゃぁ~ユーガ氏ぇー、容赦ようしゃねぇー!」


 ユーガ達から少し離れた森林の中。

 そこには引き攣った笑みを浮かべ森の中を走る、深緑色の忍装束に身を包んだ女忍者の姿があった。

 彼女のPNはカモメ。


 中堅クラスの『配信者』であり、プレイヤー全員から恐れられる盗撮記者パパラッチである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る