《森林峰山竜 ヴァルトベルク》2
「DPS足りてねぇぞ! つーか鬼防御力なのにHP半分削ったら回復行動ってクソモンスかぁ!?」
「二人で挑んでるなんて舐めプ同然だからそうとも言えないんじゃない?」
「つーか大人数で挑んで倒せてなかったじゃねーか! 舐めプ関係なくクソモンスだろコイツ! なんで勝てると思ったんだソーナ!?」
「二人してゼウス・デウスに大立ち回りして調子乗ってましたごめんなさい!」
ヴァルトベルクがタルス大森林において頂点に立てる理由、それはこの広大な大森林の
二本目のHPゲージを半減させた段階で、地面を踏みしめて体力を回復させるクソ行動を始めるのだ。それは二本目のHPゲージを全回復させるまで続く。
おまけに二本目に突入した時点で魔法か何かだろうか、地面から根っこ出現させてそれを操って攻撃を仕掛けてくる。
ヴァルトベルクは『強い、硬い、速い』の三要素を、速さの分を硬さに回して攻撃範囲と回復力を追加したようなモンスターだった。……いや速さがあるヤツより面倒で強いんだが?
その証明に、一本目を削りきってから、ヴァルトベルクを一歩たりとも動かせてすらいない。
「防御力が並外れた敵に回復をつけるなと昔から言われてるだろうが……!」
鋭く尖った根っこが俺を串刺しにしようと迫ってくる。
ヴァルトベルクの能力なのか、この根もアホのように硬い。普通の木の根が絡み合った硬い地面でも柔らかいケーキのように串刺しにしやがる。
俺の保有しているスキルの中で唯一の回避スキル、《スリップスロート》を起動して、攻撃の隙間を縫うように避ける。
このスキルは軸点の座標を決め、そこを中心に弧を描くように地面を滑るスキルだ。
軸点がコンパスの針で、描く線が自分の軌道になるイメージで使うとやりやすい。
《スリップスロート》はその慣性が止まりさえしなければ延々と軸点の更新ができる。これを使ってる間は集中して銃を撃つ余裕なんてないが、小回りがかなり効く便利な回避スキルだ。ぐおんぐおんと振り回されるのが難点だが。
「うおぅううおお! 凄い振り回されるけどやっぱ避けれるなあこれ!」
「波状グラフみたいな機動いつも見ても笑えるんだけど!」
「上がったり下がったりしてるやつか……」
確かに上空から見ればそう見えるんだろうか。
そびえ立つ樹を足場に、攻撃してくる根を足場に、果ては大気さえも足場にして飛び回るソーナが上から笑ってくる。
脅威の空中歩行を可能にするソーナのぶっ壊れスキルその
俺がこんなに回避に苦労してるってのに、悠々と空を駆けて避けている……これが機動力特化の極みか、羨ましいな。
ソーナは楽々、俺は四苦八苦してヴァルトベルクの猛攻を避けきり、落ち着いたところで適当に殴りながら作戦会議を始める。
「これどうする? このままじゃ終わらないよ?」
「諦めるって方向はまだ無いからな……案その一」
「なぁに?」
「回復が尽きるまで殴る」
「ベターだけど、見る限りこの森の養分吸収して回復してるでしょ? それだと終わりが見えないって」
そうなんだよなぁ。
このタルス大森林の養分全てを吸収できるなら、戦うだけ無駄だ。倒せるように出来ていない。やはり回復を止めるギミックか、だけどこれまでそれらしいことはなかったんだよなぁ。
「案その二!」
「聞こうか軍師ソーナ」
「半分になったところで残りのHP全部消し飛ばす!」
「俺が離脱していいなら希望はあるかもしれないが厳しいな。いやこのVITオバケの体力を消し飛ばすなんてできるわけないだろ!」
遠くからなら俺もデカい一発をお見舞いできる。おそらくLFOでも随一の火力を。
だがこんな樹ばかりの場所じゃそれも難しいし、なによりソーナ一人だけでこれを半分削るのも厳しいだろう。
これもベターだが、ヴァルトベルクの防御力を相手にできるものでもなさそうだ。
「いやこれ……きっついなぁ。どうにか回復モーションをキャンセルできれば……!」
「それをどうやってやろうかって話だよね!」
マズい、ヤバい! このままじゃ絶対こっちの気力が先に尽きる!
さっきからいくら攻撃加えてもどっしり構えてて動かないんだぞ!? あれじゃ回復行動のキャンセルなんか出来ねぇ!
地上に降りてるソーナも殴っているが、やっぱりダメージが足りない。
……詰みかな?
なんとなく、そんな考えが頭をよぎったときだった。
「グォゥルルルルル…………!!」
それは第二形態に入ってからの時間経過だったのか。
はたまた一定ダメージが条件だったのか。
いったい何がフラグだったのかはわからないが、
まるで弓を力いっぱい引くように、多数の根が空に伸びる一本の棒になるまで締め付ける。
「おいおい待った、ここで溜め技は……!」
「終了のお知らせかな?」
「してたまるかよ!」
しかし無慈悲にもヴァルトベルクのモーションは待ってはくれない。それはまるで力を圧縮するようにギチギチと締め付けて――爆発した。
巻き付けていた根が、台風のように周囲を薙ぎ払う。
「こなくそぉ!」
俺は《スリップスロート》を起動するが、このスキルには弱点がある。
それは足が設置していないと滑れないこと。つまり上に逃げられない。例えばそう、今回のような縦に狭く横に広い攻撃の場合はソーナは《
だが、
「ユーガ!」
ソーナが叫ぶ声が、聞こえた。
「地に足ついてなきゃ滑れない? なら、上に続く足場を滑ればいいだけだろうがよォ!」
見栄くらい張らせてもらうぜ、彼女の前なんだからな!
幸いなことに、ここには上に向かう地面がある。
巨大な大木だ。丸い足場なので軸点の設置が鬼難易度だが、その円周は人一人が滑るくらいの広さはある――!
まずは無事に生えている木を登る。コンマ数秒単位で軸点の更新を続け、薙ぎ倒されて倒れつつある木に飛び移る。
倒れながら刻一刻と角度が変わる木の幹を足場に、俺は螺旋を描いて登ってゆき、木の頂点に到達した俺は、上空へと飛んだ――
*****
目隠しで綱渡りをするような難易度だった。
細かすぎる軸点の設定をなんとかこなし、攻撃に当たるギリギリを避けられた。
足場に使った樹は吹き飛ばされて巻き込まれかけたものの、俺は無事だった。
「《スリップスロート》くん大活躍じゃないか、やりゃできるんだやっぱ……!」
「使いづらいスキルなのによく使いせるよね……」
「NPCとクズスキルは使いよう、だぜ? にしても随分とまぁ禿げさせちゃって……」
今の攻撃で一帯の森が薙ぎ倒されている。ソーナの足場がかなり減ったが、それよりも問題なのは。
「なんで薙ぎ払ったんだろうな?」
「なんでって?」
「周囲の木の根は攻撃に使ってるんじゃないのか? 今までは魔法で操ってるもんだと思ってたのに……」
「あ、そっか。私は回復も周りの地面と植物から吸収してるのかと思ってたのに……そもそもいらないってこと?」
根は攻撃に使っているんじゃない。木から養分を吸収しているんじゃない。
ヤツは地面を踏みしめていて、一歩も動いていない。
「あ」
今までの情報が頭の中で繋がって、あまりにも簡単な答えが弾き出された。
「この……ッ、アホめ……!」
過去にコイツに挑み、仕組みに気付かなかった先人たちに言ってやろう。
「お前は馬鹿だ」と。
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