《森林峰山竜 ヴァルトベルク》3



 そもそもなんでドラゴンが森の養分を吸収できる?

 操る根そのものがアイツと同じくらい硬い?

 それは全部、簡単なことだった。


 ヴァルトベルクはドラゴンであり植物。木のモンスターであり、トレントなんかと同じ系列、植物型モンスターの要素を持っている!

 養分吸収による回復も、攻撃に使われる根も全部ヤツ自身。おそらく踏ん張っている前足から根を張ってるんだ。

 植物を纏っているんじゃない、奴の甲殻自体が半分植物なんだ。


 なんでその可能性を考えなかった、ドラゴンの見た目で思考停止しすぎだろクソが!


「あぁぁああ何してたんだコイツに挑んだヤツは! みんな頭硬すぎるだろ!」

「私達もね! 完全にドラゴンの見た目で可能性忘れてた!」


 仕方ないけどな、あんなザ・ドラゴンな見た目のヤツだもんな。でも炎が効く時点で考えろよ……!


「だけどこれで突破口が見えた!」

「うん、ヴァルトベルクは植物型のモンスター! ってことは……弱点も同じ!」


 LFOの植物型モンスターは、共通した弱点を持っている。それは――


「状態異常! ボスには効きづらいけど、君はどうなんだろうねぇ!」


 現実に基づいた設定を多く盛り込む運営が、植物は毒に弱いとでも解釈してるんだろうか。まあ実際強い病気なんかにひどく弱いものが多いけどな。

 そして運のいいことに、状態異常にするための手段は俺もソーナも持っている!


「ソーナ! アレ持ってきてるよな!?」

「もちろん! パリィができなくなるから多用はしないけどね……《ホーネット》!」


固定換装セット》の効果によって、ソーナの両手の武器が切り替わる。作ってて良かった、状態異常属性武器!



毒蜂細剣ホーネットピアーズ

 その針は、その毒は身を守るためにあるのではない。獲物を仕留めるためにある。

 様々な毒を保有しており、攻撃のたびに毒を注入する。

 鍔の裏にあるスイッチを切り替えることで、毒、麻痺、睡眠の三種の毒を切り替えることができる。



 様々な毒を持つ蜂系モンスターの素材から作られた美しい緑の細剣レイピアが二振り、ソーナの手に握られる。それはまるで、麗しい戦乙女が隠していた細い翼を広げるように。


 LFOの武器は耐久値が設定されている。耐久値が尽きてもロストするわけではないが、修理が必要になり、直したとしても性能が落ちる。レイピアなんて脆い武器で攻撃を受けたりなんてすればたちまち壊れるだろう。


 回避とパリィを主体にするソーナのプレイスタイルには合わないが、元は刺突しか出来ないエストック状の剣になる予定からレイピアにまで形を変えたのだ。

 だって元の素材は蜂の毒針だからな。精いっぱい頑張って使いやすくしたから、あとは自分で頑張って欲しい。


「じゃあ俺も状態異常の弾丸に変えまして、っと」


 弾丸を変えれば攻撃力や効果が変わる銃の特性を活かし、俺も状態異常攻撃に切り替える。俺たちとヴァルトベルクは、なんだかんだあっても相性がよかったらしい。

 なぜなら……俺たちは三種の状態異常をローテーションすることで、状態異常が効きづらくなる、状態異常の耐性値を上げにくくできるんだからな!


「ハハハ! タネが割れればこっちのもんだぜ!」

「まずは毒にしちゃおっか!」


 ソーナが風のように駆け抜ける。毒蜂細剣は複数の毒を保有する都合上一回の攻撃で溜まる状態異常値が低い。

 だがソーナの連撃をもってすればそんなものは関係なくなる。

 突く、斬る、刺す、裂く。エンジンがかかってきたソーナがもちうる強化魔法を全て重ね掛けし、ヴァルトベルクの巨体まで足場にしてその体を傷だらけにしていく。


「痺れて眠って毒で苦しめ!」

「うわぁ、セリフが悪役だなぁ……」

「作った本人がなに言ってんの!」


 武器は作ったけどそこまで悪役する想定はしてないから俺は悪くない。

 状態異常がメインの武器なので攻撃力は控えめだが、コンボを繋げるほどSTRが上がる《千々剣舞サウザンドラッシュ》の効果で単発の攻撃力も上がっていく。


 前に創った本人に聞いてみたが、この《千々剣舞》におけるコンボの定義だが、攻撃してから三秒以内に攻撃を当てることらしい。

 通常は一方的に攻撃できるような敵にしか使えないスキルだが、ソーナはどんな敵にもコンボを繋げられる。

 攻撃が来ようとも回避し斬り続けられる天性の反射神経と体捌きで、ソーナはコンボを繋げるのだ。


 おまけに、ヴァルトベルクが攻撃で使ってくる根もヴァルトベルクである。

死線加速デッドエンドアクセル》との併用で、状態異常値と火力は際限なく高まっていく。


「ギュゥゥアアアアア!!!」


 雨あられのような剣戟けんげきと、俺の毒属性弾丸『猛毒弾ポイズンバレット』による銃撃の積み重ねで、ついにヴァルトベルクが毒の状態異常にかかった。

 全身から紫っぽい毒のエフェクトを撒き散らしながら、巨竜が悲鳴を上げる。

 そのHPは毒状態になった瞬間から目に見えて削れはじめ、仮説が正しかったことを教えてくれた。


「ハッハー! これたぶん防御力も下がってんじゃねぇか!?」

「うんうん! さっきから岩を斬りつけてたような感触が大木を斬りつけてる感じになった! 柔らかくなってる!」

「なんでコイツ樹木なのに岩レベルで硬かったのか……てかわかりづらいなぁそのたとえ……」


 どっちも硬いのは同じだろうに、硬さの違いでもあるのか? というかわかるのかソーナ……


「次は麻痺……って、ヤバい!」


 ソーナの声でヴァルトベルクを見てみると、例の回復行動をとっていた。


「ここまで削っても回復されたら意味ないよ!? 麻痺も間に合いそうにないし……!」

「大丈夫、当たりはつけてる」


 ソーナは焦っていたが、俺はなんとかなるんじゃないかと踏んでいた。その根拠は。


「たしかテメェ……顔面への豆鉄砲が嫌いだったな?」


 まだ第一形態のとき、頭部に攻撃をしているとたびたび怯むことがあった。

炎属性での特定部位への攻撃による怯み値ボーナスとかそんなものなんだろう。それでも大きなダメージを出さなきゃいけないくらいの値なんだろうが……。


 俺は、炎属性ダメージをピンポイントで、五発までなら確実に、クリティカルで叩き込める。

 毒属性の弾丸を排出し、炎熱弾ブレイズバレットを装填する。


「《トライショット》! そして《クイックドロウ》!」


 エレイルとセレイルを両腰のホルスターに戻し、三連射するスキル《トライショット》を二丁拳銃で行う。

 最初の三連発×二で六発! そして後の四発で計十発。


「喰らえ豆鉄砲ガトリング!」


 このゲームではフルオートの銃は作られていないし、ドロップ武器でも確認されていない。だが疑似フルオート射撃は可能だ。それも精度は保証済みのな!

 いくら豆鉄砲とはいえ全弾クリティカルで撃ち込まれたヴァルトベルクの頭部は、弾けるようなエフェクトを受け、


「――ギュァアッ!?」


 その巨体を大きく揺るがし、根を張っていると思われる前足を地面から抜かせることに成功した。


「ハッハッハァー! 回復キャンセルゥ!」

「ユーガかっこいいー! ヒュー!」


 ふはははは! 恋人の賞賛も気持ちいいねえ!

 今までダメージもソーナに負けてたんだ。こういうことくらいはいい格好しないとな。


「さあ、回復は俺が邪魔する! 好きなだけ斬り刻め、ソーナ」

「オッケー!」


 ソーナがカチリ、と毒蜂細剣の鍔にあるスイッチを切り替える。それにより、蜂の毒針に滴る毒の種類が行動を阻害するものに切り替わった。


「麻痺らせていこうか!」


 機動力特化の白銀が空を舞う。

 敵の攻撃を弾くたては失われたが、より命に届くを携えソーナは舞う。まるで蝶のように、そして蜂のように。

 さながら戦場に舞う戦乙女のように、森林竜のポリゴンを撒き散らす。


「グガァッ!?」

「よっし麻痺った! ここから!」

「一気に決めるぜ! ソーナ!」

「《スタンダード》! 《超過加速オーバーロード》!」


 火力を出すために、ソーナの武器が《固定換装セット》により元々持っていた銀と紅の二本の剣に、そして速度を出すためバフスキルを。

 俺は両手に握る実弾銃と光学銃に炎熱弾ブレイズバレットを装填し、その弾丸に後を捨てて威力を底上げする一発限りの攻撃スキルを仕込む。


 そして――


「《クレッセントスラッシュ》!」

「《一弾必殺ワンショットキル》!」


 三日月を描いた斬撃エフェクトがヴァルトベルクを斬り抜け、紅く燃える弾丸が横っ面に叩きつけられ。

 ヤツのHPバーには1ドットすらも、光は残っていなかった。



『フィールドボス、《森林峰山竜 ヴァルトベルク》を討伐しました』



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