《森林峰山竜 ヴァルトベルク》1



 一口にボスと言っても、LFOにおいてその種類は一つではない。

 まず、そのエリアを抜け次のエリアに行く場合に倒さなければならない『エリアダンジョンボス』。

 これはその次のエリアに行くための試金石の為、エリアの端やダンジョンのボスとして立ちふさがっている。

 しっかりと準備していれば難易度はそれほどでもないボスだ。


 そして、エリアボスとは違いそのエリアを徘徊している、もしくは一定の場所に鎮座しているモンスター、『フィールドボス』。

 数いるフィールドボスは、ほとんどがそのエリアの適正レベルでは倒せる設定をしていない。

 なにせフィールドボスは、正真正銘『その領域フィールド頂点ボス』。生態系の頂点であり、その地の恩恵を一身に受けたモンスターである。


森林峰山竜しんりんほうざんりゅう ヴァルトベルク》は、タロス大森林のフィールドボスにあたる。


 タロス大森林は最前線ではないとはいえ、難易度が高いエリアだ。平均レベルは65前後。俺たちから見ると低いように思えるが、大量のモンスターが出現するポップ率を考えればまさに魔境である。

 同レベル帯で入ればまず間違いなく死ねる危険地帯だ。


 そんな場所で王として君臨しているヴァルトベルクのレベルは、なんと120。

 背中から草木が生えた四足歩行の亀のような姿かたちでありながら、全高十メートルを誇る巨体。峰山竜の名に恥じない体躯を持つ。


 正直、レベル112の俺と114のソーナでは少々骨の折れる相手だな。

 ましてや多くのゲームで体力が豊富で硬いモンスターとされている地竜タイプのドラゴン。戦いが長期化するのは必然だったと言える。


 戦闘開始から十五分ほど、殴り続けた俺たちだったが、


「ったぁ硬ぇ!」

「これだけ攻撃してるのに全然削れないんだけど!?」

「俺がダメージ出せてないんだろなぁ……!!」


 戦闘になる前、俺のありったけのスキルを叩き込んだ、スナイパーライフルでの狙撃を頭部にぶち込んでやった。

 それでも二本あるHPのうちの一本、その三割ほどしか削れなかったヴァルトベルクの防御力は、たしかにドラゴンの中でも破格だと言えるものだった。


 というかデカすぎて硬すぎて、俺がクリティカルを撃ち込める弱点が少ないんだ。

 体に生えた木を振り回してくる攻撃をなんとか避けながら、俺はヤツの目や関節に攻撃する。クリティカル判定が出せそうなところがそこしか無いからだ。


 クリティカル特化な俺はクリティカルが少なくなるだけでDPS秒間火力が落ちる。

 体型は四足歩行の地竜タイプだが、木を纏った姿から炎系の攻撃が弱点だと推測して、炎属性が付与される弾丸『炎熱弾ブレイズバレット』で戦うことで誤魔化してはいるが、それでも少なくなったクリティカルの分ダメージが落ちていた。


「ユーガ、大丈夫!?」

「あんまり良くないなぁ……バカでかい氷山をツルハシで削ってる気分だ」

「戦艦持ち出してくるレベルじゃんそれ」


 戦艦があったらいいなぁ。

 そんなことを言ってもここは陸地だ。陸上戦艦なんてこのゲームにはない。いや戦車はありそうだな、神代の時代製で。

 作れるモンなら作ってみたいもんだ……はい目潰し!


「《クイックドロウ》!」


 銃をホルスターから抜いて一秒間の攻撃に補正が入るスキル《クイックドロウ》を起動する、いわゆる早撃ちだ。俺なら一秒あれば五発はクリティカルに当てられる!


「HPあんま減らねぇから豆鉄砲扱いだろうが、眼にビシビシ当てられればウザかろうウザかろう!」

「激怒案件だよねそれ」


 顔面には怯み値ボーナスが設定されているらしく、ほんの少し仰け反るヴァルトベルク。そこに襲いかかるのは銀の風!


「《炎属性付与エンチャント・ファイア》、《ジェットスタッブ》!」


 炎を纏った二本の剣を構えたソーナが高速で突っ込んだ。高位の突進刺突スキルは足下の絡み合った根や枝葉も貫き、ヤツへ刃を届かせる。

 ズゥン……ッ! と重い音を轟かせて、ヴァルトベルクに剣が突き刺さる。これには奴もたまらないようで、悲鳴を上げて暴れる。

 ヴァルトベルクの背中に青々と生えた樹木が、ハンマーのように振り回される


「《フリー》! よっ、うわっ、ほっと!」


 あらかじめ設定したキーワードで、対応した装備に瞬時に換装できるスキル《固定換装セット》で両手を開けたソーナが、振り回される樹木を曲芸のように飛び回って避ける。

 だが今の一撃で、ヴァルトベルクの長いHPの一本目が削れたわけだ。


「グァァァアアアアアア!!!」

「これでやっと折り返しィ!」

「けど例のギミックがほんとなら、折り返しってレベルでもないけどねー」


 俺たちはその場の勢いで行くのが好きなタイプだ。すでに攻略された敵でも場所でも、あまり下調べはしてこない。

 だが最低限は調べる。このヴァルトベルクは今まで倒されたこともないフィールドボスなだけに情報は少なかったが、HPを半分削ってからが本番だということはわかった。


 ズンズウン、と前足を地面に突き刺すように踏ん張るヴァルトヴェルク。

 周囲の土が盛り上がり、そこからボコボコと顔を出したのは――


「木の根……それにツタか?」

「あれ触手プレイ出来るかな、ユーガはそういうの好き?」

「ノーコメント。あれはどう見てもぶっ叩く突き刺す絞め殺すに特化してる方だろ、柔らかさの欠片もなさそうだし」


 尖ってるしヒビ割れてるし、ヒュンヒュン音鳴るほど振り回してるからなぁ……


「叩かれてこようか?」

「一発で死ぬだろやめとけって。第一、自分以外が叩くのは――って、はっ!?」

「Sの方なんだぁ……?」


 誘導尋問!? ぬかった!

 だが反論もなにも言うことは出来なかった。


 周囲に生えたヴァルトベルクの凶器が、一斉に向かってきたからだ。

 地面から槍のような根が生え、鞭のようにしならせた堅いツタが迫る。

 言葉を発する余裕もなく、俺は回避に集中せざるを得なかった……


「大丈夫だよー! 私はユーガ相手なら叩かれても――」


 こんな状況で喋れるソーナの回避力すげぇな……!


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