疾風怒濤と百発百中
広いエリアを誇るLFOが、機動力に難があるプレイヤーのために用意した方法、それが『ライドアニマル』だ。後半の街で買える結晶石を使うことで呼び出せる召喚獣だ。
とはいっても、正直なところ超鈍重タンクでもなければ使われることはあまりないが、それでも長距離の移動にはもってこいだ。
一部にはひたすらライドアニマルを集める愛好家もいる。可愛い奴も多いしな。
目的地の近くの街にファストトラベルで移動し、そこからライドアニマルに乗って移動する。
俺は馬、ソーナは小型ドラゴンだ。いやドラゴンて。
俺とソーナはライドアニマルを駆り、最前線から少し離れたエリア『タルロ大森林』にやってきていた。
前線でもないのに全容を把握されていないほど広く深い森の中は、暗くがさがさと木の擦れる音が周りから聞こえてくる。
このタルロ大森林は多くのプレイヤーに不人気な場所だ。
その理由は、この視界が悪い地形に加えて……
モンスターの数が、異様に多いこと。
ゲーム内では別名、『
*****
環境音しか聞こえない森に、二発のけたたましい銃声が響く。
俺の放った実弾とエネルギー弾それぞれの銃撃で、二体の巨大熊の頭を撃ち抜いた。LFOは急所が現実と同じように作り込まれているリアル志向のゲームなので、二匹ともクリティカル判定を叩き出しHPをガクンと減らしたのがわかった。
「ソーナ!」
「任せて!」
大ダメージで怯んだ二体の熊に、銀色をベースとした軽鎧を装備したソーナが肉薄する。
俺の武器は二丁の大型ハンドガン。ソーナは二本の片手剣だ。
首に一閃、胴体に一撃、その他関節に何斬か。目にも留まらぬ連撃を叩き込まれた巨大熊は弱々しい断末魔をあげて、無数のポリゴンとなって爆散した。
だが息つく暇も無く、新手が木の上からやってくる。
「次は
「わかった。上にいるやつ片付けるわ」
「了解。木から降りてきたやつ相手するね」
魔法を扱い群れで行動する猿型モンスター、『
こいつらは猿のくせに魔法を使い群れる性質があるので、近づいてこない奴は遠距離武器持ちが対処するのが
「《
次の射撃による攻撃倍率を三倍にするスキル、《
一発でHPを全損させなければそのあとの四発の攻撃力が半減するリスキーなスキルだが、その分攻撃力補正は高い。
俺の銃弾は魔法を発動させようとしていたサルの頭に命中し、スキルによる補正、クリティカル補正で威力が底上げされた攻撃は、軽々と猿のHPを吹っ飛ばした。
ちらりとソーナに目を向ければ、ちょうど一体目を倒していた。
降りてきた奴らは魔法による接近戦担当なのだろう。
もう一匹が体に風属性魔法を腕に展開してソーナに攻撃をしてくるが、紙一重で避けて斬撃を三回、バランスを崩したところに四回ほど斬りつけるとあっけなくポリゴンとなって霧散した。
相変わらず惚れ惚れする戦いぶりだ。剣を下ろした姿が本物の
「ギィィイイイ!!!」
「ソーナに見蕩れてんのに邪魔すんな」
左後ろの樹上から飛びかかってきた魔導群猿にノールックでヘッドショットを叩き込み、落下したところに何発か撃って倒す。
人の楽しみを邪魔するからだ。
「これだからタルロ大森林は不人気なんだよ。次から次へと」
「どんどん戦えるのは嬉しいけど、ちょっと忙しいよねー」
新しく湧いて出てきた巨大イノシシを視界に入れながら愚痴を吐く。
タロス大森林は出てくるモンスターの数には事欠かないが、効率のいい狩り場には劣るうえ、忙しすぎるのが不人気の理由だ。
今の俺たちはだいたいレベル110付近。先日の一周年記念大型アップデートで追加されたクエストをクリアすることで解放される、レベル150が今のレベル
すでにカンストしている奴ら? あんなの廃人くらいしかできねぇよ、まだ学生な俺たちはそこまで人間捨ててない。
LFOはレベルアップで得たステータスポイントを各項目に振り分け、自分の能力を伸ばしていく王道のRPGだ。
そのステータスは自然に上がるHPを除いて、六つとなる。
HP(体力)・レベル、ジョブ、スキルによって自然に上昇。
MP(魔力)・MP量、MP回復速度、魔法攻撃力などに関与。
STP(筋力)・物理攻撃力、最大装備重量などに関与。
VIT(頑強)・防御力、HPなどに関与。
AGI(敏捷)・移動速度、跳躍距離などに関与。
DEX(技量)・クリティカルダメージ倍率、アバター操作精度、生産活動などに関与。
LUK(幸運)・クリティカル発生確率、ドロップ確率などに関与。
そしてこれに、レベルアップやクエスト報酬などで手に入る
強力なスキルはレベルが上がるにつれ創れるようになっているので、序盤はあんまり強いスキルは創れないんだが。LFOは既存のスキルも数が多くそれなりに優秀なので、そんなに困りもしない。
俺は今やほとんどのスキルを自分で創ったオリジナルスキルまみれの構成だけどな。
「おっと! 弱点を前にさらけ出してくれるとは優しいねえ!」
俺たちに向かって突進してくる《グレイトボア》の眼球と眉間を狙って、右手の赤い実弾マグナム『エレイル』の引き金を引く。クリティカルヒットを3連続で叩き込まれた巨大イノシシは突進の勢いそのままに倒れポリゴンとなって爆散した。
実弾銃は弾道の落下があるが、射程距離内の威力が一定で扱いやすいのが特徴だ。
なかなか尖ったステータスだが、銃という不遇な武器のシステムがそうさせる。
近距離武器や弓などの武器はステータス次第でいくらか攻撃力は上がるが、銃という武器カテゴリは遠距離、弾速が速いという強みこそあれど、ステータスがダメージに関与しづらい。
弱い銃はどれだけレベルを上げてもそのダメージが変わることがないので、LFOにおいて銃カテゴリの武器は不遇扱いを受けている。
攻撃力の基準となる出力が低めに設定されている上、相手の防御力に大きな影響を受けてしまう。相手が硬ければダメージが出にくいのだ。
おまけに、このゲームの銃撃は射撃時に独特なブレがある。
他のゲームなら素直なものが多いが、LFOではそれがとんでもない暴れ馬で、命中率が恐ろしく低いのだ。
好きな武器がここまでマイナス要素が強いといっそ泣けてくるぜ。
そんなダメージが出せない武器だからこそ、俺はクリティカルダメージ特化にした。リアル志向なゲームなだけにLFOは生物の弱点とかもリアル準拠なのでそこに当てればクリティカルが出る。
今だってソーナに樹上から奇襲を仕掛けてきた巨大な爪を持つフクロウに、左手の青い光学銃『セレイル』でヘッショを決めている。
エネルギー弾は距離による威力減衰が酷いが、その分威力が高く弾道が変わらない特徴を持つ。空中にいる相手を撃つにはぴったりだ。
……それにしてもなんで
「上から来たヤツ墜としたぞ!」
「ん、ありがとっ」
落ちてきたフクロウをソーナが地上の敵のついでとばかりに叩き斬る。
俺がいる限り、上空奇襲なんてさせるかよ!
両手のエレイル&セレイルも温まってきたところだ。ウォーミングアップのサンドバッグになってくれ!
空になった銃のマガジンを捨ててリロードしながら次の獲物を探す。早くしないとこの山のようにいるモンスターも根こそぎいなくなっちまうからな。
何故ならそろそろ、ソーナもアガってきただろうから。
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